06


何とか無事、生徒会室という名の敵地から脱出した俺は、周囲からの中傷を受けながら寮へと向かった。

「アイツ、例の新入生だろ?」

「そうそう。和真様のみならず遊士様にまで媚売って…」

ボソボソと聞こえてくる悪口に、馬鹿馬鹿しいと俺は小さく悪態を吐いた。

そして、さっさと部屋へと入る。

バタンと扉を閉めて、防音になったことを確認すると俺はかけていた伊達眼鏡を外し、叫んだ。

「あ〜、クソムカつく!どいつもこいつもぶっ飛ばしてぇ!」

ガン、と玄関の壁に拳を叩き付け俺は靴を脱いで部屋へと上がる。

こうなったら和真にぶっ飛ばしてもいい連中見繕ってもらって…

ブツブツと危険な考えを巡らせながらリビングへ入ればそこには…。

「よぉ、随分荒れてんな」

來希がいた。ソファーに身を沈め、ニヤニヤとこちらを見て笑っている。

まったく部屋に帰って来ないから、コイツがいるの綺麗さっぱり忘れてた。

「その眼鏡、やっぱり伊達か」

來希の視線が俺の手に握られている眼鏡に移る。

「だったら何だよ?」

いい加減疲れた。今日は厄日だ。

俺は誤魔化すのも面倒で投げやりに答える。

「他にもあるだろ?眼鏡に…コンタクトもつけてるな」

確信した様な言い方につい、思いきり殴ったらこいつの記憶飛んだりしねぇかなと考えた俺は悪くない。

グッと思わず拳に力が入ったのも仕方ない。

この短時間でストレスは溜まるばかりだ。

「意外と短気で喧嘩もそこそこ出来る。しかもアノ和真がやけに気にかけてやがる」

來希は瞳を細め、俺を上から下までじっくりと眺め食堂での疑問を再度投げ掛けてきた。

「久弥、てめぇ何者だ?」

菊地の忠告はこういう意味か。

鋭い視線が俺に向けられる。嘘を許さない捕食者の目。

「言っただろ。俺は俺だ。何者でもねぇ」

だが、生憎俺はそう簡単に捕まったりしねぇ。俺にだって牙はある。

「俺がそれで納得するとでも思ってんのか?」

ギラリと來希の目に狂暴な光が灯る。

俺はそれを真っ向から受け止め言い返す。

「知るか。お前が納得しようがしまいが俺には関係ねぇ。大体お前が勝手にそう思ってるだけだろ」

ジッと暫く睨み合いが続く。

俺はさっさと休みたいのに、これじゃ休むどころか疲れる。和真ンとこいきゃ良かった。

ふっと意識を反らした隙に來希がソファーから立ち上がる。

「何だよ?」

そして近付いて来たと思ったら俺の前で立ち止まり、いきなり壁に押さえつけられた。

ガァンと後頭部を壁にぶつけ、目がチカチカする。

「―っは…」

だがそれより、ギリッと掴み上げられた胸元が苦しい。

コイツっ!そういや初めて会った時にもこうして胸ぐらを掴まれた。

ギリギリと絞めつけるその腕を掴み、爪を立てる。

「離せっ…!」

「離してほしけりゃさっさと吐け。それとも無理矢理吐かせてやろうか?」

冷めきった瞳が俺を見下ろし、酷薄な笑みを浮かべた唇がそう紡いだ。

やばい、息が…。
くらくらしてきた。

「はな…せっ…」

來希の腕を掴む手から力が抜けていく。

ヒュッとおかしな呼吸音に気付いた來希は少し力を緩める。だが、緩めただけで放すことはしない。

「っは…」

一気に空気を吸い込んでしまった俺はゴホッと咳き込む。

くそっ!何で俺がこんな目に合わなきゃならねぇんだ!

苦しくて涙目でキッと、來希を睨みつける。

「へぇ、どうやら無理矢理吐かせるしかねぇようだな」

ぐっと顔が近付けられる。

それ幸いと俺は奥歯を噛み締め、頭突きをかました。

ゴッ、と鈍い音がしてクリーンヒットする。

「〜っ!」

「―っの野郎…!」

來希が怯んだ隙に、腹にも蹴りを入れて吹っ飛ばす。

にしてもいてぇ!こいつ石頭か!

俺は頭を右手で抑え、來希と距離をとった。

「久弥てめぇ、ぜってぇ鳴かす」

腹を抑え、片膝をつく來希を今度は俺が見下ろしてやる。

「やれるもんならやってみやがれ!返り討ちにしてやるぜ」

ストレスが限界を越えた俺はそう吐き捨て、感情のままに膝をつく來希の側頭部に鋭い蹴りを放った。

しかし、それは來希が上体を反らした事で虚しく空を切る。

「くっ、…てめぇ俺を殺す気か?」

「うるせぇ!てめぇだって同じ事しようとしただろうが!」

自分の事は棚に上げるつもりか!



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