09



やがて、時間を惜しまず解した秘所はジェルでひたひたに濡れ、ぐちゅぐちゅと濡れた音を立てる。その奇妙な感触と緩やかに与えられ続ける刺激がじわじわと鷹臣の思考を奪っていく。ぐるぐると腹の奥底に募るもどかしさが、熱い視線となってウルフへと注がれる。
しかし、鷹臣が本当に意識を散らしていられたのもそこまでだった。

「…ン、…ぁあっ…!」

ぞくぞくっと、腰が跳ねるほどの甘い痺れが不意打ちのように脳髄まで走り抜け、鷹臣の口から抑えきれなかった高い声が零れる。

「ぁ、あ…っ、う、ウルフ…っ」

そこはと、甘く濡れた高い声が戸惑いと甘やかな熱を孕んで吐き出される。
ウルフは鷹臣の声色の変わったそこを中心に指先を動かすと、蠢く内壁を押し広げる様にぐっぐっとそこを刺激する。

「ぁっ…あ、ン…ぁ…」

びくびくと鷹臣の身体が跳ね、右手を絡めていた鷹臣のものからとろりとろりと喜ぶように蜜が溢れる。顕著な反応を示す鷹臣にウルフはこの辺かと、手探りでその位置を覚えるとニィと口端を吊り上げた。

「は…っ、ぁ…ウルフ…」

僅かに身を起こした鷹臣の手がウルフに伸ばされ、ウルフは鷹臣に左腕を掴まれる。だが、あまり力の入っていない手は、ウルフの行動を止めるには至らなかった。

「ん、も…いいだろ」

むしろ、鷹臣はウルフを制止するどころか、早くと熱と快楽の間で揺らめいた青い双眸でウルフを誘う。とろりと甘く崩れる前の酷く艶めいたその表情に喉を鳴らすと、ウルフは鷹臣の秘所から指を引き抜いた。鷹臣のものに絡めていた手も離し、片手を鷹臣の腰に添える。

「怖いか?」

「ん…、怖くないと言ったら嘘だけど、お前になら」

次へと進んだ行為に顔を強張らせるどころか、ほぅっと僅かに頬を緩めた鷹臣にウルフは上機嫌に笑った。

「あぁ、思った通り、お前は最高だぜ。タイガー」

捕食者の気配を隠すことなく、色気を滲ませたウルフの顔が近付く。鷹臣もまたそれに応えるかの様に甘く笑みを零すとウルフを迎え入れる様に自ら唇を開いた。

「ん…、ウルフ」

再び舌が絡み合い、熱い吐息を交わす。
息継ぎの合間にウルフが熱っぽく囁いた。

「入れるぞ」

「ん…」

秘所に押し付けられていた熱い塊が、ぐっと存在感を増して秘孔の中へと押し入れられる。

「あっ…っ」

時間をかけて慣らしたとはいえ、ぐぐっと狭い道を入って来るものに鷹臣は眉を顰めて、息を詰めた。

「はっ、息を止めるな。呼吸をしろ」

たらりと口端を伝い落ちた透明な雫を唇から離した舌先で舐めとり、ウルフは鷹臣に声を掛ける。そして、力を無くしたように項垂れた鷹臣のものに片手をかけて、ゆるゆると刺激を与えた。

「ン、…はっ、…ぁ」

「そうだ。気持ち良い方を意識してろ」

ウルフは鷹臣の意識を誘導しながら、自身は僅かに額に汗を浮かべて、油断すれば一気に突き入れたくなる己の衝動をぐっと抑えて慎重に腰を押し進めた。

「…は…ァ、…ウルフっ」

入口さえ通り過ぎれば、後は楽なもので。ウルフは鷹臣の反応の良かった場所を思い返すと、初めてのことばかりで、ずっと緩やかに与えられる快楽の責め苦にその身を委ねた鷹臣の熱に浮かされた顔を見つめる。

それを今から、更に自分のもので乱れさせると思えば、ここまで手間暇かけて我慢してきた甲斐があったというものだ。ウルフは無意識に唇を舐めると、ずしりと質量を増したもので鷹臣の中を突く。

「…あっ、…な…に…」

中ほどまで入ったウルフのものに鷹臣の意識が向けられ、きゅっと中が締め付けられる。それを合図に鷹臣のものから手を離したウルフは両手で鷹臣の腰を掴むと、鷹臣の良い所を刺激するように一息に腰を打ち付けた。

「ひ、…ぁあっ!」

ぐちゅりとジェルで濡れた秘孔が音を立てる。

「…あっ、ぁ…あ…」

びくびくとウルフの下で鷹臣の身体が跳ねる。腰を震わせ、声にならぬ喘ぎが鷹臣の口から零れ落ちる。それを狙ってウルフは二度、三度と強く腰をスライドさせた。

「ぁ…や、…そこ…は…」

「はぁっ……気持ちいいだろう?…奥まで俺が入ってるのが分かるか?」

「ぁ、あ…、うン…」

初めて感じる大きな快楽の波に鷹臣は腰を震わせ、あまやかな吐息を乱して、はくはくと口を開く。

「いい…。…はぁ、ん…っ、お前が…俺の中に、いる」

言葉と一緒に自分の下腹部へと右手を乗せ、そこをそっと撫でるような仕草をした鷹臣にウルフはますます熱を昂らせる。

「…あ、…ン…っ、あつい、…大きく、するな…」

「はっ、…無理だろ。初めてで、ここまでとは」

ウルフは鷹臣の素直さに、これは色々と覚え込ませる愉しみが増えたなと欲に塗れた思考で笑う。だが、今は目の前でウルフから与えられる快感を享受しようと、熱に蕩けた瞳でウルフを誘う鷹臣の額に口付けを落とす。

「俺でしかいけない身体にしてやる」

「あ…ぁ、ウルフ…ッ」

熱に浮かされた鷹臣の両腕がウルフの頭を抱くように、首の後ろへと回された。

ぐちゅぐちゅと濡れた湿った音と肌を打つ乾いた音が部屋の中に響く。

「…ん…っ、…ぁ…っ、…あ…ッ、ァ」

「そのうち…、中だけで、いけるようにしてやるからな」

互いの腹の間で痛いぐらいに張り詰め止めどなく涙を溢し始めた鷹臣のものに爪を立て、ウルフは鷹臣の最奥を穿つ様にずるりと入口付近まで一度引き抜いた灼熱の塊を勢いよく突き入れた。

「ぁ、あぁぁっ…っ」

中と外、両方から攻められ、処理しきれなくなった強く甘い刺激にがくがくと鷹臣の身体が震える。ぷしゅっと鷹臣のものから飛び出した密がウルフの汗ばんだ肌を汚し、中に感じていた灼熱の塊が弾ける。

「くっ……っ」

「あ…っあぁ、…ぁ…ぅ…」

どくどくと己の中に注がれる熱を感じる。
本来そこは受け入れる器官ではないが、そこに感じる熱い熱にようやく鷹臣は己の心が満たされるのを感じで、うっとりと吐息を吐き出した。

「ぁあ……嬉しい」

「タイガー…。俺もお前が好きだぜ」

「ん…」

満たされた心に落とされる言葉。
それが鷹臣には堪らなく嬉しくて、ウルフにもっとと続きをせがんだ。





ぐずぐずに、何もかも蕩けてしまいそうなほど、初めて感じる熱さと甘い疼きに、とろりとろりと栓が外れてしまったかのように鷹臣のものからはひっきりなしに蜜が零れ落ちる。

もう何度目か分からない、熱い飛沫を身体の奥深くで受け止め、鷹臣は掠れた甘い声を上げる。

「…あ、ぁ…出てる…、ウルフの…」

「っ、…いちいち煽るな、…タイガー」

ぎゅっと搾り取られるように絞まった秘孔に、ウルフはゆるゆると腰を動かしながら、ぐしょぐしょになった秘孔から己を引き抜く。

「んっ…ぁ…」

「は…ぁ…」

汗で湿った前髪をかきあげ、ウルフは思った以上の惨状に口端を歪めた。

初心者相手にここまでするつもりはなかったのだが。相性も良かったのだろう。鷹臣にねだられ、自分も止めるに止められなかった。若さ故と言えばそれまでだろうが。

鷹臣の腹を汚した蜜はシーツまで滴り落ち、秘孔から零れたものもシーツに大きな染みを作っていた。

「タイガー」

「ん…」

何時間か、酷使した喉は掠れた声で、鷹臣は心地良さに身を包まれたまま、とろとろと眠りの淵を漂いだす。

「動けるか?」

「…むり、そう。…ねる」

答える声も曖昧な音として、鷹臣の耳に戻って来る。

「は?おい、タイガー!」

「……すぅ」

鷹臣の意識が保っていられたのはこの辺りまでだった。

酷い有様のまま、満足そうに寝息を立て始めた鷹臣にウルフはマジかと驚きに目を見張ったが、次第に込み上げてきた苦笑にもにた温かな笑みに、しょうがねぇなぁと呟きを落とす。

とにかく鷹臣の中に出したものを流して、身体を洗ってやらないとと、ウルフは怪我をした左腕に頓着せず鷹臣の身体を抱き上げると風呂場に直行した。
それからシーツはゴミ箱行きとして、綺麗に引き直したベッドの上に自分の服を着せた鷹臣を寝かせる。

どれほど抱き合っていたのか、窓の外の闇は白け始めていた。

「ふぁ…っと、…俺も少し寝るか」

心は酷く満たされていたが、ウルフの身体もさすがにだるさを覚えていて、ウルフは充足感と心地良い疲労を感じながらベッドで眠る鷹臣を己の腕の中に抱き締めて眠りについた。





もぞもぞと腕の中で動くものに意識を揺さぶられウルフは目を覚ます。

「ん…?」

「おはよう…、ウルフ」

ふにっとした柔らかいものが唇に触れ、一瞬吐息を奪われる。

「タイガー…」

ウルフに悪戯をしかけてきた鷹臣は闇夜に鋭く光る青の双眸を穏やかに緩めてウルフを見つめていた。

「お前のおかげで、俺の世界は変わったみたいだ」

甘く掠れた声がウルフの鼓膜を震わせる。
身体を起こして、飲み物を取りに行くかと考えたウルフの思考を中断させるかの様に鷹臣の言葉は続いた。

「好きだ、ウルフ。お前が好きで、もう前には戻れない」

「…戻る必要なんてねぇだろ」

ウルフは鷹臣と視線を絡めると鷹臣の中に染み込ませるように言葉を紡ぐ。

「タイガー。俺はお前を自分のものにしようと思っていた」

「……」

「気付いたんだろう?」

「あぁ」

じわりと行為のせいではなく染まった赤い目元に、ウルフは手を伸ばす。まだ仄かに熱を持った鷹臣の頬に指先を滑らせ、唇に触れる。

「だったら分かるだろ?」

前に戻る必要なんかない。

「俺もお前が好きだ、タイガー。何度お前をめちゃくちゃにしてやりたいと思ったことか」

「ウルフ…」

「喉、痛むんだろう?身体の方も」

熱っぽいと鷹臣の唇に触れていた手が鷹臣の額に移動してくる。

「無理をさせた俺が言うのも何だが、お前はまだ身体を休めておけ。飲み物とってくる」

ついでに何か軽食を用意してくると、ウルフは鷹臣をベッドの中に残して、ベッドから降りた。

「ふっ…」

身体がだるくて、あちこち痛いのは確かだったが。それもあのウルフが甲斐甲斐しく鷹臣の世話を焼く姿に意識が持っていかれて、その意外な姿にますます好きだなぁと鷹臣はベッドの中で誰にも見られることなく甘く表情を崩した。



それから夕方近くまでウルフに世話を焼かれつつベッドで微睡んでいた鷹臣は夜を待って学園へと帰り、その日から数日間はウルフに教え込まれた甘やかな熱が身体の奥から抜け切れない感覚に困ったような、嬉しいような悩みに悩まされていたのだった。





「なぁ、瑛貴」

何もかもが手探りで未熟だった中学の時の事を思い出しながら、鷹臣は瑛貴に凭れたまま口を開く。

「どうしてお前は今まで俺に素性を聞かなかったんだ?」

ん、と顔を持ち上げて尋ねた鷹臣の唇に瑛貴の唇が落ちてくる。しっとりと冷たく濡れた唇が、可愛いリップ音を立てて、鷹臣の唇をついばむ。

「お前自身がいれば必要なかった」

気にならないわけではなかったが、お前は俺がつけた名前を気に入っている様子であったし、お前も俺に何も聞いてこなかっただろう?

「俺も…お前がいれば。他の余計な情報なんていらなかった」

ウルフとタイガー。二人の世界は二人だけで完結していられた。北條 鷹臣を取り巻く世間のことも、高杉 瑛貴を取り巻く周囲の状況も二匹の獣には関係がなかった。

「ん…」

触れ合った唇が離れ、至近距離で見つめ合う。

「鷹臣。久し振りにタイガーの時の変装してみねぇか?タイガーの姿が見てぇ」

「ん。土曜に、出掛ける時に見せてやるよ」

それで堂々と街中を歩いてデートしよう。

「そりゃいいな」

「だろう?」

鷹臣のスマホを買いに行くだけではなくて、その日を楽しみ尽くそうとゆるりと笑って誘いをかけてきた鷹臣に瑛貴も自然と笑みを返して、二人は約束を交わすようにもう一度甘い口付けを交わした。




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