04
そしたらリョウレイはクスクスと笑って顔を上げた。
「妃殿下はお優しいのですね」
「俺が優しい…?」
これでも俺、学校じゃ手の付けられない不良だって言われてるのに。
「えぇ。ライヴィズ様もきっと妃殿下の優しさに心動かされたのでしょうね」
ふんわり、と微笑まれたけどそれは絶対に違うと思う。
アイツは俺がおもしれぇからとか抜かして、俺を無理矢理連れて来た俺様だぜ。
「リョウレイ。無駄話はそこまでにして妃殿下の御召し物を」
「あっ、はい。では妃殿下まずこちらの衣装にお着替え下さい」
そう言って赤いきらびやかな装飾が施された服を差し出された。
え?これを俺に着ろって?何の拷問だよ。
ぴらっと裏返せば背中がパックリ割れていて、俺は自分の目を疑った。
これ明らかに女物じゃ…。
「それを着ましたら次はこちらを上に着て頂いて」
渡された服を手にぼけっとしていればリョウレイは次に白とオレンジの刺繍が素晴らしい服を見せてきた。
「………凄いッスね」
俺の口からは驚きでただ一言それだけしか出なかった。
「それはもちろん。妃殿下の御披露目式ですからね。最高級のドレスを用意させて頂きました」
嫌々いや、御披露目式?ドレス?突っ込み処満載何だけど俺はいったいどうしたらいいんだ。
誰かこれは悪い夢だと布団の中で眠る俺をどんな方法でもいいから今すぐ叩き起こしてくれっ。
「トラウマになりそ…」
あの後ハッと我を取り戻した俺は激しく拒否して逃げようと試みた。
が、リョウレイにがしりと腕を掴まれ、どこにそんな力があるのか俺は身ぐるみを剥がされ、ドレスを着せられた。
リョウレイって実は二重人格なんじゃないだろうか。
ふんわり笑った顔は優しげなのに、行動と言葉があってなかった。
どちらへ行かれるんですか妃殿下。着替えないと部屋からは出られませんよ、とか微笑んで腕を掴まれたんだ。
ようはさ、着替えないとこの部屋からは出さねぇぞコラってのと同じなんだよ。
俺は漆黒のドレスに覆われた身をブルリと震わせ、露出している腕を黒い手袋を嵌めた手で擦った。
「妃殿下。この扉の先でライヴィズ様が御待ちで御座います」
衣の間から再び案内をし始めたハイス、一番最初に会って俺を風呂場に連れてった男が、そう言って扉の前で立ち止まった。
「これより先は妃殿下お一人で入室下さいませ」
ギィと扉を開けたハイスはそれだけ言って、畏まった様に頭を下げて礼をとった。
よし、俺は文句を言ってやると意気込み、ドレスの裾をつかんでズカズカと部屋へ入った。
…はずなんだけど、窓際の椅子に座ったライヴィズと目が合うなり俺は硬直したように動きを止めてしまった。
「ほぅ、似合うじゃねぇかカケル」
紫の鮮やかな瞳がツィと細められ、唇が笑みを型どる。
ライヴィズの衣服もまた漆黒で整えられたもので、椅子の背には内側が緋で外側が黒という金と銀の刺繍が華美にならぬよう品良く施されたマントが掛けられていた。
その姿はまさしく上に立つものの風格を擁しており、俺は圧倒された。
「どうした俺様に見惚れたか?」
ニィッと口端を吊り上げ、立ち上がったライヴィズがコツコツと音を立てて近付いてくる。
俺は圧倒されながらも何とか言葉を発しようと唾を飲み込んだ。
「……何で俺の名前」
たとえ口から出た言葉が間抜けな質問でも声が震えなかったことに俺は安堵した。
男としてビビってるとか思われたくない。
「そんなもの俺様にかかればすぐ分かる事だ。なぁ、カケル=キリサキ」
正面に立ったライヴィズの右手が上がり、俺の頬に添えられる。
「そうかよ。でも俺はお前の妃になんかぜってぇならねぇからな!」
頬に触れた手を振り払い、俺はキッとライヴィズを睨み上げた。
するとライヴィズはフッと笑って俺を見下ろした。
「この俺様に逆らうとはやはりお前は面白い。今すぐにでも可愛がってやりたいがその器ではな…」
そう言って俺から離れたライヴィズは扉の外側で待機していたハイスを呼び入れた。
「これからカケルの御披露目を始める。エンロにノーナンバーの酒を持って来させろ」
「はい、直ちに」
頷いたハイスはさっさと部屋を出て行った。
ライヴィズは椅子の背にかけていたマントをバサリと羽織ると黒い手袋をつける。
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