05
「あぁ…、やっぱりその眼鏡邪魔だな」
俺の前ではかけるな。
また眼鏡をとられそうになって俺は瑛貴に待ったをかけた。
「これが無くなると俺は大変な目に合うんだ。今まで以上に視線を集めるだろうし、最悪俺がタイガーだってばれる可能性が出てくる」
「ばれるのが嫌なのか?」
「嫌なワケじゃない。ただ、ばれると周りが煩くなるし面倒事が増えるのは確実だ」
俺は面倒臭いのが嫌いだ。
そう言い切った俺に瑛貴はため息を吐いた。
「…だったら何で生徒会長なんて面倒なもんになってんだ。一番煩わしいもんじゃねぇか」
現にお前は他所の奴等に仲間になれと誘われる度に煩わしいと、チームなんて面倒臭いと声を掛けられた先からそのチームを悉く潰してきたじゃねぇか。
まぁ、俺はお前に声掛けた奴等を潰せて良かったんだがな。
「成り行きだ。面倒事は避けて静かにしていたはずなんだが、気付いたら生徒会長に指名されてた。指名に拒否権は無いし、そんなことで騒ぎ立てるのも面倒なんでやってるだけだ」
「はっ、お前らしいっちゃらしいな」
周りの奴等はきっとそんな事気付いちゃいない。
そういう所がクールだと言われる要因だと俺は知らない。
結局眼鏡の件は部屋の中ではしないと決め、俺達は寮内にある食堂に向かう為に部屋を出た。
「そういやまだ半年も姿消してた理由聞いてねぇぞ」
「聞いて怒らないか?」
「俺が怒る内容なのか?」
二人でエレベータに乗り込み、三階を押す。
俺は瑛貴の隣に立って肩を竦めた。
「言ってみろ。聞いてから判断してやる」
「俺は別に姿を消したわけじゃない。忙しくていけなかったんだ。今はもう落ち着いてるけど、その時期ちょうど生徒会長なんてもんになったばっかで」
チン、とエレベータが三階に到着した事を告げ、ドアが開く。
「だったら連絡ぐらいしろ」
「携帯はちょっとした事情があって壊した。買いに行くのも面倒臭かったからまだ買ってない」
「後で俺が買ってやるから連絡ぐらいつくようにしておけ」
瑛貴は俺の面倒臭がりに呆れるでもなく言う。
「そんなものもう必要ないだろ?側にいるんだし。会いたい時に会えるじゃねぇか」
「それでもだ」
「…瑛貴がそこまで言うなら買うか」
登録する番号はお前だけだけど。
エレベータを降りて瑛貴と話ながら食堂へ足を進めれば、やはりというか瑛貴に視線が集まる。
「きゃー、見て見て!会長の隣にいるひと格好良くない?」
「あいつ、ウルフだ…」
「格好良いー、抱いてー!」
俺はいつも以上に煩い生徒共に眉を寄せた。
だから嫌だったんだ、食堂に来るのは。
煩い、見るな、こいつは俺のだ。
俺は生徒達を冷ややかな眼差しで眺め、瑛貴を生徒会専用の席に連れて行く。そして、生徒達から見えない位置に瑛貴を座らせた。
「煩いだろうけど気にするな」
あんなものは騒音と一緒だと言いながら料理の注文の仕方を教える。
タッチパネルで料理を選択し、それが終わったらパネルにカードを当てて…
と、説明していれば瑛貴が俺の言葉を遮って言った。
「いつもこうなのか?」
「そうだ。煩くて敵わない」
すると瑛貴は眉間に皺を寄せ、いきなりガタリと席を立つ。
「瑛貴?」
俺はそんな瑛貴に腕を掴まれ、隣に立たせられた。
「おい」
「黙ってろ」
すぅっと息を吸い込み、瑛貴はこちらに注目している生徒達に殺気混じりの鋭い眼差しを向け、威圧感たっぷりの低い声で言い放った。
「鷹臣は俺のもんだ。変な目で見るんじゃねぇ。もし次に俺の前でふざけたこと言ってみろ、…潰してやる」
ざわっと食堂の中が一瞬にして静まり返る。
俺は口を挟まずただ、凛と隣に立つ瑛貴を見つめていた。
「お前も浮気するなよ」
「んっ……」
瑛貴が振り向き、視線が合うと優しい口付けが落とされる。俺は瑛貴だけを見て、了承する様に笑みを溢した。
…何が北條会長抱いて下さいだ、
鷹臣はてめぇ等みてぇなクズにはもったいねぇ。似合わねぇ。
瑛貴は食堂に入ってから鷹臣に向けられる視線と言葉が気に入らなかった。例え鷹臣本人が相手にしていないと言えど、ムカついた。
「鷹臣、好きだぜ」
「ん…」
ちゅっとわざとリップ音を立てて瑛貴は唇を離した。
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