09


とりあえず菊地はいつか潰す。それで菊地の件は終わった。

「次は志摩だな」

そう言い、腕を組み、真剣な眼差しで考えてくれる和真はさすが総長を張ってるだけあってその姿が様になる。

「だったらそれこそ、その歓迎会で闇討ちしちまえば…」

「無理だな。俺もそれは考えたが難しいだろ。歓迎会は一般の生徒が生徒会の奴等と接触できる唯一の機会でもあるからなぁ」

人目が有りすぎる。

和真の言葉に孝太もうんうんと頷き、提案する。

「それより、歓迎会での親衛隊対策を考えた方がいくらか建設的だと思いますが」

いい加減真っ当な話し合いにしようと孝太がもっともらしく促した。

しかし、俺はそれについてはもう考えてある。

「対策なんていらねぇよコウタ。さっき生徒会室に行って、俺は決めた」

俺はお前等を楽しませる為の駒じゃねぇ。

「やられたらやり返す。目には目を、歯には歯を。その歓迎会とやら、俺は楽しんでやるってな」

ニィと口端を吊り上げ、好戦的な表情を見せて俺は笑った。

「―っ、ヒサ。お前…」

「何だよカズ?邪魔するなら例えお前でも俺は容赦しないからな」

わくわくと気を昂らせたまま俺はカズをジロリと睨み付ける。

「あのっ!」

「何だよ、お前まで邪魔する気か?」

「いいえ、とんでもない!そうじゃなくて…だ、だ、抱き締めても良いですか?」

「はぁ?」

いきなり投げられた意味不明な言葉に、俺は首を傾げ、とりあえずお前頭大丈夫かと返しておいた。

「孝太、気持ちは分かるが男として大事なモノをなくしたくなかったら今は我慢しろ」

和真はポンと孝太の肩を叩き、諭すように注意を促した。








そのまま部屋で話し合いをしていた流れで、俺は和真と孝太と一緒に食堂で夕飯を食うことになった。

食堂に足を踏み入れれば、昨夜と変わらぬ反応。
向けられる非好意的な視線。

俺は構わず食堂内を進むと椅子を引いて座った。

「はぁ〜、流石ですね」

その堂々とした態度に孝太が感嘆したような声を出しながら座る。

和真も周囲の事など目もくれず椅子に座るとパネルを操作し始めた。

「和真様も孝太様も何であんな平凡に…」

「なんなのアイツ…」

ヒソヒソと耳に届く陰口を綺麗にスルーして、五分とまたず運ばれてきた夕飯に手をつける。

和食御膳のおひたしに箸をつけ、味わう。

ご飯を食べる環境は最悪だが、出てくるご飯は文句無しに美味かった。

そして今夜は生徒会の連中が姿を見せることも無く、静かに時が過ぎると…思っていたのだが。

ざわりと、食堂の入り口付近が俄に騒がしくなった。

「誰か来たみたいだな」

ご飯を先に食べ終えた孝太が箸を置いて、食堂の入り口を見やる。

俺も最後に味噌汁を飲んで、箸を置いた。

「また巻き込まれるのはごめんだぞ」

さっさと席を立とうとした俺の行動を遮り、和真が聞き慣れぬ呼称を使う。

「いや、掃除屋だ」

「掃除屋?」

立とうと上げた腰を下ろし、俺は和真に聞き返した。

ちらちらと生徒達の間からかいま見えたその姿は、あの傲岸不遜な俺様生徒会長並みに顔が整っていた。

ただ、生徒達の間からはきゃーきゃーと騒ぎ立てる声は少なく、どちらかと言えば空気が妙な緊張感を孕み、凍り付いていた。

食堂の入り口から視線を戻した和真が説明してくれる。

「掃除屋ってのはなぁ、ようは風紀・風紀委員長のことだ」

「唯一生徒会と対抗できる勢力です」

和真の言葉に孝太が補足して続けた。

「もっとも、掃除屋のトップ冷泉(レイゼイ)委員長が動くことは極稀ですけど」

掃除屋(風紀)の委員長、二年S組冷泉 久嗣(ヒサツグ)。基本的に何事にも無関心で、何を考えているのか良く分からない人物だ。ただし、喧嘩は滅法強いらしい。

「あの委員長は俺達が何もしない限り無害だから大丈夫だろ」

「そうなのか?」

「あぁ」

「カズの言う通りだと思う」

その冷泉先輩とやらは、俺達の様に周りを一切無視して、悠々と夕飯を食べ始めていた。

「……みたいだな。…食べ終わったし、もう部屋に帰ろうぜ」

そして、生徒の大半がその先輩に気をとられていたので、俺達は誰に見咎められることもなくすんなりと食堂を出ることが出来たのだった。



[ 28 ]

[*prev] [next#]
[top]



- ナノ -