03


本当に挨拶だけで済ませて来たのか、十分足らずで理事長室を出てきた高杉と寮に向かって並んで歩く。

今は授業中のせいか俺達の様に寮に向かう人間はおらず、俺は高杉にとられた伊達眼鏡を畳んでポケットにしまい、素顔を曝していた。

「お前何でそんなのしてるんだ。目ぇ悪くねぇだろ」

キスすんのに邪魔だと高杉が文句を垂れる。

「そうだけど。眼鏡一つするだけで人の印象は変わるんだぜ。俺の変装、お前以外誰も気付いてない」

「は、嘘だろ?ソイツ等目ぇ腐ってんじゃねぇのか」

「それで良いんだ。お前が気付いてくれただけで十分」

寮の入り口をくぐり、寮官から高杉の部屋のカードを受けとる。

「基本的に一般生徒は二人部屋で、このカードが部屋の鍵兼財布だ。無くすなよ」

「…お前の部屋は何処だ」

「俺?俺は生徒会フロアの101だが…、一緒に暮らすか?」

連れ込んではいけないという決まりは無いし、会計あたりが良く一般の生徒を連れて生徒会フロアを歩いていたのを見かけた。

俺から誘われるとは思わなかったのか高杉は一瞬驚いた顔をし、ニヤリと笑って頷いた。

「見知らぬ奴よりお前が良い。それにお前の部屋なら色々と好都合だろ?」

「………。それなら俺のスペアのカード渡すから部屋行くぞ」

寮官室の前から離れ、奥にあるエレベータへと足を進めた。

鍵を外し、扉を開ければ俺には見慣れた広い玄関がある。

「学生寮にしちゃ豪華だな」

靴を脱いで上がった俺の後を高杉が感心したように呟きながらついてくる。

「そういやお前の家ってあの高杉だったんだな」

「あ?あぁ、そうだけど…お前の名前聞いてねぇな。北條の下は?」

「鷹臣。北條 鷹臣だ」

「鷹臣か。俺の事は瑛貴って呼べよ」

で、寝室はどっちだ、と聞かれ俺はそれを黙殺した。

「鷹臣。俺に半年も我慢させておいてそれはねぇんじゃねぇか」

「夜まで待ってくれたら好きなだけ抱かせてやるよ。俺は戻らなきゃならないんだ」

何たって生徒会長だからな。

「そのキャラどうにかならねぇのか?正門で会った時も思ったけどお前にゃ全然似合わねぇ。むしろ真逆だろ」

「ふっ、この学園でそう思うのはお前だけだろうぜ」

外していた眼鏡をかけ、瑛貴には部屋で大人しくしているよう告げた。

「チッ、しょうがねぇな」

「昼に一度戻る」

念の為スペアキーを瑛貴に向かって投げ、俺は自室を後にした。

あの様子じゃ今夜は寝れないかもしれない。

まぁ、それは良いとして…一番の問題は生徒の反応だ。

これだけは俺にも読めない。

面倒くさいことになったな。何で編入なんてしてきたんだ。

俺はお前が馬鹿みたいに煩い生徒共にキャーキャー騒がれる姿なんて見たくねぇぜ。










キシリと会長席に腰を下ろし、俺は室内を見渡す。

「ねぇ、その前髪切らせてよ」

「それからその眼鏡。僕が新しいの買ってあげるからさー」

似たような顔の、事実双子なんだが、二人で一人とかほざく会計が二人。どこかのチームの情報担当と幹部。

「食堂で甘いの好きだって言ってたよね。ケーキあるけど食べる?」

嘘臭い笑顔が似合う副会長が一人。同じくどこかの副総長。

「物で釣るなよ。佐倉が困ってるだろ」

「………」

やんわりと口を挟む補佐と寡黙な補佐。同じくどこかのチームの幹部。

まったく興味は無かったが、そこまで考えてふと思う。

コイツらの総長はたしか風紀会の…。

「…会長?聞いてます?ウルフに会ったんですよね?」

すぐ近くで呼び掛けられて、目の前に立つ書記に視線を合わせる。

「聞いてる。ウルフだ何だって騒いでるみたいだが、俺達と何も変わらなかったぞ」

「それは会長がウルフの凄さを知らないからですよ!」

「ふぅん、ならアイツ等は?」

スィともじゃもじゃの髪をした一月前の編入生、佐倉なんとか、名前は忘れた、を囲む副会長以下の連中を指す。

「あれは…」

「あれは?」

お前は何だってそんなに瑛貴に興味を持つ?
アレは俺だけの、…俺の恋人。

半年振りに会ったせいか、瑛貴への想いが心の中で溢れ出していた。



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