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さすがというか藤崎会長を始め、夕闇高校の面々は生徒会を務めるだけあって有能だった。

「…では、今年も例年通りということでお願いします」

「こちらこそ。宜しく頼む」

交流会についての話し合いはトントン拍子で進み、藤真は何とか無事終わりそうな会議に小さく息を吐く。

纏めた資料の次に、会議を始める前に淹れた紅茶に然り気無く視線をやり、新しく淹れるかと椅子を引いた。

もてなすのも仕事の内だ。

席を立って紅茶のおかわりを、とカップに手を伸ばした時、不意に強い視線が正面から向けられた。

「佐桐。他の役員どもはどうした?」

ここで、か。問われなかったから切り抜けられたかとも思ったが、抜け目無さそうな藤崎が見逃してくれるわけねぇか。

「そういえば居ませんね」

「おいおい、智。今さらだなー」

夕闇の副会長と会計がとぼけた会話を交わすの聞きながら、藤真は鋭い眼差しで問うてきた藤崎を見下ろす。

「奴等は来ない。初めから居ないものと思ってくれ」

そう告げれば藤崎達は訝しげな顔をし、問いを重ねられる前に藤真は先手を打つ。

「だが、安心してくれ。交流会に支障はきたさないと約束する」

これまでも、歓迎会や体育祭、その他細々としたイベントを無事乗り越えて来た。始めはろくでもない噂を信じて協力拒否をしてきた各委員会も、今なら多少協力してもらうことが出来るところまで信頼回復は出来ているつもりだ。

藤真は内情を明かさないまま、夕闇高校の面々には純粋に交流会を楽しんでもらい、さっさとお引き取り願おうと考えていた。

(これは俺達の問題だ。一時とはいえ部外者である夕闇を巻き込みたくはねぇ)







一人、藤真を生徒会室に残して夕闇高の面々は部屋を出る。

ガチャンと音を立ててしまった扉が自分達を拒絶している様で、何だが気に入らず緋夕は小さく舌打ちした。

「会長柄わる〜い。彼が怯えてるよ?」

「あぁ?」

鉄太に促されそちらを見れば、この高校に来た時につけられた案内係の生徒が突っ立っていた。

「ええと…、会長から門までの案内を頼まれまして」

自分達とは色の異なる制服。良く見れば深緑のブレザーには風紀委員を示す銀のバッチがつけられている。

「おい、お前」

そのバッチに目を止めた緋夕は元から鋭い眼差しを更に細め、案内係に近付くといきなりその胸ぐらを掴み上げた。

「ぐっ…っ、何をっ!!」

「ちょうど良い、面貸せ」

「ちょ、会長!問題は起こさないで下さいって…!」

緋夕の暴挙に副会長である智は慌てて胸ぐらを掴むその手を引き離そうと二人の間に割って入る。

「気にいらねぇんだよ。俺と対等の位置にいるくせに、情けねぇ面さらしやがって。それに、…お前は気にならねぇのか?さっきの話」

先手を打たれ聞けずじまいに終わった、役員どもが何故来ないのか。その理由。

「それは…、気にならないと言ったら嘘になりますが、朝陽側の問題ですし。佐桐会長が何も告げなかったのは俺達を気遣って」

「佐桐会長の気遣いは分かるけど俺も緋夕の言葉に賛成ー。だってそうでしょ?佐桐会長の力不足はともかく、ようは俺達はそのボイコットした役員どもに嘗められたってことだよ?」

書記の鉄太は智の言葉を遮り、へらへらとした顔で、けれど目付きは鋭く言い放つ。

「そういや、うち(夕闇)のモットーは売られた喧嘩は倍返しだったっけ」

さらりと会計の進が当たり前の様に溢した方針に、緋夕に胸ぐらを掴まれている風紀委員はぎょっとした表情を見せる。

「よく分かってんじゃねぇか」

それに緋夕がニィと犬歯を見せて笑い、手の内にいる風紀委員がヒッと息を飲む。冷たい、威圧感のある漆黒の瞳が青ざめる風紀委員を見下ろした。



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