02
紙パックにストローをさして、口の中をさっぱりさせてから俺はどういうことだ?と首を傾げた。
「まず各学年の中から一人、コイツだって思う奴を鬼に選ぶんだ」
「うんうん」
「で、当日、生け贄にされた鬼は全校生徒に追いかけ回される。時間は一時間目開始のチャイムから四時間目終了のチャイムまで、午前中を使って行われる。範囲は学園内全部」
「学校あげての虐めかよ。腐ってんな」
「逃げ切るか捕まったら終了。俺が聞いた話じゃ逃げ切った奴なんか一人もいなかったらしいがなぁ」
それでここからが本題だ。良く聞けよ、と和真は真剣な顔で俺を見てきた。
だから俺も食事する手を一旦止め、真剣な表情で和真に向き合う。
「中でも一番怖いのは歓迎会の影で親衛隊が自由に動けるってことだ。奴等は捕まえる振りして今まで何人も潰してきた」
嫌悪感も露に吐き捨てる和真は親衛隊について俺に細心の注意を払うよう言ってきた。
「分かった。ありがとな和真」
「何かあったら直ぐに俺を呼べ。何処に居ても助けに行ってやるから」
心強い味方の声に俺は、
「んじゃ、そん時はよろしく頼むぜ」
と、最上の笑みを浮かべて和真の肩をポンと叩いた。
「〜っ、おぅ」
「ん?どうした?顔赤いぞ」
変装しても尚、隠しきれていない可愛さに和真はやられていた。
そのことにまったく気付いていない張本人は無防備に和真の顔を覗き込む。
「おい平気かよ?」
「…平気じゃねぇ。お前可愛すぎ」
「はぁ?和真、目ぇ平気か」
ヒラヒラ、と目の前で手を振ってやった。
そしたらいきなりその手を掴まれ、ぐぃと引き寄せられた。
「うわっ!?」
ボスン、と和真の胸に顔から突っ込んだ。
「〜っ、てぇ」
「ぜってぇ他の奴等に笑顔振り撒くなよ」
いつ俺が笑顔なんて振り撒いた!?
それともこの格好で笑うとヤバイのか?見るに耐えないとか?優等生スタイル結構気に入ってんだけどな…。
ぎゅうぎゅう抱き締められ、いい加減苦しくなってきた。
「か、カズ、…離せっ」
「あ〜、このまま喰っちまいてぇ」
べろり、と耳朶を熱いぬめった感触がして俺はゾワリと鳥肌をたてた。
「ひゃ!?」
そして、反射的に右拳を振るっていた。
ボスッ、と和真の腹に入り和真はうっと呻いて動きを止めた。
拘束が緩んだ隙に俺は和真の腕の中から抜け出し、服の上から両腕を擦った。
いっ、今のは一体何だ?
恐る恐る自分の耳に触れ、どうにもなっていないことを確認する。
「はぁ、良かった」
なんともなってない。
でも一体何だったんだ?あの肌がゾクリと粟立つような感じ。
もう一度思い出し、フルリと身体を震わせた。
あー、やだやだ。止めよ。
「…久弥」
「あ?」
考え込んでいた俺は声をかけられるまで腹部を擦っている和真の事を忘れていた。
って、全部こいつが悪いんじゃねぇか!
「何だよ?」
そう思ったら思わず喧嘩する時の様な低い声が出た。
「いや、その、悪かった。つい出来心で」
「……マジだったら潰してるとこだ」
「………」
嫌に真剣な眼差しでそう言われ、和真は昨日ここでされた会話を思い出し、慌てて首を横に振ってその恐ろしい記憶ごと煩悩を振り払った。
「…飯食おうぜ」
「ん」
俺は和真の正面に座り直して袋の中からおにぎりを取り出す。
ピリッ、とビニールを破いてパクッと食いつく。
やっぱツナマヨは美味いなぁ。
もぐもぐと無事昼飯を食べ終え、俺はそうだ、と声を上げた。
「どうした?」
「あのさ、俺にとっては良い事なんだけど、來希の奴夜になっても部屋に帰って来ねぇんだけどどうしてだ?」
単純に不思議に思ってそう聞いたら何故か和真は眉をしかめて嫌な顔をした。
「あ〜、それはだなぁ。…久弥が気にすることじゃねぇよ」
「何だよそれ?」
ってことは和真は來希が部屋に帰って来ない理由を知ってるんだな。
ジッと見つめた俺から視線を反らし、和真は歯切れ悪く言う。
「とにかく、アイツは他の部屋に泊まってるんだ」
自分でも苦しい言い訳をしていると分かっていながら和真は説明する気になれず心の中で舌打ちした。
その様子に俺もちょっと強引すぎたかな、と反省して言い直す。
「ほら、來希がいつ帰って来るかとか分かれば部屋の中で変装しなくてもいいんじゃねぇかなぁとか思って」
と、言えばいきなり両肩をガシリと掴まれた。
「駄目だ。部屋の中でも個室ならともかく、それ以外の場所で変装は解くな」
「え?」
「いいな」
「お、おぅ…」
変に迫力を伴った和真の声と表情に俺は流されるまま頷いた。
和真は一体俺に何をやらせたいんだろ?
変装したまま笑うとヤバイとか、それでいて絶対に変装は解くな、とか。
はっきり言って意味不明だ。
「あぁでも、俺の部屋とか俺といる場所で尚且つ他に人がいねぇ時なら解いてもいいぜ」
ほらまた一つ意味不明な事が増えた。
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