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だからって逆ギレはねぇだろ。

向けられた敵意で昂っていた気持ちが、つまらぬものと化した存在に一気に冷めていく。

「俺は質問をしただけですが」

「お前は俺の質問にだけ答えてればいいんだ」

「…はっ、ンだそれ。馬鹿らし」

つい本音が溢れてしまう。

室内にいる生徒は誰も口を挟まず、成り行きを眺めるばかり。それは宮部の様に悪意を持っている奴もいれば、本当にただ傍観しているだけの奴もいる。

一つ言えることは味方は皆無だと言うこと。和真は元より、歯牙にかける相手でもないと判断したのだろうし、それで良い。

こんな奴相手に和真の助けはいらねぇ。

一方的に怒りを見せる佐藤教諭に、俺は更に畳み掛けようとして…止めた。

廊下に繋がる前扉に人影を見たのだ。

「………」

それを、俺が黙ったのを自分の良い方向に解釈したのか、佐藤教諭はうっすらと笑みを浮かべる。が、次の瞬間その顔は青ざめることとなった。

教室内に漂う異様な雰囲気を壊すように、何の前触れもなく教室の前扉がガラリと開けられたのだ。

「――ひっ!?た、橘!?お前、このクラスだったのかっ」

「あ?誰だてめぇ」

名字を呼ばれた來希はジロリと佐藤教諭をひと睨みで黙らせると、教壇の前を堂々と突っ切り、青ざめる佐藤教諭にはもう目もくれず、ドサリと自分の席に腰を下ろした。








來希一人の登場で場は一変した。

俺に無駄に絡んでいた佐藤教諭は口数が少なくなり、黙々と授業を再開するし、他の生徒達はどこか落ち着かない感じでチラチラと來希を見る。

当の本人は気にした様子もなく、何事か考え込んでいるようだった。

それらは次の授業でも、またその次の授業でも変わること無く。昼休みへと時間は流れる。

ガタガタと椅子から立ち上がった生徒の大半は、校舎の二階にある大食堂へと行くが、

「久弥」

「ん、今行く」

俺は食堂には行かず、一階にある購買でお昼を買って、和真と視聴覚室で食べる。

おにぎりとサンドイッチとパンと飲み物を買って、同じ様に袋を右手に提げた和真が視聴覚室の鍵を開ける。

「そういや何で和真がここの鍵持ってるんだ?」

それも当然の事の様に。

「あ〜…、まぁ、人徳って奴だ」

ほら入れ、と背を押され、曖昧に返ってきた答えが触れてくれるなと言わんばかりで。きっと不良らしく脅しでもしたか何かしたんだろう。

「ふぅん。まぁいいけど」

窓際の、陽当たりの良い椅子に座り、さっそく紙パックとおにぎりを袋から取り出す。

和真は机を挟んで俺の正面の席に座った。

パリパリの海苔が巻かれた昆布のおにぎりを食べながら俺は、紙パックにストローを刺している和真に視線を投げる。

「なぁ、和真。來希って族潰し以外になんかやったのか?」

菊地を除いて、今日教壇に立った教師は皆來希に気付くと青ざめていた。

「あぁ…、お前が気にする必要はまったくねぇんだけどなぁ。來希は中等部の時に教師相手に暴力沙汰起こしてるんだ。だから教師共は來希の機嫌を損ねたら次は自分だってビクビクしてんだよ。ガキ相手に情けねぇよなぁ」

ズズッとストローを吸い、和真は唇を歪める。

「他にも、有名どころの坊っちゃんには頭が上がらねぇときてる。なんせこの学園を実質支配してるのは生徒である生徒会だし、始めから教師に権力なんてもんは無いに等しい」

なるほど。それで宮部が教師の佐藤を簡単に操れたわけだ。

「へぇ、…そりゃ何でもありなわけだ」

呆れた声で和真の話に相槌を打ち、ハムカツサンドに手をつける。

「そういうお前こそ何でもありなんじゃねぇのか?」

「―っ!?」

そこへ、気配も感じさせず、いきなり横から声をかけられて驚く。口に入れたハムカツサンドを危うく落とすとこだった。

「あぶねぇ、俺の昼飯」

「…何しに来た來希」

半開きになっていた扉から中へ入り込んだ來希は和真の冷ややかな視線をものともせず勝手に近くにあった椅子を引いて座った。



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