04


菊地から解放された後、俺は冷静になり非常に不味い事をしたと冷や汗をかいた。

切羽詰まっていたとはいえ、紅蓮の副総長の前で暴れてしまった。

このままじゃバレるかも知れないとヒシヒシと別の意味で身の危険を感じた俺は、襟首を捕まれたまま逃げる手立てを考える。

どうしたらいい?

「さ、行きましょうか、久弥」

にっこりと微笑みかけて来た幹久に俺は目眩がした。

あ、悪寒まで。

嘘臭い笑みに圧力を感じて、勝手に名前呼びをしてきた事を咎める事も逃げることも何故か出来ぬまま俺はあっさり敵地、生徒会室に連行された。

勘弁してくれ。

こういう時こそ助けに来いよ和真の馬鹿野郎!!

立派な造りで所々品の良い装飾が施された扉、俺はとうとうその扉をくぐって、いや正確にはくぐらされてしまった。

「あ、見つけたんだ…?」

そして、おや、と疑問系で昇に出迎えられた。

だってコイツ、俺の襟首掴んだまま離してくれねぇんだよっ!

「えぇ。ところで遊士は?」

「いるよ。奥の会長室に」

うへぇ、アイツいるのかよ。不良のくせして生徒会長とかありえねぇし、これで真面目に仕事なんかしてたら笑ってやる。

襟を持たれたまま俺は生徒会室の更に中へと連れて行かれた。








コンコン、と奥の扉をノックして幹久が扉の向こうへ声をかける。

「遊士、連れてきましたよ」

ガチャと扉が開かれ、中から遊士が出てくる。

幹久に掴まれている俺にスッと視線を向け、遊士はクッと口端を吊り上げた。

こいつぜってぇ今、俺の事馬鹿にしやがった。

場所を応接室らしきところに移し、俺はようやくソファーに座らされ幹久から解放された。

そして、幹久は飲み物を入れに俺から離れ、テーブルを挟んだ向かい側に遊士が座った。

「………」

呼び出したんなら早く用件を言え!

「お前ソレ外せ」

「は?」

やっと口を開いたと思ったら何を言うんだコイツは?

「眼鏡だ。どうせ伊達だろ」

何で遊士がそんな事知ってんだよ!?

「いえ、俺視力悪いんで眼鏡無いとちょっと困ります」

内心の焦りを綺麗さっぱり押し隠して言ったのにコイツときたら。

「似非優等生。てめぇエレベーターで会った時眼鏡せずに走り去ったよなぁ?見えてんだろ。見えすいた嘘吐いてんじゃねぇよ」

しまった!そうか、あの時來希に眼鏡とられてっ!!

「それに今さら敬語なんか使ってんじゃねぇよ、気色悪ぃ」

なっ!人がせっかく!…いや、待て。ここは我慢だ俺。

軽く数回深呼吸をして。

「…何の事ですか?もしかして食堂での事を言ってるなら謝ります」

何で俺が謝んなきゃなんねぇんだよバーカ!

「俺ってキレると性格が変わるみたいで」

誰だそりゃ。俺は二重人格か?

自分の発言に突っ込みを入れつつ、俺は申し訳なさそうな表情を作ってそう返した。

ふん、これでどうだ!完璧だろ?

しかし、この男、俺の想像以上の事をして裏切ってくれた。

「へぇ。その割りには随分喧嘩慣れしてたようにみえたが?」

そう言ったと思ったら、遊士はスッと瞳を細め俺の背後に向かって一言、ヤれと命令を出した。

は?と疑問に思う間もなく嫌な予感がして俺はとっさに身を屈めた。

そして、俺の予想通り後ろから風切り音がして、俺の頭上を通り抜けていった。

「…っ、ぶねぇ!!」

「ちぇ、残念。かわされちった」

てへっ、と可愛く笑い、昇は空を切った右拳を開いてヒラヒラと振った。

「って、いきなり何すんだてめぇ!」

俺はソファーから立ち上がり、いきなり背後から攻撃してきた昇に食って掛かった。

「いやぁ、俺もこれはどうかなって思ったんだけど、総長命令だから。ごめんね」

「素が出てるぜ似非優等生」

「うるせぇ、ンなことどうでもいいんだよ!!それより危ねぇじゃねぇか!何しやがる!」

一人涼しい顔しやがって!俺の身にもなってみろ!

「どうでもいいならその眼鏡外してみせろ」

優雅に足を組みかえ、フと鼻で笑われて頭に血が昇った状態だった俺は伊達眼鏡を自らの手で外してしまう。

「ほぅ、顔は中々良いな。こりゃ橘と木下が食いつくわけだ」

はっ!しまった!

何やってんだ俺。騙された!口車に乗せられたっ!!

だ、大丈夫。まだ大丈夫だ。ちゃんとカラコンしてるし、髪だって黒い。

ヒサの姿とは似てもにつかないだろう。バレるわけねぇ。よしっ。

こんなとこでバレて平和な学園生活を崩されてなるものか!袋叩きになんかされねーぜっ!

落ち着け、と心の中で繰り返しゆっくりとした動作でソファーに座り直す。

そこへタイミングを図ったかのように幹久が飲み物を運んで来て、差し出す。

「はいどうぞ」

「あ、ども」

それを受け取り、一口口に含みはぁと息を吐き出した。

その間、からかいの色を含ませた瞳で俺を見ていた遊士の表情が僅かに変わった事に俺は気づかなかった。

「待てよ、お前のその面どっかで…」

顎に右手を添え、呟いた遊士の言葉を遮るように幹久が声をかける。

「遊士。久弥に新歓の説明したんですか?」

「あぁ?めんどくせぇ」

思考を中断させられ、考えるのを放棄した遊士は顎から右手を離すと、テーブルに置かれたカップに手を伸ばしてそう言った。

めんどくせぇなら呼ぶんじゃねぇよ。

はぁ、と文句をため息に変えて俺は口を開く。

「用が無いなら帰ります」

「え〜、帰っちゃうの?暇なら俺と遊ぼうよ!」

まだ後ろにいたのか昇がソファーを越えて隣にやってきた。



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