01
ヒソヒソ、コソコソ…
…イライラする。
寮から教室まで様々な視線が付きまとい、やっと自分の席につけたと思えば今度は教室中から悪意の籠った視線と悪口が囁かれる。
昨日の食堂での出来事が早くも噂になっているらしい。
「………馬鹿らしい」
正直俺は気が長い方じゃない。それも影でしか悪口を言えないような奴等は嫌いだし、男なら正々堂々かかってこいって思ってる。
だから今、俺は物凄く教室にいる奴等を残らず叩き潰してやりたい衝動にかられていた。
「朝からうざってぇ奴等だなぁ」
「…和真」
ダルそうに教室へと入ってきた和真は椅子に座っていた俺の前まで来ると立ち止まった。
途端、大きくなるざわめきに益々苛立ってきた。
「和真、コレは何なんですか?」
伊達眼鏡のブリッチを押し上げ、うざったい周りの事を聞けば和真は少し難しい表情をした。
「この学園の特色の一つっていやいいのかなぁ。見目が良い奴等は人気があって、ファンがついてんだよ」
「…ファン?」
「別名、親衛隊って言ってやることは結構酷いぜ」
人気者の筆頭が生徒会で、一般生徒がちょっとでも接触しようものなら生徒会の親衛隊が生意気だの釣り合わないだの必ずいちゃもんつけて接触した生徒を潰しにかかる。
なんだそりゃ。馬鹿馬鹿しい。
「宗教かなんかですか?」
「まぁ、似たようなもんだろ。親衛隊にしてみりゃ生徒会は神みたいなもんだからなぁ」
「その対象に和真も橘君も入ってるんですか?」
昨日、宮部が來希を様付けで呼んでいたのも、和真が俺に話しかけた時に突き刺すような視線を感じたのもそのせいか?
「入ってる。…って言っても俺に親衛隊はないぜ。目の前でちょろちょろしてんのがうざったくて即潰しちまったからなぁ。來希の奴は野放し状態」
「そうなんですか」
やっぱりあるんだな。と、いうことはこの先和真と一緒にいると嫌でも目立つってことだ。
「先言っとくけど俺はお前から離れる気はねぇから」
「………」
ひらりと右手を振って、言いたいことだけ言って和真は自分の席に戻って行った。
それから直ぐ担任が教室に入って来てHRが始まった。
「最後に、生徒会からの連絡だが一週間後に行われる歓迎会は鬼ごっこに決まった」
わ〜っ、と沸いた生徒達を俺は机に頬杖をついて眺めていた。
喜ぶ意味わかんねぇし、高校生にもなって鬼ごっこってどうなんだ?
あ、そっか。この学園に俺の常識は通じねぇか。
「…や、…糸井 久弥!聞いているのか!!」
「ぅえ!?はい!」
ぼんやりしていた俺はいきなり担任に名指しで呼ばれ驚いた。
「鬼はお前だ」
「はぁ?」
疑問符を飛ばした俺の周りからはクスクスと悪意を含んだ笑い声が聞こえた。
どうも嫌な予感がして俺はホストみたいな担任に疑問をぶつけてみた。
「何で俺が鬼なんですか?」
「知らん。とにかく生徒会からの指名だ」
詳しい説明はそこら辺の奴でも捕まえて教えて貰え、となんとも投げ遣りに言って担任は朝のHRを終えた。
それから俺が歓迎会の鬼ごっこについて教えて貰えたのは昼休みになってからだった。
「朝も話した通り、歓迎会もこの学園の特色の一つかなぁ」
購買で調達したパンと飲み物を開け、何故か隣に座っている和真の話を大人しく聞く。
ちなみに場所は昨日と同じ視聴覚室だ。
俺としては陽当たりの良い屋上とかが好きなのだが、この学園の屋上はどうやら立ち入り禁止らしいから仕方ない。
「歓迎会ってのは名ばかりで、まぁ、ちゃんとやってる奴もいるけど、大概気に入らない奴をターゲットにして学園から追い出すって感じのものだなぁ」
「けっ、何だそりゃ。気に入らねぇな。ソレの何処が歓迎会だ。ただの集団虐めじゃねぇか」
悪態を吐き、ガブリ、とメロンパンにかじりつく。
「ヤベェ、可愛い…」
「ん?」
モソモソ食べていた俺は和真が何か言ったのを聞き逃した。
「いや、それで鬼ごっこってのだけど、この学園の場合鬼が捕まえるんじゃなくて鬼が逃げる方になる」
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