09


身体の奥底から快楽が引きずり出される。…それは、俺の知らない感情。

深く愛を囁かれ、求められ全てを支配される。それが酷く心地好いなんて。

嫌なのに嫌じゃない。

「…っ、ライ…」

昂る身体に、吐き出した吐息さえも熱い。

絡まる視線が、その唇が弧を描く。

「カケル」

ドクッ、と鼓動が跳ねて熱が身体の中を駆け巡る。

耐えるよう握り締めた拳、長く伸びた爪が皮膚を傷付け血が溢れる。

「…はっ…っ、もっ…どうにか…しろ…!」

逃げられない事より、今は身体を蝕むこの熱が苦しい。

ライウィズは俺の手を取ると、腕を伝って落ちる血に唇を寄せ舌を這わせる。

すると、そこから熱が吸いとられるようにジワジワと引いていく。

「っは…はぁ…」

「その熱から解放されたければ誓え。俺様と生きると」

お前の意思で、その唇で言の葉を紡げ。

お前はもうどうすればいいのか分かってる筈だ。心の奥に浮かぶ、その文字を音にしろ。

「そうでなければこの熱はとれない。俺様でも。月が沈み、夜が明けるまでその熱はお前を蝕み苦しめる」

「…こ、ころの奥?…ぅ…っは…」

ふわふわと思考も儘ならなくなってきた俺は耳に流れ込むライヴィズの声に誘導されるように、心の奥に浮かぶ文字の羅列を口にしていた。

―我が、真名は…霧崎 翔。この命…尽き果てるその時まで、ライヴィズ=ハルスティ=サタンと共に歩む事を、…ここに誓う。血の盟約をここに―。

まるで自分じゃない誰かが、勝手に俺の身体を動かしているようだ。

俺は自らライヴィズに身体を寄せ、ライヴィズの衣服に手をかける。

それをライヴィズは止めることもせず、妖しげな熱を灯した瞳でジッと見つめていた。

胸元を広げ、心臓の真上辺りに顔を近付ける。

酷く甘い良い香りがそこから香り立つ。

俺はぼんやりと熱に浮かされたまま、本能が動くままそこに唇を寄せた。

「んっ……」

舌を這わせ、キスをする。痕が残るぐらいキツく肌を吸い上げれば熱がスッと引いていく。

俺は一体何をしてるんだ?

正常に戻ってきた思考が頭の片隅で告げる。

「くっ―、っ――」

その時、上から噛み殺した低い声が降ってきた。

何だろう、と見上げれば荒い息を吐き出し、赤に近くなった紫電の瞳が俺を射ぬく。

「―っふ…ぁ…!」

視線が絡み合った途端、一気に意識が引き戻され俺は自分が仕出かした事にカッと顔を真っ赤に染め、ライヴィズから離れた。

「…っは、俺様の生気はそんなに美味かったか?」

伸びてきた手が、濡れた唇に触れる。

「ど、…どういうことだよ?」

「お前の身体の中を巡っている熱は魔力だ。器も心も不安定なお前じゃ制御できる筈がねぇ。それを安定させるのに本能が俺様を求めた、ただそれだけのこと」

「そ、それだけって…」

ライヴィズにとってはたいしたことじゃないのかも知れないが、俺には羞恥で消えてしまいたくなるほどの事だった。

「さぁ、仕上げだ」

俺の心境など無視し、今度はライヴィズが俺の衣服に手をかけてきた。

「うわっ、ってめぇ何すんだよ!」

服を抑え、ギッとライヴィズを睨めばその背後にあるガラスで出来た置物が不自然に破裂し砕けちった。

「…えっ!?」

俺は目を見開き、飛び散った欠片の行方を呆然と見つめる。

「驚く事はない。それがお前の力だ。制御の仕方は後で俺様が教えてやる」

気をとられている隙に上半身を剥かれ、心臓の真上にキスが落とされる。

「…ひ…っ!」

そして、俺がしたのと同じ行為が行われた。

「…っ…ん、…ぁあっ…くっ…」

キツく肌を吸われただけなのに、下手な愛撫より感じて身体がビクビクと震える。

「もっ…やめ…っ…」

スッとライヴィズが唇を離す。

俺がその事にホッとしたのも束の間、俺とライヴィズが互いの身体につけた紅い痕が薔薇のような模様に変化した。

「なっ―!?」

「これで心身共にお前は俺様の妃だ。この薔薇は互いを縛る鎖、愛の証。一生消える事はねぇ」

愛しそうに瞳を細め、ライヴィズは俺の胸に咲いた紅い薔薇に指を這わせる。

「…っ…ぁ、触るな!」

途端、薔薇の真下にある心臓が急にぎゅっと締め付けられ、ライヴィズに反応するかの様にズクリと身体が疼いた。



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