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生徒会直々に歓迎会の鬼に指名されてからと言うもの、噂はあっという間に広がり、俺は不愉快な視線を、寮を出てからずっと向けられていた。

「男なら正面からかかってこいってんだ。女々しい奴」

コソコソと遠巻きに囁き合う奴等に怒りを覚える。

「そう言うなって。ここにいる奴らは皆温室育ちの坊っちゃんで、久弥みてぇに拳で喧嘩したことがねぇんだからさぁ」

俺の隣を歩く和真がのんびりと口を開く。そんな和真をチラリと見上げて、俺は唇を歪めた。

「例外もいるみてぇだけどな」

紅蓮に不知火に黒騎、黄雷に掃除屋…。まだ俺が知らないだけで他にもいるかも知れない。

俺の視線に和真は肩を竦め、下駄箱の前に辿り着いた。

すると周りにいた連中の視線が変わる。コソコソ囁き合っていた奴等がクスクスと笑い始めたのだ。

「これはまた典型的な虐めですね」

俺は優等生モードに切り換えて、ゴミで溢れる自分の下駄箱を見つめた。

「俺の貸してやろうかぁ?」

「いや、和真のだと大きすぎるでしょ」

どうしようかと首を傾げた時、後ろから寒気を催すわざとらしい声がかけられた。

「うわぁ、酷い!誰がこんなこと。あ、僕の上履きでよければ貸してあげるよ」

そこには宮部 茜がにこにこと笑いながら立っていた。

もちろん本心じゃないだろう。顔は笑っているが、冷めた目がこう告げている。

痛い目に合いたくなかったら和真や來希に近付くな。これは警告だ、と。

俺はそれを正面から受け止め、にこりと口角を上げた。

「下手くそな演技程、見てて見苦しいものはないな。上履きは自分で何とかしますから大丈夫です。余計なお世話、どうもありがとう」

行くぞ、和真。と、和真の腕を掴んで俺は事務室に向かった。

そしてその場に残された茜はカッと顔を怒りに染めて、唇を噛む。

「なにっ、アイツ!和真様を呼び捨てにして。何様!」

「どうしますか?」

宮部 茜は和真が潰したと思っている親衛隊の一員で、かつ、來希の親衛隊隊長でもあった。

一部始終を少し離れた場所から見ていた副隊長が茜にそっと話し掛ける。

「許さない。あんな奴、お二人には相応しくない!七季(ナナキ)、親衛隊を動かして。アイツを学園から追い出す」

「分かりました」

七季と呼ばれた副隊長は一つ頷き、茜の言葉に従うよう動き出す。

「後悔しても遅いんだからな」

キッと二人の去った方を睨み、茜も下駄箱の前から去った。

「ふぁぁっ…、つまんないもの見たな」

その後で、眠そうに欠伸を溢した生徒がいた。

グレーの髪に、色素の薄い灰色の瞳。ブレザーのボタンは全開で、ネクタイは見当たらない。ワイシャツのボタンは辛うじて止めてあるが、何ともだらしない格好で。

しかし、容姿が整っているせいかだらしないその格好が逆に彼を魅力的に見せていた。

「…気分が悪くなったからサボろう」

上履きに履き替えたその生徒はふらりとそのまま何処かへ姿を消した。



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