02


部屋の前に立ち、ネームプレートを確認する。

・糸井 久弥
・橘 來希

橘の下はライキか。まっ、どんな奴でも俺は負けねぇし。

カードキーをスライドさせ鍵を外すと中に入った。

「うわぁ、広ぇ」

学生寮の一室としては広すぎやしないか?

自分の思い描いていたのと違い、俺の唇からは驚きの声が溢れ落ちる。

玄関を上がり、左手にある部屋に入る。

どうやらここはリビングのようだ。その向こうにキッチンが見える。

次いで洗面所やお風呂、トイレなど室内を確認してみる。

最後にリビングに戻ってきて、俺はまだ開けていない二つの扉を交互に見た。

たぶん、どちらかが俺の部屋で片方は橘の部屋だろう。

「どうしよ…」

俺は迷った据え、片付けもあるしと腹を決め左の扉を開けた。

「ビンゴ♪」

どうやら当たったらしい。部屋の中央に段ボールが積み上げられていた。

中には勉強机とベット、クローゼットが設置されており、俺はさっそく片付けに取り掛かった。








一通り片付け終えた俺は夕飯までまだ時間があるのを確認し、一眠りすることにした。

最近ばたばたしてたからなぁ、ちょっと疲れたかも…、と沈んでいく意識の中でそんな事を思った。

その時、俺の頭の中にはすでに問題有りの同室者の存在などなかった。





◇◆◇




「んっ…」

部屋のドアが開かれる音とうっすら差し込んでくる光に意識が浮上してくる。

そして、人の気配がして近付いてくるのが分かった。

「何だぁ?寝てやがんのか」

不機嫌そうな声が頭上から降ってくる。

「んっ…ぅるさ…っ…」

俺は今だまどろみの中でそう言った。

「へぇ、声は俺好みだな。よくよく見りゃ体も細いし色も白い」

すぐ側に立ち、枕に顔を埋めて眠る俺の後頭部にソイツの手が伸ばされる。

その気配に、俺はとっさに眠りの淵から覚め、髪に触れる寸前のソイツの手を振り払っていた。

「―――っ!!」

ソイツは俺が手を弾いたことに驚いたのか目を見開いた。

かくいう俺もその手の持ち主を見て驚いていた。

ソイツは金髪の髪に吊り上がり気味の茶色の瞳、両耳にピアスをいくつも付け見ただけで不良と分かる奴なのだが、俺が驚いたのはそこではなくコイツの容姿だ。

雑誌のモデルの様にバランスのとれた体格に、普通に笑えば格好良いのであろう整った顔。

思わず俺はソイツを凝視してしまった。

そして、先に立ち直った相手が口を開く。

「何しやがるてめぇ。顔が良けりゃ許してやったがてめぇはアウトだ」

「はぁ?」

コイツの許す許さないの基準がよく分からなかった俺は聞き返した。

しかし、相手は何も答えず俺の胸ぐらを掴んできた。

「ぐっ…」

って、コイツ俺を殺す気か!?絞まってる、絞まってる!!

「俺に手をあげたこと後悔させてやる」

ギラリと双鉾を光らせ右拳を振り上げる。

俺は冗談じゃねぇ、と舌打ちして拳が届く前に相手の横っ腹めがけて鋭い蹴りを放った。

サッ、と瞬時に交した相手はその蹴りの鋭さに瞳の色を怒気から興味に変えた。

「へぇ、ただのガリ勉眼鏡かと思ったら随分喧嘩慣れしてんじゃねぇか」

ヤバかったか?

俺は内心コイツの鋭さに関心した。

だが、ボロは出さない。

「ケホッ…ケホッ、そうですか?ただの護身術ですよ。こんな成りしてると良く絡まれるんで」

「護身術ねぇ…」

相手は面白いものを見付けたと言うように瞳を細めて俺を見る。

「お前、名前は?」

「そう言う貴方こそ誰ですか?」

大体予想はつくが間違っていると困るので聞いてみた。

ソイツは鼻で笑い、思った通りの名前を口にした。

「橘 來希、てめぇの同室者だ」



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