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「何だ?俺に聞かれちゃ不味い話でもあんのか?」

からかう様に來希は和真を見て、それから片割れのハムカツサンドに手を伸ばす。

「って、おい!それは俺の昼飯だ!勝手に食うな!」

來希は俺の制止を無視して無情にも口へと運んだ。

「お、意外とうめぇな。…腹減ってんだよ」

「だったらわざわざこんなとこに来ねぇで食堂行けよ!」

食べ物の恨みは怖いってこと、身を持って体験させてやろうか?この金持ち野郎め。

「落ち着け久弥。俺のミックスサンドやるから」

「へぇ、和真に餌付けされてんのかお前」

ペロリと悪びれた様子もなく、俺のハムカツサンドを平らげた來希を、俺は無視して首を横に振る。

「いい、それ和真の分だろ。自分で食えよ。第一悪ぃのは來希だ。何で食堂に行かねぇんだよ」

「奴等が居るのが見えたからな。あんなとこで飯なんか食えるか。飯が不味くなる」

心底そう思っているのか、來希はグッと眉を寄せて吐き捨てた。

「生徒会か?」

その様子に興味を引かれて聞いてみる。

「それと掃除屋だ。あんなピリピリした場で飯が食える奴は馬鹿か鈍感か、後は神経が図太い奴だけだぜ」

生徒会と掃除屋?
どういうことだ?と、和真に視線を投げれば和真も微妙に嫌そうな顔をしている。その上、

「そりゃぁ災難だったなぁ」

來希に同情する様な声を投げた。

袋の中に残っていたコロッケパンを死守して封を切る。

「それって、もしかして生徒会と風紀は仲が悪いとか?」

「さぁな。クソ会長と掃除屋が会話を交わしてるのを見たことがなけりゃ、喧嘩をした所も見たことがねぇ」

ヒョイと紙パックへ伸ばされた來希の手を俺は叩き落とし、來希の言葉の続きを引き取った和真が続けて言う。

「本人達そっちのけで、中等部の頃からあの二人は口も聞かぬほど仲が悪ぃって噂になって定着したんだが、…本当かどうか。二人は肯定も否定もしねぇしなぁ」

だから本人達が、ってより、周りの生徒達が思い込みで険悪な空気を作り出してるんだ。生徒会と掃除屋が揃うことも滅多にねぇからその噂に余計拍車がかかってるんだ。

「フン、いい迷惑だぜ」

「…俺はそんなことよりお前の方が今現在迷惑だ」

がぶりとコロッケパンにかじりつき、來希を睨む。すると、何を思ったのか來希はにやにやと笑った。

「何だ?俺のことが気になるのか?なんなら和真に聞かねぇで俺に直接聞けよ」

コイツ、いつから聞いてたんだ?

「はっ、馬鹿じゃねぇの。寝言は寝てから言え」

もそもそと、今度こそ來希を無視してコロッケパンを食べるのに集中した。








昼食を食べ終え、和真は呼びに来た孝太に連れられ、渋々視聴覚室を出て行く。

「來希、久弥に手ぇ出したらただじゃおかねぇからなぁ」

その前に何やら來希に殺気を飛ばし、それを受けた來希はクツリと挑発する様に口端を吊り上げた。

「さっさと行けよ。久弥は俺が見ててやるから」

ゴミ箱にゴミを捨てようと立ち上がった俺は、横からいきなり伸びてきた來希の腕に腰を浚われる。

「なっ!?っにすんだてめぇ!」

だが、ぞわりと走った悪寒にも似た寒気に、反射的に俺は足は動き、來希の脛へと…

「っお、っと…足癖も悪ぃなお前」

避けられた。

チッと思わず漏れた舌打ちを誤魔化すようにゴミ箱にゴミを放り、視聴覚室の扉で立ち止まってる和真に声を投げる。

「和真。俺はこの通り平気だから行ってやれよ。チームのことなんだろ?」

「あぁ、本当はついててやりたいんだが悪いな。ソイツもだが他の奴等にも気を付けろよ久弥」

「おぅ」

そうして和真を見送り、俺は來希を無視して教室に戻ろうと廊下に出る。

ほとんどの生徒が二階の大食堂に集まっているせいか、廊下に人の数は少なく…後ろをつけてくる足音が良く聞こえた。

「…何でついてくるんだよ?」

「お前の側にいりゃ飽きねぇからな」

「人を暇潰しに使うな」

ひたひたと後ろをついて来られるのは気分が悪い。かと言って横を歩けとも言いたくない。

俺は背後を気にしながら教室へと足を進めた。
…はずだった。

「よぉ、あの時はよくもやってくれたな」

「………」

俺は何故か今、人質として見も知らぬ不良とおもしき男子生徒二人に腕を後ろ手に掴まれ、拘束されていた。

「誰だてめぇ?」

自然、不良生徒複数と対峙するのは來希だ。

「忘れたとは言わせねぇぞ橘」

「あん時ゃ良くも恥かかせてくれたなぁ」

どうやら俺では無く、コイツらは來希の敵のようだ。

背後を気にするあまり、前方不注意で掴まった俺は間抜け以外の何ものでもないが、これは來希の力を見る良い機会なのかもしれない。

「はっ、あの時ってどの時だ?覚えが有り過ぎててめぇらみてぇな雑魚、いちいち覚えちゃいねぇ」

「ンだとてめぇ!」

「橘ァ!てめぇ自分の女がどうなっても良いのか?」

そう怒鳴った不良に手形がつくぐらいキツく掴まれた腕を引かれ、眉間に皺が寄る。

俺は女じゃねぇし、煩いから近距離で怒鳴るな。
と、言いたいことを飲み込み、俺は來希の力量を見る為に喧嘩の出来ない大人しい優等生を演じることにした。

「橘くん…」

「ククッ、良いぜ。好きなだけボコれよ。出来るんならな」

が、高みの見物を來希がそう易々と許すわけも無く、逆に來希は俺の力量を図ろうと不良達をけしかけるような言葉を吐いた。




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