06


シンと時が止まったように静まり返った食堂。

そこへ何も知らないウエイターが注文した料理を運んできた事でざわざわと波のように音が戻ってくる。

元から瑛貴以外興味の無い俺は椅子に座り直し、瑛貴も生徒達に興味が失せたのか椅子に座った。

共に箸を手に取り、周りの騒ぎなど目もくれず自然な動作で食事を始めた。

「…クラス、一緒だな」

「へぇ、何組だ?」

「三-S。三年の中で成績上位三十人編成のクラスだ。特典に授業免除が与えられてる」

ただし、一度でもテストを落とすと免除は使えなくなる。実際使う奴は少ないけどな。

「お前は使ってるのか?」

「俺はそれとは別に生徒会の特権で授業免除を貰ってて、そっちを使ってる」

主に生徒会の仕事の為に使ってる様なものだ。

「ふぅん、…何だか面白くねぇな」

「何がだ?」

カチャッと箸を御膳の上に置いた瑛貴はテーブルに右肘を付き、スッと瞳を細めた。

「この半年、俺は放っておかれて、お前は自分の授業も受けねぇでこの学園の奴等の為に働いてたって事だろ」

「………」

俺も箸を置き、剣呑な眼差しを向けて言う瑛貴を見つめ返す。

「その免除って奴、明日一日俺の為に使え」

「初日からサボるつもりか?」

「俺の最優先はお前だ。それにお前、疲れてるだろ」

あれしきのキスで根を上げるお前じゃねぇだろ。

瑛貴から伸ばされた左手が俺の目元をそっと撫でた。

常にクールで人を近寄らせない雰囲気を持つ会長。その会長が見慣れぬ人物と親しげにしている。

「あの人誰かな」

「会長は皆のものなのに何アイツ」

「でもさ、凄く格好良くない?」

「ひっ、何でウルフがこんなとこにいんだよ」

「俺のチームアイツに潰されたんだ。許さねぇ」

その姿に生徒達は様々な反応を見せた。

「あ、いたいた。会長!」

そこへ聞き慣れた声が入って来て生徒達の視線が生徒会席から食堂の入り口に移る。

俺を呼ぶ声に瑛貴は眉を寄せ、俺の目元から手を離した。

「誰だ?」

「二年の生徒会書記」

近付いて来た書記は瑛貴に気付くとその瞳を輝かせる。

「うわ、ウルフだ。本物だ!握手してもらって良いですか?俺、ウルフに憧れてて」

「…うぜぇ。消えろ」

騒ぐ書記を瑛貴は仁辺もなく突き放す。

「くーっ、普通にそういうこと言えちゃう所がまた格好良い」

あ、会長。下書き出来たんで確認して下さい。

書記は瑛貴の冷たさなど意に介さず、むしろ喜び、俺に紙を差し出してくる。

「後で見させてもらう。それと、明日だが用事が入っちまって生徒会室に顔を出せそうにない。急ぎのものは副会長に処理してもらってくれ」

俺は紙を受け取りながら、瑛貴にも伝わるよう書記に言った。

明日は一日、瑛貴の事だけ考えて瑛貴の為に使おう。

普段の行いのお陰か書記は疑うこともせず了承してくれた。

「会長も大変ですねー。たまには休んだ方が良いですよ。それじゃ、俺はまだやることあるんで」

ペコリと不良とは思えぬ律儀さで俺と瑛貴に軽く頭を下げて、書記はとっとと食堂を出て行った。

「何だアイツ」

それまで不機嫌だった瑛貴はあっさり身を翻した書記の背に、不可解だと言う顔を見せた。

かくいう俺も、瑛貴が編入してくると知った時からあれだけ騒いでいた書記が大人しく去っていったのには疑問を持った。

「…とりあえず部屋に戻ろう」

考えても書記が何を思って行動してるのかは本人にしかわからない。

俺は瑛貴を促して席を立つ。

そして、生徒達の視線を浴びながら食堂を後にしようとした。ら、

「会長?そちらの方は見ない顔ですが…知り合いですか?」

食堂の入口で副会長に声を掛けられ、足を止めるはめになった。

「今日来た編入生だ。そっちは今から昼か?」

「えぇ」

「あーっ、会長と副会長だ!」

「知らない人がいるー」

「ちょっ、手、離してっ」

副会長と話しているとエレベータから会計の双子と、双子に手を掴まれた佐倉が引き摺られるようにしてやって来た。

「鷹臣」

副会長が双子と佐倉に気をとられている隙に、瑛貴が面白くなそうに俺の名を呼んだ。

分かってる。俺もこんなとこで時間をとられたくはない。

「副会長、俺は編入生の案内がまだ終わってないから行くぞ」

「あ、これ判子貰った書類です」

「さんきゅ」

俺は口から出任せを行って、双子が乗って来たエレベータとは別方向にあるエレベータに向かった。

背後では副会長と双子が佐倉を巡って何か言い合っているのが聞こえた。



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