07
腹に手をあてたまま來希はフラリと立ち上がる。
「…ってぇ…クソッ…」
コイツ、どんだけタフなんだよ。
警戒しながら來希を睨み付ける。
次、俺の間合いに踏み込んで来たらその息の根止めてやる!
「…これだけやっても言えねぇって事は、それだけ知られちゃ不味いワケだ」
クッと唇を歪めれば、目の前からピリピリと肌に突き刺さるほどの殺気を感じ、來希の気が昂る。
「何が言いてぇ?」
逆に俺の警戒心は高まる一方だ。
数秒、考えるように沈黙した來希は何か思い当たる事があったのか焦らすようにゆっくり口を開いた。
「分かったぜ、お前の正体。その馬鹿みてぇな強さも変装も、言いたくねぇ理由もな」
俺は眉を潜め、ただ何を言われても動揺しないよう表情を引き締める。
「そうだよな。ここはあの野郎の支配下だ。紅蓮のクソ総長」
「…それが俺にどう関係するってんだよ」
「そんな所に、しかも狙われてると知ってて素の姿で現れる方が可笑しいぜ。そうだろ?蒼天の総長ヒサ」
迷わず言い切った來希に、俺は動揺を綺麗に隠しフッと口元に笑みを刻む。
「残念。その推測は外れだぜ。…もうこんな目に合いたくもねぇから、特別に教えてやる。俺は黒騎のアカだ。確認したきゃ和真に聞け」
そう、俺は別に紅蓮がいるから変装したわけじゃねぇ。だって知ったのは入ってからだぜ?
俺は一つも嘘は吐いてねぇ。けど、まさかここでアカが役に立つとは。
聞き覚えの無い名に、自信満々に違うと言い切られた來希は俺にいぶかしむような視線を向けてくる。
「黒騎のアカだぁ?証拠は?」
「だから、信じられねぇなら和真に聞けよ。なんならここに呼び出せばいいだろ?」
俺としては和真に来て欲しい。
「和真とてめぇがグルじゃねぇって保証は?」
鋭い指摘と眼差しに思わず口から余計な言葉が溢れ落ちる。
「…意外と頭良いんだな」
「あ゛?てめぇ、マジ鳴かすぞ!」
一歩踏み出した來希に俺は右足を僅か後ろに引き、いつでも動けるよう構えながら言う。
「和真が信用出来ねぇならコウタに聞けよ」
「誰だソイツ?」
間髪入れず返ってきた返事に、來希の興味の無さが伺える。
俺の偏見かも知れないがコイツは興味のある奴しか視界に入れなそうだ。
「確か名前は長谷 孝太だ。和真ンとこの副総長」
「じゃぁソイツでいい。呼べ」
とは言ったものの俺が呼べるわけがない。
やっぱ先に和真に連絡しよう。
來希から視線を離さず、ポケットから携帯電話を取り出し、アドレス帳から和真の番号を選んで押した。
『どうした?』
和真はすぐに出て、挨拶もなにもなしにそう切り出した。
「孝太を連れて俺の部屋まで来てくれねぇ?」
『……孝太に何のようだ?』
電話の向こうで少しトーンダウンした和真に、俺はやっぱダメかと半分諦めながら言った。
「理由は連れてこればすぐ分かる。とにかく連れて来てくれよ。今すぐ会いてぇんだ」
『………』
「おい!聞いてんのかよ!」
連れてくるだけでいいのに何で黙るんだよ!
何故だか渋る和真を説き伏せ、連れて来てもらうことに成功する。
「はぁ…」
そして、会話が筒抜けだったのか來希が愉快そうに笑っていた。
「ククッ、こりゃぁ和真の奴も報われねぇな」
「今度は何の話だ」
ったく、和真の次に目の前のコイツも意味不明で厄介だ。
しばらくそのままの状態で睨み合っていれば、インターホンが鳴り来客を知らせる。
「出ろ」
玄関に近い位置にいる來希に俺は視線で促す。
「チッ、仕方ねぇな」
出入り口は一つ。來希が向かった玄関だけだ。俺が逃げられないのを確認した來希は舌打ちをして俺に背を向けた。
玄関で扉を開けた音がし、話し声が聞こえる。複数の足音がこちらに近付いて来て、始めに和真が現れた。
「久弥。何があった?」
出迎えたのが俺じゃなく來希で、違和感を覚えたのだろう。電話の時の不機嫌さは鳴りを潜め、真剣な眼差しを向けられる。
俺は和真に思いが伝わるよう、ジッと目を見つめて口を開いた。
「実は…來希に俺の正体バラしちまったんだ。悪ぃ」
「!?」
「でも、來希が信じられねぇって言うから和真達に来てもらったんだ。なぁ、孝太に俺が黒騎のアカだって証言させてくれねぇか?」
首を傾げ、和真の後ろで俺を訝しげに見る孝太を俺はチラリと見やった。
すると、正面から小さく安堵した様なため息が漏らされる。
「そっちか。…いいぜ。それなら協力する」
孝太、と和真は孝太を振り返り、俺があのアカだと簡単に説明した。
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