04
とにかく机上に置かれた書類を処理しようと、それぞれ振り分ける。
紙を四つの束に分けて、編入生を連れ込んだと思われる会計を呼ぶ。
「会計、先月の交流会の会計はまだか」
双子は応接室に編入生を置いてやって来た。
「あれ?たしか持って来て…」
「ああっ!朝慌てて、部屋に置いてきちゃった…みたい」
てへっと笑って誤魔化そうとする双子に俺は四つの内一つの紙束を渡して、静かに告げる。
「今すぐ取って来い」
「「はぁい」」
そして次に副会長を呼ぶ。
「副会長、この書類を職員室に届けてくれ。上の三枚は生徒会顧問の判子が必要な物だ。判を押してもらったら持って帰って来てくれ」
「了解。でも生徒会顧問って中々捕まらないんだよねぇ」
「今日中に貰えれば良い」
そう付け加えて、一人補佐をつけて生徒会室から出した。
「書記」
「はいは〜い」
「お前はこの間の全体会議の内容を纏めておけ。生徒用と教師用の二部、印刷する前に俺が確認するから下書きの段階で見せに来い」
その他に分けた紙の束を一つ、手渡した。
「アイツ借りても?」
指差した先には残りの補佐がいる。俺は連れてけという意味で頷いた。
皆出払ってしまい、生徒会室には俺と佐倉だけになる。
困惑したようにチラチラと俺を見る佐倉に俺は視線すら向けず、今日中に処理すべき案件が書かれた紙に向けた。
「用がないなら出ていけ。気が散る」
出来れば昼前には部屋に戻りたい。
佐倉は仕事を始めた俺に遠慮してか、小さな声で失礼しましたと言って部屋から出て行った。
「………」
シンとした室内に心が落ち着く。
書類に目を通し、内容を確認してから直筆のサインと会長印を押していくという作業を黙々と進めていった。
それから十五分過ぎた頃、双子の会計が交流会の会計報告を持って戻ってきた。
「会長〜。はい、報告書です」
「ん?あっ、佐倉ちゃんがいない!もしかして会長、帰しちゃったんですか?」
俺は双子から報告書を受けとり、それに視線を落としながら口を開く。
「ここはお前等の部屋じゃない。連れ込みたいなら佐倉を寮の自室に連れ込め」
「うそっ!?会長、僕達のこと応援してくれるの?」
勝手に内容をそう解釈した双子に、俺は訂正するのも面倒臭くなって一つ頷いた。
俺に迷惑がかからなければ好きにしてくれて結構。
佐倉が誰とくっつこうと興味はない。
カタンとペンをペンスタンドに戻し、会長印を鍵の付いた引き出しにしまう。
時計を見れば十二時を五分過ぎていた。
「………チッ」
誰もいない室内で時計を見て一つ舌打ちし、俺は立ち上がる。
会計は報告書を提出してすぐ部屋を出て行ってしまっている。
俺は足早に生徒会室を後にし、瑛貴の待つ寮へと向かった。
この時間帯、寮の食堂も校舎内の食堂も混む。
そんなところへ瑛貴を連れて行きたくはないが。
生徒会専用のカードでエレベータを動かし、自室の鍵を外す。
玄関で靴を脱ぎ、リビングのドアを開ければ瑛貴はソファに身を沈めて眠っていた。
「………」
他者を威圧する鋭い眼差しも、今は瞼の下に隠れ、穏やかな表情を見せている。
その頬にそっと静かに指で触れ、俺は口元を緩めた。
そして顔を近付け、瑛貴の耳元で囁くように声を出す。
「瑛貴、起きろ。帰って来たぞ」
ふるりと瑛貴の瞼がゆっくり開き、間近で赤の瞳と視線が絡んだ。
「…起きてる。お前が近くに来たからキスでもしてくれんのかと期待したんだがな」
からかうように笑った瑛貴は喋りながら俺の唇を啄む。
「寝てる相手にしても意味がないだろ」
それに俺は瞳を細めて応えた。
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