08
腰に回された手が、露出している肌に触れる。
背骨のラインにそって熱を持ったライヴィズの指先が肌を滑っていく。
「―っ!?」
その感覚にぞわぞわと肌が震える。
「誰かと交わった経験はなさそうだな」
耳元で囁かれ、俺は羞恥で顔を赤くした。
何て事言うんだコイツ!
ドキドキと鼓動が早鐘を打つ。
「カケル。お前の身体は正直だ」
ツィと細められた瞳が俺を見下ろし、顎にかかっていた手が首から胸へと下りてきてちょうど心臓の真上で止まった。
その行動にドクリ、と心臓が一際大きく跳ねる。
「―っあ…!?な…んだよこれっ」
「魂が惹かれ合っているんだ。俺様が欲しいのだろう?」
「い、み…分かんねぇ」
俺には到底理解できないレベルの話だ。
「本当にそうか?お前は現実を認めたくなくて目を反らしているだけに過ぎぬ」
閉じた瞼に唇が寄せられる。
「目を開けろ。その瞳に俺様を写し、受け入れろ。我が妃」
押しあてられた唇が離れると、その声に誘われるようにしてゆっくりと瞼が持ち上がる。
ライヴィズと同じ、鮮やかな紫の瞳が現れた。
ぼんやりと自分の意思とは関係なく開けた視界に、焦点を結んだ紫の瞳が、間近にあるライヴィズの瞳を捉える。
「あぁ…、俺の…。俺だけの王」
うっとりとライヴィズの頬に右手を添え、俺は微笑んだ。
自分でもどこか可笑しいと思うのに、抗うことすら思い浮かばなかった。
ドサリ、とベッドに押し倒され、人工の光を反射してきらきらと銀糸の様な髪が光る。白いシーツの上に綺麗な銀髪が散らばった。
ライヴィズは散らばった髪を一房その手に掬い上げ、口付ける。
「髪には魔力が込められている。お前は中々強いな」
俺はその仕草をただジッと見つめていた。
「その器に身が馴染むまで一晩はかかる。カケル、これで分かったろう?」
ニィと口端を吊り上げたライヴィズが俺を見下ろす。
何が言いたいのか、俺には分かってしまった。
「お前は俺様に捕まったんだ。身も心も囚われた。もう後戻りなど出来はしない」
妖しく細められた紫電の瞳に、気付かぬうちに俺は確かに囚われていた。
「ライ…」
「なに、怖がる必要なんかねぇ。俺様に全て委ねればいい」
はらり、とライヴィズの手から銀髪が溢れ落ちる。
どうしてこんなことになってしまったのか。
俺はただ、具合を悪そうにしていた男を珍しく看病してやっただけなのに。
「なに、お前が俺様を助けたのは偶然じゃねぇ。必然だ。初めからこうなる運命だった」
ライヴィズが俺の思考を読んだように告げる。
そして、フンと鼻を鳴らし、睦事を囁くように甘く低い声で続けた。
「俺様はお前を妃として迎え入れる為に人間界へ行ったのだからな」
初めて聞く真実に俺は目を見開いた。
ライヴィズの態度は俺から見たら思い付きで動いているようにしか見えなかった。
「不思議には思わなかったか?俺様が何故あんな場所にいたのか。あの時に限って周りに人間がいなかったことを」
「まさかっ!」
「不可視の呪文…。ハイス、中へ入れ」
俺から視線を反らさぬまま、扉に向かってライヴィズが言う。
ガチャリと扉が開き、ハイスが入ってくる。
「お呼びでしょうか?」
その言葉を無視してライヴィズは俺の前で何か呪文を唱え始めた。
「"-------------"」
するとスッとハイスの姿が見えなくなっていく。
「なっ―!?」
俺は目を見開き、言葉を失った。
「どうだ、これで分かったろう?お前は成るべくして俺様の妃になったのだ」
ゆっくりと頬を撫でられ、顔が近付く。ライヴィズの瞳が妖しく細められ唇が弧を描く。
「カケル、俺様の全てをかけてお前を愛してやる」
カッと一瞬で顔に熱が集まる。
「だから、お前も己の全てをかけて俺様を愛せ」
吐息が触れて、交わった。
「…っ…んっ…」
ゾクゾクと背筋が震えて、その感覚が怖くて目の前のライヴィズに助けを求めるようその服を掴む。
「…ぁ…ふっ…」
長い口付けに、唇が離れると俺はくたっと身体から力が抜けベッドへと沈んだ。
「可愛い奴だ。口付けだけでこれほどとは…」
ライヴィズが瞳の色を濃くして俺を見下ろす。
その瞳に見詰められただけでゾクリと言い知れぬ震えが身体を支配した。
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