02
役員特権をフル活用して過ぎた一日。
瑛貴を職員室まで連れていき、編入初日に瑛貴が登校できなかった理由を適当にでっち上げて教師に告げた。
日頃の俺の行いのお陰で怪しまれることもなく、すんなりと納得した教師に瑛貴が怒られることもなく、俺は今、教室へ向かう瑛貴と別れて生徒会室に来ていた。
「会長ってウルフと知り合いだったの?」
「ねぇねぇ!」
室内に入った途端寄ってきた双子に眉がよる。
「お前ら佐倉はもう良いのか?」
どこから聞いたのか、いや東雲辺りか。うるさく騒ぐ会計に問い返す。
「佐倉ちゃんは授業」
「授業なんか受けなくても僕達が教えてあげるのにね〜」
案の定、話に乗ってきた会計の横を通り抜け、会長席に腰を下ろす。
「私は騙されませんよ会長」
今日の分の書類だろう、紙の束を手に寄って来た副会長に俺はちらりと視線を投げた。
「何がだ?俺がアイツと知り合いだと何か問題でもあるのか?」
淡々と告げれば、副会長は首を横に振ってみせる。
「いいえ。問題というより心配です。会長は知らないかもしれませんが、高杉は色んな所から恨みを買ってるんです」
そのとばっちりで会長に何かあったらと思うと…。
顔を曇らせた副会長を、俺は不思議な感覚でみやる。
東雲と言い、韋駄天というチームはお人好し過ぎるんじゃないか。
まぁ、心配されるのは悪くない。
「大丈夫だろ。俺も多少武道の心得はある」
相手を再起不能にするぐらいには出来る、とは口には出さず心の中に留めておいた。
そして、今日の分を振り分け指示を出していると書記が遅れて顔を出した。
「やっぱ踵落としは柔軟性が必要だな」
そう言いながら入室してきた書記に、慣れた様子でいつもは寡黙な補佐が声をかける。
「どこに放置してきた?」
「渡り廊下」
「会長。風紀に引き渡してきます」
正義の味方よろしく、また誰かを助けてきたのだろう。
俺は視線で頷き、補佐が出ていくのを見送った。
「書記。全体会議の資料はこれで良い。印刷に回しておけ」
「はい」
確認し終えた下書きを手渡すと、書記は残っていた補佐一人を連れて生徒会室を出て行く。
何事もなく進む日常。
「会計。交流会の決算報告書だが、一部計算が合わない。やり直せ」
「「えぇ〜〜っ!嘘!」」
突き返された報告書を手に、会計は大人しく会計席に着いた。
「副会長。俺が休んでいた間に何か変わったことは?」
「生徒会に関しては何も」
引っ掛かるその言い方に、書類に落としていた視線を上げ先を促すと、副会長は少し躊躇うようにして続けた。
「…会長の親衛隊がウルフに制裁を加えようと動き出しました」
それに伴い風紀会が動いてます。
「瑛貴を…?」
「はい。何でも食堂の一件がどうとか。心当たりはありますか?」
会長?と投げられた言葉は右から左へ。
瑛貴を制裁する?
その台詞にクッと酷薄な笑みが溢れる。
「馬鹿な奴等だ…」
すぅっと冷えた空気に、副会長は知らずの内に一歩後ずさる。
「か、会長?」
「何だ?」
しかし、次の瞬間には何事も無かったかの様に全ては元通りになっていた。
一方、三年S組の教室では瑛貴が編入して来ても特に問題も起きず、その存在はすんなりと受け入れられた。
同じクラスに生徒会長、風紀会長がいるせいか、騒ぎ立てられる事もなく。
「高杉 瑛貴。別に仲良くしなくていい」
ここには羨望の眼差しも、憎悪の視線も存在しない。
本当に普通のクラスだった。
頭が良いからどうだとか、そういうことも一切無い。
ちらほらと見える顔の中に夜の街で見かけたことのある総長の姿も幾つかあったが、特に反応は無かった。
朝のHRが終わり、さっさと鷹臣の所にでも行こうと席を立った俺に、隣に座っていた奴が話しかけてくる。
「高杉」
「あ?」
「お前には必要ないかもしれねぇけど一応教えとく」
北條には親衛隊っていう厄介な組織がついてる。
見目が良い北條に熱を上げて、勝手に騒いでる連中だ。
「その北條の親衛隊がお前を潰そうと狙ってるぜ。ンなことしても意味ねぇのにな」
ふっと男らしい笑みを浮かべて笑った男を見下ろす。
「…何でそんなことを俺に言う?」
「そりゃクラスメートだからだ。それに、俺のチームは解散させられたがお前の事は嫌いじゃない。…まっ、お前は覚えてねぇだろうがな」
「フン、物好きな奴め」
一時限目のチャイムが鳴る前に、俺は教室を後にした。
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