03


思わず一歩後ずさりして反射的に逃げ道を探した俺は悪くないと思う。目ざとくその行動に気付いた遊士の憎たらしい笑みが深められる。

「遊士の言う通りこれも何かの縁です。一緒に食後のお茶でもどうですか?」

だが、俺を引き止めたのは遊士ではなく幹久の方であった。俺はその誘いを即座に断る。

「いや、藤峰先輩の所でお茶も済ませてきたから」

結構ですと強めにはっきりと言い切る。

「そうですか…」

「じゃぁさ、お菓子でも摘まみながら話さない?」

幹久の誘いを難なく躱せたと思ったら次は昇が声を弾ませ、嬉々として俺を誘ってくる。
なんだ、こいつら。なんで俺を誘う。そんなにヒマなのか。

「新歓の時の話もしたいしさぁ」

わくわくとした顔で話しかけてきてはいるがその瞳の奥に油断ならぬ好奇心の色がありありと浮かんでいる。俺にとっては警戒度を上げるものにしかならない。

「あーっと、俺、この後和真とテスト勉強の約束があるから」

適当に理由をでっちあげて昇の誘いも振り払う。
するとそこでふと表情を真面目なものに変えた遊士が余計な口を挟んできた。

「それだったらそこの部屋で京成にでも教えてもらえ」

「えっ?」

いきなり名指しされた京成を始め皆の視線が遊士に集まる。

「どんぐりの背比べしてるような奴に教えを請うより効果的だぜ。なぁ、幹久」

話しを振られた幹久も遊士の意図に気付いてか深く頷き返す。

「まぁそうですね。京成は春日先輩仕込みの所もありますし。木下君と二人で勉強するよりは。お茶とお菓子もだしましょうか」

「やった!それなら俺もお茶に参加する!」

何故か勝手に決められた予定に昇も喜んで話に乗って来る。

「ちょっと待て!俺は参加するなんて…」

一言も言ってない。春日先輩仕込みという所は気になるけれども。ちらりと京成を見た俺に京成が一つ深々と頷く。

「大丈夫だ。今の糸井でも何とかなると思う」

「…って、ちょっと待てよ!なにその俺の成績が酷いみたいな感じ。俺まだこの学園に入って正式なテストは初めてだし。俺の成績知らないだろ!」

嫌な言い方をするなと、優等生の仮面を忘れてつい吠えてしまう。
またそれを見て遊士がとどめを刺してきた。

「知らなくてもお前のその行動が馬鹿っぽいせいだろ。似非優等生」

脳筋というか。お前は何でも力づくで解決しようとしているように見えるんだ。

「なっ!?アンタに言われたくねぇし!」

「はっ、そう言うことはSクラスに上がってから言うんだな」

「総長と副総長はSクラスだもんなぁ」

「昇も頑張ればいけるでしょうに」

「やだ。がり勉に見られたくないしー。な、京成」

「俺は目立ちたくないだけ」

Sクラスというのは俺がいるAクラスより上のクラスのことだ。つまり各学年の成績上位者が在籍する少人数クラス。まれにわざと成績を下げてAクラスに留まる者達もいるが。俺のは単なる入学試験で出した現在の実力でAクラスに振り分けられただけだ。遊士の正論にぐぅの音も出ない。

「さて、話も纏まった所で廊下で騒いでいるのも迷惑ですから行きましょうか。遊士、久弥」

視線をぶつけ合う俺達の間にさっと割って入った幹久がやんわりと話を進めて来る。

「あぁ、そうだな。また掃除屋に見つかると面倒だ」

行くぞと言って俺は遊士と幹久の二人に両側を塞がれ、それぞれに片腕を掴まれる。

「はっ?いや、だからっ、俺は…!」

「久弥の好きな飲み物とお菓子を用意してあげましょう。何がいいですか?」

「騒ぐな。少しは学習しろ」

てきぱきと生徒会室の扉の鍵を外した昇に生徒会室の扉を開けられ、俺は二人に両腕を引き摺られるようにして、またしても敵の巣窟である生徒会室に足を踏み入れることになってしまった。バタンと扉が閉まったその後、風紀室の扉が開いたがその時には廊下には誰の姿も無かった。

「気のせいか?」

誠士郎は一人呟き、風紀室の中へと戻って行った。





応接室のソファへと座らせられた俺はむすっとした顔を隠さぬまま幹久の質問に答えた。

「コーラとポテトチップス!」

そんな庶民的なものがこの煌びやかなシャンデリアが吊るされた生徒会室に用意されている筈がないと考えて、半ば嫌がらせの気持ちを込めてそうリクエストしてやった。それなのに…。

「はい、どうぞ」

ポテトチップスはうす塩とのり塩、コンソメの三種類がありますけど、どれがいいですかとごく普通に聞かれて、逆に俺が聞き返す羽目になった。

「なんであんの?」

すんなりと出された飲み物、コーラとポテトチップスに意表を突かれる。

「それはですね…」

「はいっ!俺のストック達だから」

美味いよな。コーラとポテチの組み合わせは特に最高だと昇が当たり前の様に俺の隣に座って来て言う。その発言に幹久は少し遠い目をして言葉を続けた。

「ジャンクフード。炭水化物の塊。あまり身体に良くはありませんが、自室に隠して食べられるよりはマシです」

「なにがあったんだよ」

昇は幹久の言葉は聞こえない振りでポテトチップスの味を選んでいる。俺の呟きに答えてくれたのは意外な事に自分で自分の飲み物を入れに行った遊士だ。

「その大量の菓子のせいでソイツの部屋に虫が湧いた。あまり思い出させるな」

苦い顔をした遊士は一人掛けのソファに座ると自分で入れてきたお茶を一口口に含む。自分で飲み物を入れてきた事も意外だったが、その飲み物がお茶だったという事も更に意外だ。そして、それが顔に出ていたのか遊士が片眉を上げて言う。

「なんだ?言いたい事があるなら言え」

「いや、別に…」

ふいと応接室のテーブルの上に視線を戻せば味選びは終わったのか、袋の背を広げて置かれたポテトチップスコンソメ味の山。しゅわしゅわと湧き上がる炭酸、コーラに、すっと向かい側から一年の教科書を差し出される。

「これを使え」

京成が差し出して来たのは確かに今授業で使っている教科書たちだ。これでいよいよ強制的テスト勉強会から逃げられなくなってしまった。

「うっ…、どうも」

「うわぁ、嫌そうな顔してるぅ。そりゃ嫌だよなー、勉強なんて」

隣で笑いながらポテチに手を伸ばす昇に俺はそれもだけど、この状況もだと是非言ってやりたかった。なんで俺が敵である紅蓮の連中と。テスト勉強なぞしなくてはいけないのか。しかし、俺の正面に座って真面目に教科書を広げ始めた京成を前にすると俺は何も言えなくなってしまった。京成は唯一、こいつ等の中でノートがわりにルーズリーフやペンなどの筆記用具も用意してくれた。だから俺は仕方なく、ここは大人しく、授業でテスト範囲だと指定された教科書のページを開いた。
その間、一度応接室を離れた幹久が自分の分と京成の前に紅茶を入れたカップを運んで来る。どうやらそれぞれ飲み物の好みが違うらしい。そんな新しいことを発見しつつ、俺は教師役として優秀過ぎる京成相手に何故かテスト勉強を見てもらう。また、悔しい事にそれが結構捗ってしまった。

「おおっ、なるほど。そっちの公式か…」

「糸井は結論を急ぎ過ぎる。だから小さなミスを繰り返す」

数学で単純な計算ミスを指摘され、俺は言葉に詰まる。

「いや、一応暗算はしてるつもりなんだけど」

「言い訳は無駄。つもりも暗算も確かじゃない」

確実に筆記すれば教師によっては半分の減点で済むこともある。

「うっ…はい。これからは気をつけます」

「確かに凡ミスが多いよなお前」

にやにやしながら俺が京成に指導されているさまをただ眺めているだけの遊士に殺意が湧く。俺は見世物じゃねぇぞ。

「まぁまぁ、今後気を付ければいい事じゃないですか。それに何でも完璧にこなしてしまう人間より、可愛げがあっていいじゃないですか。色々と教えがいもありそうで僕は好きですよ」

ふふっと優雅に笑って紅茶の入ったカップを傾ける幹久に、その視線に何だか背筋がぞわぞわとする。幹久は遊士の対面にある一人掛けのソファに座って寛いでいるが、俺と京成に向ける眼差しは至って普通だ。遊士の様に面白そうに見ているのではなく、何というか、生温かいというのか、くすぐったい様な見守るような視線。幹久は終始にこにことしている。

「ばり、ばり…。ばり、ばり…」

「というか、さっきからずっとうるさいんだけど」

ばりばりと勉強している俺の隣で昇はずっと菓子を食ってるだけだ。ありえない。結局三種類とも開けているし。誰か注意しろよ。

「そもそも何で俺だけ勉強させられて、他の奴らが勉強しないんだよ」

ぎっと眼鏡の下から遊士を睨み付ければ、遊士はさも不思議そうな顔をして言い切った。

「お前がこの後勉強するって言ったんだろ」

何で俺がそこまで付き合わなきゃならねぇんだ。そんなもんテスト前に少しやれば十分だろうが。

「はぁあ?」

こいつ、テストを舐めてんのか。何の為のテスト期間だと思ってるんだ。早く帰れるのはテスト勉強をする為だろう。俺だって遊びたいのを我慢して勉強してるのに。こいつは!

「ちょっ、どうどう!糸井!シャーペンが折れるって!」

無意識に握りしめていた右手に握っていたシャーペンがミシリと軋む様な音を立てる。それに気づいた昇がポテチの欠片を飛び散らかせながら慌てて言う。

「それ、京成のだから!」

「は…っ!悪い!」

そうだ、借りものだった。慌てて右の拳を解く。京成は「シャーペンの一本なら大丈夫」と首を横に振ったが。いや、待て。一本ならって、どういう意味だ!?二本やったらどうにかなるのか?

「今のは遊士が悪いんですよ」

幹久が仲裁するよう口を挟む。

「僕達だってテスト前は勉強します。ただ遊ぶ時間、息抜きの時間と勉強する時間を使い分けてるだけです。久弥には今僕達が何もしていないかの様に見えるだけで、僕達も自室に引き上げた後はそれぞれちゃんと勉強してるんですよ」

ようはメリハリをつけて勉強しているだけの話。

「誤解しないで下さいね」

「そうそう、俺だって嫌だけどテスト前は勉強するし!本当にしてないのは春日先輩くらいじゃね?」

「ふん…。あの人は別だろ」

幹久の言葉を否定しないということは、遊士も含めてこいつら全員テスト前はしっかり勉強しているということか。それを人には見せないだけで。…いや、そんなことよりも。またしても聞き捨てならない話が。

「そんな凄い人なのか春日先輩って」

先程藤峰先輩にも少し話を聞いてきたが。またしても話題に上る春日先輩とは。遊士達の口振りからしても遊士達も春日先輩については特別視しているようだ。

遊士と幹久の視線が重なり、次いで二人の視線は京成に向けられた。

「あの先輩について知りたきゃ京成に聞け」

「えぇ、京成は彼の従兄弟ですからね」

「え?そうなのか?」

聞き返した俺の視線の先で京成がこくりと頷く。

「祥貴さんは俺の母方の兄の子だ」

へぇと初めて知る話にそうだったのかと素直に反応していれば、遊士と幹久それぞれから言葉が飛んで来る。

「そういやお前、あの先輩から指名を受けてたな。間違っても言い含められんじゃねぇぞ」

「話は通じると思いますが、嫌な事ははっきりと口に出して、絶対にその場の雰囲気に流されてはいけませんよ」

俺は一体何をそんなに心配されているのか。そして、この二人にそこまで言わせる春日先輩とは。あの人、この学園でどういう立ち位置にいる人なんだ?

「そうそう、春日先輩といえば喧嘩も滅茶苦茶強いから糸井でも殴りかかるのは止めといた方がいいぞ」

「…何を言ってるんですか?吉野先輩。俺がそんな乱暴なことするわけないでしょう」

遊士と幹久の後に何を言い出したかと思えば昇の言葉に俺はほぼ忘れかけていた優等生キャラを前面に押し出してその言葉を否定する。その際、向けられていたとある二人からの失笑と生温かい視線は綺麗に無視だ。

「糸井。俺も祥貴さんとの喧嘩はお勧めしない」

果ては正面に座る京成からもじっと見つめられ、言われる。

「だからっ、俺は最初からそんなことしませんって」

「祥貴さんの喧嘩はいつも相手が気絶して終わる。一発KOもあれば、締め落とされることもある。そこはたぶん、祥貴さんの機嫌次第。急所への攻撃も紙一重で気絶程度に留めてくれるけど。…見極めの上手い人だから」

「それは上手いとかの次元じゃなく、やばいんじゃないですか?」

見極めを失敗したら、相手は気絶だけじゃ済まない可能性も。さすがにぞっとする。
俺がそう聞いたら京成は表情を変えぬまま淡々とその場合の話を告げた。

「そうしたら正当防衛を盾にする。相手はだいたい見当違いのことで祥貴さんに絡んでくるから偶然急所に入ったと主張して無罪を勝ち取れる。祥貴さん自身には何の落ち度も瑕疵もないからと、祥貴さんは言っていた」

「えっ、なにそれ。こわっ…」

そこまで考えて暴れてるのかあの先輩は。確かに普通の人とは違う感性を持った人のようだ。喧嘩を売るのは絶対にやめよう。てか、何度も言うけど春日先輩相手にそんなことしないけどな。

「そういうことだ。似非優等生。あの先輩にはあんま近付くんじゃねぇぞ」

お前に興味を持たれても困る。面白くねぇ。

「指名したこと事態、少し気になりますしね」

ただの気まぐれか。本人が言う様に誰でも良かったのか。

「その辺、京成はどう思いますか?」

幹久に話を振られた京成は考える事無く答える。

「面倒だった。早く帰りたかったからすぐ側にいた糸井を選んだ。そこに深い意味は無いと思う」

そういや、京成が春日先輩の指名をOKして、勝手に手続きをされたんだった。

「でも、あれから俺、先輩から連絡もらってないんだけど。むしろ連絡が来ない」

そこの所はどうなっているのかと話のついでに京成に聞いてみる。すると…。

「近い内呼び出しがかかると思う。料理の手配はもう済んでいる」

「は?どういうこと?」

何の連絡も貰ってないのに、それこそ何時だとか、場所の指定も何も言われていない。なのに、料理はもう手配済み?俺は首を傾げて京成を見る。同じく隣で話を聞いていた昇も口を挟んできた。

「それっていつの話なのさ」

「場所はどこだ?」

加えて遊士からも質問が飛んだ。京成はそれらにもあまり表情を変えることなく答える。

「手配日は中間考査の最終日。場所はわからない。その時の気分で変えると祥貴さんは言っていた」

何だか謎解きの様な、推理力でも求められているかのような問答に俺はすぐにすっきりとした答えが欲しくなる。いつ、どこで、誰が、何を、何故、どのように。5W1H的な?英語はそこそこ出来る方だ。

そんな会話を聞いていた幹久がふむと一人言葉を漏らす。

「京成。貴方が彼に頼まれて食堂に手配するよう言われたのはお弁当ですね?そして、それを彼はテスト最終日に受け取って、久弥を呼び出し、その時の気分で学内の何処かで食べようと考えていると。合っていますか?」

「たぶんそうだと思う」

幹久の出した解に京成は深く頷く。

「なるほど…」

今のは俺にもよく分かった。が、春日先輩の頭の中にはきっと俺の都合など何一つ入っていないんだろうなぁという事も一緒に分かった。まぁ、良いけどな。俺は呼ばれたら行けばいいのか。何故か不思議と腹は立たなかった。新歓の時は結局無駄にしてしまったが、春日先輩からは忠告を受けた件もあるし、助けられた面もあるから、そういうことで苛立ちを覚える事もないのかも知れなかった。

落ち着いた様子で納得した俺に向かって遊士からやや強い口調で非難の声が飛んで来る。

「おい、似非優等生。俺が生徒会室に呼び出した時とはえらい違いだな。なぁ?」

もう奴に懐柔されてんのかと、よく分からない文句をつけられる。その上、幹久の視線も俺に向けられ、その瞳がゆるりと鋭く細められた。

「確かに。あれは見るからに嫌がってましたね」

「それは…アンタらの第一印象のせいだろ」

食堂でのこと。遊士に至ってはエレベータでのことや、チームとしての。

「うん?でもさぁ、それ、総長は仕方がないとしても俺や副総長、京成は何もしてないでしょ?」

第一印象って。特に副総長は外面が良いから無害そうに見えなかった?

こてっとわざとらしく首を傾げた昇に幹久がふふっと低い声で笑う。

「昇。言葉の使い方には気をつけましょうね?」

「あ、ほらっ!今の見ただろ、糸井!」

だからそれが何だというのか。俺は知っている。紅蓮の副総長は笑いながら人を殴るのだ。優しげな口調、優しげなその顔に騙されると痛い目を見ることになる。決して騙されてはいけない。こいつの親切心の裏には絶対何かあるのだ。幹久とはまだ直接拳を交わしたことはないが、族世界の噂や紅蓮副総長としての姿を見れば何となく分かる。こいつは優男の見た目に反してやばい奴だと。

「もしかして…」

そこで不意に静かな声で京成が呟いた。

「糸井。俺達の事を知っている?」

その呟きが嫌に室内に響いて聞こえた。

「あ…」

やばい。そうだ、俺の正体を隠すなら…いや、別に隠してるわけじゃねぇけど。
京成の鋭い指摘にどくりと鼓動が跳ねる。

俺が平穏無事にこの学園を卒業する為には紅蓮というチーム、生徒会役員のこいつ等とは距離を取るべきであって、俺はこいつらの事など知らない振りをすべきであった。俺が敵対チーム蒼天の総長であることはもちろん誤魔化しつつ、何も知らない一般人として。初対面を装うべきで…。そう思考したのは数舜。

変な間が開く前に何とか言葉を紡ごうとして、ズボンのポケットに入れっぱなしになっていた携帯電話が鳴り出す。

「わっ!?」

視線を集める中俺は慌てて携帯電話をポケットから取り出す。そして、そこに表示されていた名前を目にして助かったと無意識に安堵の息を吐き出す。

そう、そうだ。俺にはその手があるじゃねぇか。俺の心強い味方。

携帯電話に視線を落としてゆるりと緩んだ頬に遊士が眉を寄せて口を開く。

「誰からだ?」

「あ、あぁ…。和真からだよ。和真が色々と俺にアンタらの事も教えてくれて。今日もこうして俺が藤峰先輩の所から中々帰って来ないのを心配して連絡してきてくれたんだ」

本当、ナイスタイミングだぜ、カズ!

俺は和真からの連絡を口実にして、やっとソファから腰を上げる事が出来た。

「じゃ、そういうことで。そろそろ帰らせてもらいます。真鍋先輩、今日はありがとうございました」

「別に構わない」

そそくさと、誰かに引き留められる前に一方的に喋って扉へ向かう。

「それから一応、食べ物と飲み物。御馳走様でした。鳥羽先輩、吉野先輩」

「え、えぇ…」

「おぅ!また来いよー!」

先輩呼びに僅かに驚いた様子の幹久と、からりと笑って手を振る昇。俺は最後にちらりと不機嫌そうに眉をしかめた遊士に視線を投げて、とりあえず遊士にも一言残して行く。

「それじゃ、おやすみなさい。志摩先輩」

最初、引き摺り込まれた生徒会室の扉を今度は自分の手で開けて出る。そうしてやっと俺は生徒会室を後にしたのだった。



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