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学園内で一番豪華で重厚な扉をノックする。

「生徒会の北條 鷹臣です」

扉の向こうから入れ、と返ってきた声に俺は扉を開け、一礼してから中へと足を踏み入れた。

そして、俺を呼び出した理事長と向き合う。

「すまないね、急に呼び出したりして」

「いえ。それで用件とは…」

「実はこちらも急に決まった話なんだが、明日、編入生が来ることになってね。その案内を生徒会でして欲しいんだ」

そう言って理事長から急遽編入してくるという生徒の資料を渡される。

「そう言うことなら構いませんが、…―っ!?」

…コイツは。

チラリと渡された資料に視線を落とし、俺は目を見開いた。

「どうかしたかね、北條君?」

「あ…、いえ。何でもありません。編入生の案内については生徒会で責任を持ってしますので」

「あぁ、頼んだよ」

「はい。それでは失礼します」

入室した時と同じ様に一礼し、俺は動揺する心を隠して理事長室を出た。

「………」

バタンと閉まった扉を背に、俺はその場に立ち尽くし、手にある資料にもう一度視線を落とした。

そこには不機嫌な顔でこちらを睨み付ける様に写る顔写真が貼られている。

その左側には名前と生年月日、住所、家族構成と基本的なプロフィールが並ぶ。

「高杉 瑛貴…、それがお前の本名か狼(ウルフ)―」

瞳を細め、写真に指を滑らせる。初めて口にした名前、その声はどこか甘さを含んでいた。










資料を手に生徒会室に戻れば、書記の奴しかいない。

「あ、会長。理事長の用って何だったんですか?」

「明日、編入生が来るそうだ。その案内を生徒会でしてほしいらしい」

ギッ、と定位置である会長席に座り、寄ってきた書記に編入生の資料を渡す。

「へぇ、またですか。今年二人目ですよね…って!?この人、ウルフじゃないですか!」

「それがどうした」

「どうしたじゃないですよ!会長は知らないかも知れませんがウルフって言えば俺等の世界じゃ有名なんですよ!喧嘩は滅茶苦茶強いし、潰したチームは数知れず!」

ペラペラと一人喋り続ける書記、たしかどこぞのチームの幹部、だったか。

俺は書記に気付かれぬ様、眼鏡を直す振りをして淡い微笑を浮かべる口元を隠した。

ウルフの事なら良く知っている。性格は一言で言えば俺様。けど、俺は手をあげられた事は一度もなくて。あの他人を威圧する鋭い眼差しと低い声も、俺を見る時だけ甘さが混じる。

「それから、ウルフの隣にはいつも虎(タイガー)がいるんです!タイガーって言うのも喧嘩の腕前はピカイチで凄い強くて、チームの間じゃその二人を仲間にしたいって声が多いんですよ!あっ、でもここ半年ぐらいタイガーはみかけないですね」

書記の言葉に、飛ばしていた意識が引き戻される。

「…半年も姿を見せないんじゃ、そのタイガーって奴もう辞めたんじゃないのか?」

「それは有り得ないです!」

「何でそう思う?」

「勘です!それに、タイガーがウルフを残して消えるなんて有り得ないです」

清々しいほどにきっぱりと言い切った書記に俺はふぅんと興味無さげに返して、その話は終わった。

「で、他の奴等は?」

この場に居ない副会長、会計、補佐二名を指して言えばここ一月お馴染みになった答えが返ってくる。

「例のもじゃもじゃ編入生の所ですよ。何が良いんだか…。俺は編入生より会長の方が断然大好きですから」

あ、ウルフって会長と同じ三年なんですねー。

「そうか。まぁ、仕事さえしてくれれば文句は無い」

俺は机の端に置かれた今日の分の書類を処理しにかかった。

途中、不良の癖に気の利く書記がコーヒーを淹れてくれたり、風紀の奴が生徒会長印を貰いに来たりと忙しく時間は流れた。

「これが最後か」

ポンと判子を押して、処理済みの書類の上に重ねた。

「お疲れ様、会長」

「ん、あぁ。お前もう帰って良いんだぞ」

「んー、それより会長これから夕飯ですよね。一緒に食べません?」

断る理由もなく、俺は書記と一緒に食堂に行くことにした。



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