05


風紀室から生徒会室に戻った藤真は何とか目処のつきそうな交流会の資料を机の脇に置き、コーヒーを淹れに簡易キッチンに立つ。

並々注いだカップを手に会長席に着き、別件に取り掛かった。

「………」

…少しして、防音の確りしているはずの生徒会室の扉の向こう側が騒がしくなる。そのことに気付いた藤真は鍵を掛けときゃ良かったかと舌打ちし、間もなく乱暴に開かれた扉に鋭い視線を向けた。

「会長!何ですかあの無礼な夕闇高校の面々!初対面の秋にいきなり手を上げたんですよ!」

「ありえない…」

「あんな奴らと交流会なんておかしいぞ!」

入室そうそう喚く副会長以下役員と、藤真に怯えつつ自己中な発言をする秋に藤真は眉を寄せ、鋭く切り返す。

「くだらないこと言ってる暇があるなら帰れ。俺は忙しい」

「なっ!?くだらないって秋が殴られたんですよ!立派な傷害事件じゃないですか?」

「そうだそうだ!」

勢い良くバンッと机に両手をつき、耳障りな音を発する奴らにはっ…と唇を歪めた。

「こんな時だけ一丁前に役員面か?…殴られたのはどうせてめぇらが常識も弁えず余計な事を仕出かしたのが原因だろう」

「っ、一方的に決めつける何て…」

「何だ?てめぇらが今までしてきたことだろう?それを、自分達の都合が悪くなった時だけ非難するのか?」

耳障りな副会長の言葉を遮り、切って捨て、藤真は話は終わりだと視線を書類へと落とす。

「…っ、分かりました。貴方にはもう頼みません」

ぎりりと憎々しげに藤真を睨み、踵を返した副会長以下役員と秋の背に、藤真は書類に判子を押しながら事務的に言葉を投げた。

「それから、てめぇらに生徒会室への入室の許可を出した覚えはねぇ」









初日の打ち合わせから二日後、朝陽高校に再び足を運んだ夕闇高生徒会の面々は門前で交流会は中止だと一方的に告げられた。

「どういうことですか?」

夕闇の副会長、智がやんわりとした声で聞き返す。

「言葉の通りです。傷害事件を起こす様な夕闇高校の方々とは交流会など出来ません」

それに、秋の取り巻きである朝陽高校の副会長がきっぱりと答える。

「何だよそれ」

鉄太が意味が分からないと呟くように言えば、朝陽副会長の隣に立つ会計がちらりと緋夕を見やり口を開いた。

「あれぇ、身に覚えがないとでも言うつもり〜?」

「ありませんね」

「ないな」

「ねぇな」

間延びした口調で告げられた台詞に、智と進、鉄太が当たり前の様に口を揃える。そして、カッと怒りに顔を赤くした朝陽側の役員を綺麗に無視して緋夕が口を開いた。

「佐桐はどうした?」

すると、怒りに震えていた顔から一転、副会長と会計はにっこりと歪んだ笑みを浮かべた。

「佐桐とは一体誰のことでしょうか?」

「あぁ!元会長のことじゃないのぉ?あの無能な」

打ち合わせの合った日からたった二日。朝陽側に一体何があったのか、夕闇側は眉をしかめた。

どうやら佐桐 藤真は緋夕達が思っているよりぎりぎりのラインに立っていた様だった。

そして、緋夕達は知らぬことだが、藤真と犬猿の仲にあった風紀委員長が今回の件には加担していたのだった。

藤真を嫌い、生徒会長の座から引き摺り落としてやるという副会長の甘言に乗った風紀委員長と、理事長の甥であることを利用した秋。

傷害事件を事件と扱わず切って捨てた藤真に問われた会長としての責任、その他諸々。これまでの些細なことを嫌みの如く積み重ねて問われ、理事長、風紀委員長から突き付けられたのは会長解任の通告。

昨夜遅く、生徒会室で仕事をしていた藤真に副会長と風紀委員長という珍しい組み合わせが訪ねて来て正式な書を渡された。

「即刻役員室から一般部屋へと移動して下さい」

「貴様の怠慢が招いた結果だ、佐桐」

ペンを走らせていた書類から顔を上げ、藤真は目の前に突き付けられた書を見て浅く息を吐く。
そして動揺することなく静かな声で応えた。

「分かった」

藤真があっさり承諾するとは思わなかったのか二人は驚いた表情を見せる。
私物など持ち込まない主義の藤真は手にしたペンを置くと、書を受け取り身一つで生徒会室を出て行った。

「堕ちたか…」

久々に自室へと帰ってきた藤真はそう呟くとさっそく荷物を纏めにかかる。だが、それは副会長に言われた様に一般部屋へ移る為ではない。

藤真はベッド脇に備え付けられたサイドテーブルの引き出しから予め用意していた書類を取り出すとクツリと皮肉げに唇を歪めた。

「まさか本当にこれを使うことになるとはな。…だが、道連れはごめんだ」

その書類と少ない荷物を手に最後に室内を見渡す。

「ほとんど使った覚えもねぇな。どっちかっていうと生徒会室の仮眠室の方が多かったか…」

そして藤真は生徒会長に与えられるその部屋を後にした。



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