01
「うへぇ〜、でっけぇ」
俺は今、どこぞの国の城かってぐらい豪華できらびやかな造りの建物の前に立っていた。
あ、申し遅れました。
俺の名前は糸井 久弥。ここ、彩王学園に外部からの新入生としてやってきた。
彩王学園は全寮制で、入学式を明日に控えた俺は今、入寮手続きをしに寮までやってきたというワケだ。
俺は寮らしき建物に入るとさらに驚きに目を見開いた。
だって入ってそうそう頭上にシャンデリア、床には赤絨毯、壁には絵画、そして所々に高そうな置物。
「本当にここは寮なのか…?」
俺は疑わしく思いながら寮監室とプレートの掲げられている部屋の扉をノックした。
-コンコン、コンコン-
しかし、一向に人が出てくる気配はしない。
もしかしていないのか?
と、首を傾げながらドアノブを捻ってみた。
-ガチャリ
「あ、開いた。なんだ、いんじゃねぇか」
開いたドアの隙間から中を覗き込み、声を掛ける。
「すいませーん、入寮手続きに来たんですけど〜」
ガタリ、と部屋の奥から音がして二十代後半のボサボサ髪の男が現れた。
男は片手を口元にあて、今まで寝てましたと言わんばかりに大欠伸をした。
こいつが寮監か…。
「あ〜、で何の用だって?」
寮監はよっこいしょ、と椅子に座ると俺に中に入ってくるよう言い、寮監の前の椅子に座るよう促された。
「入寮手続きにきたんですけど…」
椅子に座った俺を寮監は見定めるよう上から下までじろじろ眺めてくる。
なんだコイツ。
俺はぶしつけな視線を不快に思いながらも口にも表情にも出さなかった。
寮監は一頻り眺めると俺から視線を外し、棚の中から紙束を取り出した。
「お前、名前は?」
「糸井です」
糸井ね、と呟くと紙束の中から紙を一枚引き抜き、ペンと一緒に渡される。
「内容を確認したら、それに名前を書け」
渡された紙には寮内の規則などがことこまかに書かれていた。
俺は一通り目を通すと、一番下の欄に名前を記入して寮監に返した。
そして、それと交換するようにオレンジ色のカードを渡される。
「これが寮の鍵だ。ドアの横に通す所があるからそこに通せばいい。それから、このカードにはクレジット機能もついてるから食堂や学内で買い物する時に使え」
これだけでそんなこと出来んのか、と受け取ったカードをまじまじと見る。
「んで、お前の部屋は…」
紙に視線を落としたまま言葉を途切れさせた寮監はいきなりあ〜ぁ、と額に手を充てて哀れんだ瞳を俺に向けてきた。
その意味が掴めない俺は首を傾げて寮監を見返す。
「何ですか?」
「いや、可哀想に。お前の同室橘じゃねぇか」
「タチバナ?」
そいつが何だって言うんだ?
俺が疑問に思っていると寮監は察したのか説明してくれた。
「橘はいろんな意味で手が早いんだ。お前の場合そっち方面の心配はないが…」
「それって気に入らない奴はボコるって事ですか?」
そっち方面とかはよく分からないが何と無く読めてきた展開に俺は口を挟んだ。
思っていた通り寮監はそうだ、と頷いて言葉を続ける。
「とにかく暴力を奮われそうになったら逃げろ。お前見るからに弱そうだし。もし、本当に危なくなったら俺ん所に来い」
最初とはうって変わり、真剣にそう言ってくれる寮監に感謝しながら俺は心の中でそんな弱そうに見えるのか?と自身の格好を思い返した。
実は俺、今の姿は本当の姿じゃない。
黒眼、黒髪に黒渕の眼鏡。制服もきっちり着込んで今は優等生スタイルになってるけど本来は違う。
本来の俺は銀髪に蒼眼。そんでもって蒼天というチームの総長なんかもしている。
と、まぁそれは追々説明するとして俺は寮監からありがたく、その忠告を受け寮監室から退出した。
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