02
「何すんだよ!折角助けてやったのに!!」
怒鳴る俺に対し男は上半身を起こすとベッドの上で片膝を立て、部屋の中をぐるりと見回す。
最後に扉の前にいた俺に視線を合わせ、謝りもせず、上から目線で口を開いた。
「お前、名は?」
誰がこんな恩知らずに教えるかっ。
俺はフイと視線を反らして、無視をした。
「ほぅ、俺様に楯突くか」
俺様って、お前は何処の王様だ。こんな奴だって知ってたら絶対助けなかったのに。
俺の横顔に向けられた鮮やかな紫の瞳がツィと細められる。
「決めた。お前を俺様の妃にする」
「………はぁ?」
いきなり何言ってんだコイツ。熱で頭イカれたか?
ギシリ、とベッドから下りた男は俺に一歩一歩ゆっくりとした動作で優雅に近づいて来た。
「光栄に思え。唯の人間でしかないお前がこの俺様の妃に選ばれた事を」
毎日喧嘩三昧で負け無しの俺が、目の前に無造作に立つだけの男に恐怖を感じた。
いや恐怖以上の何かを感じて、身体がすくむ。本能が逃げろと告げる。
頭の中で赤い光が瞬き、ガンガンと煩いぐらいの警鐘が鳴る。
それでも俺は、負けてなるものかと小さく息を吐き、強張った身体から力を抜いて、下がりそうになった足を踏み締めた。
スッと動いた男の右手に、まさか殴られるのか!?とつい癖で構え相手を睨みつけた。
「何だ?誘ってるのか?」
「誘ってない!元気になったんならもう出てけ!」
この勘違い野郎っ!
怒りで恐怖の吹っ飛んだ俺は、憎らしいぐらい背の高い男を更にギッ、と睨み上げた。
それがまったく効いていないのか男はフン、と鼻で笑って唇を歪めた。
「ますます面白い。準備期間をやろうと思ったが気が変わった。このまま連れて帰るのもいいな」
扉に置かれた右手。不思議な色の指輪を填めた長く細い綺麗な人指し指が、円を描く。
そこに絵の様な、文字の様な紋様が浮かび上がり扉全体を埋め尽くす。
「なにっ―!」
俺は横目でその不可解な光景を目にし、呆然と動きを止めた。
「俺様専用の簡易式魔界の門だ」
「は?魔界の門?」
この男マジで頭平気か?と思わず心配になった。
しかし、それも次の瞬間吹っ飛んだ。
ガチャリ、と開けられた扉の向こうは見慣れた廊下ではなく、赤い絨毯にシャンデリア、天外付きの大きなベッド、窓からはおかしな景色が見える。
呆然としていた俺は男に背を押され、その部屋に足を踏み入れることとなった。
「おい、誰かいねぇか!」
男がそう言えばすぐさま扉の向こうから返事が返った。
「はい、何でしょうか?」
「入れ。コイツを今すぐ仕立てろ」
ガチャリ、と開けられた扉から人の形をした、でも耳とか尖っていて瞳の色も緑で明らかに人間じゃない奴が入ってきた。
ソイツは俺を上から下まで眺めると男に向き直った。
「ライヴィズ様、此方の方は…」
「人間だ。俺の妃にする。もし傷一つ付けてみろ、お前の首が跳ぶと思え」
「はい。分かりました」
「ちょっ、待てよ!!」
俺は何が何だか分からない内に連れていかれた。
アイツ、偉いんだな。ライヴィズ様とか呼ばれてたし。
それより…。
「俺はアイツの妃になんかなる気はこれっぽっちもねぇ!おい、アンタ!」
俺は前を歩く、男だと思われる奴に呼び掛けた。
中性的な面してて性別がさっぱり分からない。
「はい、何でしょうか?」
「俺、帰りたいんだけどどうやったら帰れる?」
「それはお教え出来ません。ライヴィズ様が望まぬ限り」
クソッ、と俺は目の前の奴に遠慮することなく舌打ちした。
しばらく進んだ先にこれまた変な紋様で描かれた大きな扉が出現した。
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