08
その噂は自然と俺の耳にも入ってきているが別に何とも思わない。
「周りがどう思おうが、俺の知ったことじゃない」
重要なのは瑛貴がどう思うかだけだ。
ちらりと瑛貴を見上げれば、瑛貴はフッと口端を吊り上げクツリと低く笑った。愛しげに瞳を細め、耳元に唇が寄せられる。
「お前のそう言うとこ好きだぜ」
低く甘く流し込まれた声音にゾクリと背筋が震える。
「ん……」
やんわりと耳朶を甘噛みされ、重ねていた瑛貴の手が妖しく腰を撫で…。
「って、待て待てお前ら!特に高杉!」
「あぁ?」
まだ居たのかと、瑛貴は声を上げた東雲と顔を赤くして視線反らした雪谷を邪魔そうに見やった。
つられて俺も東雲の方に視線を移す。
「北條がタイガーだってのはまぁ、分かった。お前らの邪魔するつもりはねぇが一つだけ言わせてくれ」
「何だ」
嫌に真剣な顔をした東雲に、瑛貴が面倒くさそうに先を促す。
「絶対に問題を起こすなよ」
「………」
その台詞に俺は沈黙で通し、瑛貴は酷薄な笑みを浮かべる。
「相手しだいだな」
「……北條。今まで以上に身の回りには気をつけろ」
瑛貴が問題を起こすとすれば、それは必ず俺が関係している。そのことを身に染みて分かっている東雲は俺に念を押してくる。が、東雲は一つ見落としている。
その逆もあるってことを。瑛貴になにかあれば俺が動く。
まぁ、わざわざ教えてやる必要もないから言わないが。
俺は東雲の言葉にそんなことを思いながら頷き返した。
その後、会議の時間が…と言った雪谷に東雲は連れていかれ、俺と瑛貴は自室へと戻って来た。
ガチャンと背後で外と中を隔てる扉が閉まる音がする。
「鷹臣」
先に部屋の中へ上がった俺は、後ろから瑛貴に腕を掴まれ、引かれるままに広い胸の中へ閉じ込められた。
「ンっ…、瑛貴。…ちょっと、待て」
後ろから覆い被さってきた瑛貴の唇が首筋に寄せられ、吐息がかかる。押し付けられた唇の感触に吐息が震えた。
「もう待てねぇ」
ブレザーのボタンを外され、瑛貴は器用に俺のネクタイを解いていく。
グッと腰を引かれ、知らしめるように熱を持った下肢を押し付けられた。
「――っ」
瑛貴が俺を欲しているのがまざまざと伝わってきて、その事実がたまらなく俺を喜ばせる。
「瑛…貴…」
掠れた吐息を吐き出し、俺は自ら瑛貴に身体を擦り寄せた。
すると、耳元で低い声がクツリと笑う。
「そうだ。お前も俺を欲しがれ」
プチプチとワイシャツをはだけられ、瑛貴の右手が肌に触れる。臍から徐々に上がってきた指が、胸元を這う。
「ンッ……。お前、だけじゃないからな」
バサリと手にしていた書類を廊下に落とし、俺は身体を反転させて瑛貴と向き合った。
そして、情欲をちらつかせる赤い瞳を愛しげに見つめ、噛みつくようなキスを送る。
「ン…ふっ…っ…」
それを瑛貴は満足気な笑みを浮かべて、歓迎する。差し出した舌を絡めとられ、水音を立てて唾液を交わす。歯列をなぞられ、口内の奥まで犯される。
「…んっ…ふっ…ぅ」
引きずり出される快楽にずくりと体が疼く。
とろりと熱に浮かされ滲んできた瞳に瑛貴は一度唇を離した。
「ン…ぁ…っ…」
「…鷹臣」
互いの唇を繋ぐ銀の糸。瑛貴は見せつけるようにべろりと赤い舌を翻し舐めとった。
その仕草にぞくぞくと背筋を震わせていれば眼鏡を引き抜かれ、廊下に投げ捨てられる。
カシャンと眼鏡が音を立てて落ちた事を頭の隅でぼんやりと認めながら、俺は目の前で本能を剥き出しにしてにぃと笑った恋人に見惚れていた。
「足腰立たなくなったら俺が世話してやる」
「あぁ…、頼むぜ」
俺は頷き、瑛貴の首に両腕を絡める。それをきっかけに俺達は快楽の波に溺れていった。
「っ、…ン…あァ…っ」
「はっ、…きちぃな。半年…浮気してねぇだろな?」
ぐっぐっと中に押し込まれる熱い塊に、俺は乱れた息のもと口を開く。
「してねぇ…っ、…ンぁ…っ。…お前にしか、…触れさせ…ねぇ」
「上出来だ。…はっ、俺以外に触れさせてたら殺すぜ」
ギラリと鋭く細められた瞳にどくりと鼓動が跳ね、はっと震える熱い吐息が唇から漏れる。
瑛貴の背に回していた右手を瑛貴の頬に添え、俺はクツリと艶やかに笑って聞き返した。
「俺を…?」
「相手に決まってんだろ。…お前にはキツい仕置きだ」
頬に添えていた指をとられ、やんわりと噛まれる。
「んっ…」
舌先で指をなぶられ、徐々に唇が手から腕、肩へと上がっていく。首筋を舌が這い、ゆっくりと噛みつかれる。
「…ぁ…くっ」
ピリピリとした痛みが走り、俺は背を反らした。
その衝撃でぎゅっと中を締め付けてしまい、瑛貴が眉を寄せた。
「くっ、…はっ…。動くぜ」
「ん…」
久し振りということもあってか、馴染むまで待っていてくれた瑛貴。待てねぇと言いつつも気遣ってくれる瑛貴に、俺の方が待てなくなって、自ら唇を重ねて先を求めた。
「お前が、欲しい…。全部、俺にくれ」
「上等。…ククッ、俺の方が喰われそうだぜ」
グッと腰を掴まれ、深く深く繋がる。
「あっ、あぁっ!…ン…はっ…ぁっ…」
「鷹臣…」
熱の滲む掠れた声に名を呼ばれ、辛うじて残っていた理性もいつしかどろどろに溶かされていった。
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