01


朝起きて、学校へ行き、つまらない授業を途中でフケて、仲間と共に街へ繰り出す。

些細な出来事で喧嘩をし、今日も勝利を納め、いい気分で家路を歩く。

そんないつもと変わらない日常。俺にとっては平和な毎日、…だった。

そこでアイツを見つけるまでは。



―魔王様のお妃―










さて、どうすっかな…。

一人暮らしをしているマンションまで数メートル。その手前で壁に背を預けた、明らかに具合の悪そうな顔色をした男が佇んでいた。

夕日に照らされたその横顔はこの世の者とは思えぬぐらい恐ろしく整っている。

すっげぇモテそう。あれじゃ女共がほっとかないだろうな。

なんて、どうでもいいことを思いながら俺はソイツの近くまで行き、擦れ違う。

俺もこのぐらい格好よけりゃなぁ〜。

身長160cmの俺に対し男は185はある。

ちらっ、と盗み見た筈の視線が、いつの間にこちらを見たのか男と視線が絡まった。

うわぁ、紫の瞳だ。

男は鮮やかな紫色の瞳をしていた。その瞳がスッと細められ、唇が何か言葉を紡いだが聞き取れなかった。

そして、男は急にぐらりと俺の方へ倒れてきた。

「へ?ちょっ、待て!おい!」

自然と歩みの止まっていた俺は、倒れ込んできた男を慌てて支えた。

うっ、重い…。

「おい、あんた!」

一度壁に寄り掛からせ、声をかける。

しかし、男は瞼を固く閉ざしたまま何の反応も示さない。

「そういや顔色が悪かったな」

もしやと思い、男の前髪を掻きあげ、男の額に己の額を押しあてた。

「うわっ、あっつ!熱あるじゃん」

どうしよ、と周りを見回しても人っこ一人いやしない。

だから、俺は仕方なく男を引き摺るようにして家に連れ帰った。







それから二日、俺は学校をサボって家にいた。

なんでか、って?拾ってきた男が目を覚まさないからだ。

「俺ってこんな面倒見良かったっけ?」

温くなった冷えぴたを剥がし、己の額で熱を計る。

「う〜ん、大分下がったな。これなら平気か」

「…ぅ」

「ん?」

微かに身じろいだ男に、起きたのか?と思って顔を引こうとしたらいきなり後頭部を押さえられ、逆に引き寄せられた。

「…んぅ!?」

何!?何だよこれ!!!

「はっ…んんっ、やめ…!」

俺、キスされてる!?しかも深いやつ!!!

「ゃ…っ…んんっ!」

あれ?何か力が抜けて…。

男の上に崩れ落ちそうになる体を、ベッドに両手を突っ張って耐える。

だが、そんな抵抗も虚しく長い口付けでくたくたになった体は堪えきれずにガクリと男の上に落ちた。

「…っ」

思わず目を閉じた俺だが、衝撃はなく、温かいモノに包まれた。

「ごちそうさま。お前の生気中々美味かったぜ」

「!?」

頭の上から降ってきた声に目を開ければ、目の前には素晴らしい胸板が。

「うわぁ!!」

俺は慌てて男から離れた。

「へぇ、お前動けるのか」

部屋の扉まで逃げた俺は、赤くなっているであろう顔を上げてワケの分からない事をぬかす男をキッと睨み付けた。



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