03
まさか他校の、それも生徒会の人間が朝陽の風紀委員を締め上げ…もとい、問い質しているなどとは露とも知らず、藤真は生徒会長席に深く腰掛けると溜め息を溢した。
「これで一先ず安心だな。やることはだいたい去年と変わりねぇし、風紀に…」
と、言葉にしかけて口をつぐむ。
他校はどうか知らないがこの高校の生徒会と風紀は犬猿の仲だ。それも藤真の場合、役員が仕事を放棄し、親衛隊を野放し状態にしてからというもの関係悪化に拍車が掛かっている。
それでも行事の度に人を出向させてくれるのは、学園の為だからだ。
「気は向かないが…」
ガタリと、座ったばかりの椅子から立ち上がり、藤真は直々に風紀室に話し合いに行くことにする。
委員長の吉見 忠仁(タダヒト)は確実に嫌みの一つや二つ言ってくるだろうが、今の藤真にとっては些事。それよりも先程の夕闇高の藤崎に向けられた鋭い眼差しの方が頭の中をチラついて、気になってしょうがなかった。
あれは自分同様大人しく人の言うことを聞くような人間ではない。
交流会の資料を脇に抱え、藤真は息を吐く。
「間違ってもこれ以上問題を起こしてくれるなよ」
会長専用のカードキーで生徒会室に鍵を掛け、藤真は人気のない廊下を風紀室に向かって毅然とした態度で歩いて行った。
「馬鹿馬鹿しい」
これが風紀委員から朝陽高校で起こったこれまでの話と現状を聞いた緋夕の第一声である。
「俺だったらそんな自己中野郎、惚れるどころか口開いた時点でぶっとばしてるぜ」
「わぉ、緋夕ってば過激〜」
鉄太がちゃかす様に口を挟んでいる間に、智が風紀委員に一言詫びてこの場から解放してやる。
「でもさ、佐桐会長は何もしなかったわけ?見た限り大人しそうには見えなかったけどな」
進は緋夕の言葉を受けて疑問を口にする。そして意外にもそれに答えたのは早くこの場を去ろうとしていた風紀委員だった。
「しましたよ。会長は…ことごとく規則を無視して生徒会室に入りびたるその生徒に一度は手をあげました。けど、運の悪いことにその生徒は理事長の甥で、会長の方が停学一週間を言い渡されたんです」
会長のいない一週間で学校はガラリと変わってしまった。そして、復帰した会長が一番にしたことは溜まり場と化した生徒会室から役員共を閉め出し、生徒会業務を再開させること。
「はっ、ようは被害者面してるお前等もその役員共と何ら変わりねぇってことか」
藤真の話をしていたはずが急に自分に話を振られ風紀委員はむっとする。
「そうだろ?佐桐のいねぇ間に学校は変わった。それはてめぇらが何もしなかったからだ」
「なっ、何を!俺達風紀は…!」
「良くやった、か?無能のくせに吠えるな」
もう用は済んだと緋夕は勝手に話を切り、背を向ける。
「緋夕からみたら無能じゃない奴のが少ないんじゃないの?」
「俺等の会長は本当のことしか言わないんだ、悪いな」
鉄太はくくっと笑いながら、進は風紀委員に慰めだか何だかよく分からない言葉を投げ緋夕の後に続く。
「まったく、問題は起こさないで下さいって言ったのに」
最後に智が溜め息を一つ落として、風紀委員だけがその場に残された。
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