01


ザワザワといつまでも煩い眠らない街。
日が沈み、ネオンの明かりが街を照らす。

そんな街の中を、青い瞳に金の髪を靡かせ歩く人物が一人。

営業を終え、下ろされたシャッターの前にたむろす若者達が目立つその金髪に目を向けこそこそと顔を合わせる。

互いに頷き合い、立ち上がるとその人物の行く手を遮るように立ちふさがった。

「よぉ、兄ちゃん。ちょっと金貸してくれねぇ?」

「俺等今ちょー困ってんのよ」

にやにやと笑う、自分を取り囲んだ馬鹿な奴等にその人物は表情を変えず口を開いた。

「だからどうした。俺には関係ないし、さっさとそこを退け。急いでるんだ」

「あらら、そんな事言っちゃっていいのかな?そのお綺麗な顔に傷を付けられたくなきゃ…ぐふっ!!」

ずぃと醜い顔を近づけて来た男の顔をその人物は躊躇い無く殴り、よろけた男の腹を蹴りつけて、倒れ込んだところ、頭の横ギリギリに足を踏み出して何事も無かったように進もうとした。

「っ、待てよ!てめぇこんなことしてただで済むと思ってんのか!あぁ?」

別の男が、通りすぎようとしたその人物の肩を掴み、無理矢理振り向かせる。

「俺に触るな」

その手を、絡まれた人物は叩き落とし、次いでにソイツの横っ腹に強烈な蹴りをお見舞いした。

男は腹を抱え、膝をつく。

「てめぇっ!!」

周りにいた男の仲間は逆上し、その人物に殴りかかるが掠りもしない。

殴りかかられたその人物は至極面倒臭そうにため息を吐いた。

「俺は急いでるって言ってんだろ」

その数秒後、その場に立っていた者は、足元に蹲るそれらを踏みつけて目的地まで真っ直ぐに歩き始めた。










そこは夜になると若者達が支配する街。

若者達はそれぞれ自分の好きなチームに属し、夜の街を我が物顔で闊歩する。時に縄張り争いという名の喧嘩を繰り広げ、勢力図が塗り替えられることも。

その勢力図の中心にあって尚、縄張り争いに巻き込まれることのない不可侵のバーに、一際目立つ銀の髪に赤の瞳を持つ人物がいた。

「おせぇ…」

ガタリと椅子を鳴らして立ち上がったその人物は、苛立ちを隠すこと無くバーを出て行った。

外に出た途端、周りにたむろする若者達から怯えたような視線を向けられる。

それを気にする事無く、その人物はネオンの照らす夜の中を歩いて行った。

「なぁ、今のウルフだろ。すげぇ怖かったんだけど」

「あぁ、何か殺気立ってて目ぇ合わせたら殺されるかと思った」

「俺も」

俺も、と次々に同意の声が上がる。

「タイガーさんが一緒に居る時はもう少しマシな…」

「バッカ、余計こえぇよ。タイガーの前で不用意な事言ってみろ。それこそ殺されるぜ」

「えっ、そうなのか?」

知らないのか、ウルフとタイガーの怖さを。

あの二人が揃えばお仕舞いだ。勝てる奴はいねぇ。二大勢力って言われてる韋駄天も疾風も目じゃねぇって噂だぜ。

それに一番恐ろしいのがどちらか片方でも、不興を買えばそのチームごと潰されるって。

「それでも勧誘が後を絶たないってのが凄いよな」

「おー、あの二人には憧れるぜ」

けど、

とにかくウルフとタイガーには近付くなって、俺ンとこの総長は命令まで出してるんだ。










目的のバーに向かって足早に歩く人物の向かいから、待ち合わせをしていた人物が不機嫌さ全開で近付いてくる。

「悪いウルフ、遅れた」

「どこに寄り道してたんだタイガー」

タイガーと呼ばれた、金の髪に青い瞳の男は、ウルフと呼んだ、銀の髪に赤の瞳の男に腰を抱かれ問い詰められる。

「俺がお前に会うのに寄り道するわけないだろ。直ぐそこで絡まれたんだ」

「なに?」

不機嫌さの上に物騒な感情が上乗せされる。

「それでどうした。ちゃんと潰してきたんだろうな」

ぐっと腰を強く抱かれ、タイガーは吐息の掛かる距離でウルフと視線を絡ませた。

「当然。俺の進路を塞いでくれた礼に潰してきた」

「上出来だ」

ウルフは誉めるようにタイガーの髪を撫で、唇にキスを落とす。

「ん…」

地べたに座り込み、こちらをギョッとした様子で見てくる少年達に構う事無く二人は平然と続ける。

「タイガー、今夜はどうする?」

「西の、意気がって暴れてるチームを潰したい」

「西の?いいぜ。また煩く勧誘でもされたか?」

「それもある。けど、一番の理由は俺の前でウルフを虚仮にしたことだ」

うっすらと口元に酷薄な笑みを浮かべたタイガーに、ウルフは嬉しそうに笑う。

「ククッ、愛されてんな俺」

普段、売られた喧嘩やしつこい奴には制裁を下すが、自ら喧嘩を売るような真似をしないタイガー。そのタイガーがウルフの為に動こうと言うのだ。

これほど嬉しいことはねぇ。

「ウルフ。時間がもったいねぇから早く行こうぜ」

「そうだな。お前との時間をとられるのは癪だがしょうがねぇ」

その馬鹿共を二度とタイガーの前に出られねぇよう潰しに行くか。







そうして、二人は夜の街に消えていった。



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