05
その様がライヴィズにピッタリで、俺は思わずほぅと一瞬見惚れてしまった。
「カケル。こっち来い」
ジッと見つめていたら紫の瞳と視線が絡まり、その瞳には何か力があるのか俺は言われるがまま頷いてライヴィズの側へ足を進めてしまった。
ライヴィズは側へ来た俺の腰へ腕を回し、外を一望出来る程大きな窓の前へと立つ。
「ぁ…、おいっ!ライ!手ぇ離せ!!」
窓に写った自分の姿で、俺はハッと意識を取り戻し暴れた。
「ライとは俺様の事か?」
「そうだよっ、お前の名前呼びにくいんだよ!って言うかンなこといいから手ぇ離せ!!」
剥がそうにも剥がれなくて俺は一人悪戦苦闘する。
そこへ、ハイスが一人の男を伴って入って来た。
「ライヴィズ様。ノーナンバーのお酒コチラに御用意致しました」
男はそう言って、二つのグラスと一本のボトルが乗ったカートを押して俺達の真横で止めた。
「エンロ、ハイス。お前達はもういい。下がってろ」
「「はい」」
ライヴィズは俺の腰に腕を回したまま、片手でボトルを手に取ると二つのグラスに中身を注いでいく。
俺はなんとか腕を外そうとしながらコポコポと注がれる液体に視線をやった。
「赤ワイン…?」
グラスに注がれていた液体は赤ワインによく似ていた。
「片方持て、カケル」
そう言ってグラスを持たされ、俺は腕を剥がす事が出来なくなってしまった。
ライヴィズはもう一つのグラスを置いたまま、目の前の大きな窓を押し開けた。
途端、冷たい風が俺の頬を撫で天上に堂々と鎮座する満月が視界に入る。
そして、ライヴィズに連れられバルコニーに足を踏み出せば下から耳をつんざく様な物凄い歓声が上がった。
「わっ、なんだこれ。うるせぇ…」
「みんなお前を見に来てんだ」
「え?」
ぐいっと腰を引かれ、下がよく見える場所に立たされる。
「「「キャー、ライヴィズ様〜〜!!!」」」
「「「ウォー、サタン様〜〜!!!」」」
ライヴィズは民衆の声を片手を上げて制すると、満足げにニィッと口端を吊り上げた。
「皆の者、今日は良く集まった」
シンと静まり返った民衆の上にライヴィズの声が降り注ぎ浸透していく。
彼等は皆、うっとりと酔いしれるようにライヴィズの言葉を聞いていた。
俺はそのライヴィズの隣で、ライヴィズが周りに与える影響力の凄さを間近で実感した。
ライヴィズが喋る度に背筋にゾクゾクとした震えが走り、俺はこの時初めて絶対的支配者というものを目の当たりにした。
「これより我が妃、カケル=キリサキの誕生を皆と共に祝したいと思う」
「ちょっ、何勝手に…」
民衆にそう勝手に宣言したライヴィズに俺は抗議の声を上げた。
「カケル=キリサキ。我が真名はライヴィズ=ハルスティ=サタン。この命尽き果てるその時まで我と共に歩め」
しかし、ジロリと紫の瞳が真剣な光を称え俺を見下ろすと俺は何も言えなくなってしまった。
「…………」
「言葉はいらねぇ。お前はただそのグラスに注がれた酒を飲み干せばいい」
応えられない俺にライヴィズが囁く。
下にいる民衆も今か今かと俺の返事を待っているようで、応えられない俺はとりあえず言われた通りにグラスを煽った。
「「「きゃー、カケル様〜!!!」」」
「「「お妃様の誕生だ〜!!!」」」
すると静まり返っていた民衆がたちまち歓声を上げて騒ぎ出す。
グラスの中身を飲み干しただけでこの騒ぎように俺は僅かに眉を寄せた。
これに何か意味があったんだろうか?
そういえば中身は酒だと言っておきながらアルコールが入っている感じは一切しなかった。
魔界と俺のいた世界での酒の定義が違うのかと考え始めた矢先ソレは起こった。
「ぐっ…、かっ…はぁ…」
心臓がばくばくと脈打ち、身体が燃えるように熱い。
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