17


遊士は蹴りが決まるより先に俺を突き放した。

「うわっ」

予測していなかった動きにバランスを崩した俺は後方に倒れそうになる。

が、それはいつの間に後ろに来たのか和真に抱き止められた。

「さんきゅ」

「おぅ。…それより志摩、てめぇどういうつもりだ」

和真はあたりに殺気を撒き散らし、遊士を睨み付けた。

「くくっ、そんなにソイツが大事か?」

「あぁ大事だ」

キッパリ告げた和真から視線を來希に移し、遊士はお前もかと嘲笑して聞いた。

「ソイツは俺のオモチャだからな」

「誰がてめぇのオモチャだ!」

口端を吊り上げて頷いた來希に俺は我慢ならなくて怒鳴った。

「見掛けによらず口が悪いんですね」

それに目を丸くして、今まで傍観してた奴等が話し出した。

「俺は遊士に蹴りを入れようとした事にびっくりだよ」

「パンチもな」

今まで存在を無視していた紅蓮副総長と幹部が嫌でも視界に入った。

ここでは正確には他の生徒会役員と言った方が正解か。

どちらにしろ俺にとってはよくない展開だ。

後で和真に聞いた話によると、紅蓮の副総長 鳥羽 幹久は生徒会副会長らしい。

そして、紅蓮の情報屋、真鍋 京成は会計。特攻隊長 吉野 昇は書記。

とにかく、俺の頭はいかにしてここから逃げ出すかを計算し始めた。

その間にも俺を挟んで和真と遊士の会話の応酬が続く。

「コイツに今後一切触るんじゃねぇ」

「はっ、おもしれぇ。ヒサ一筋だったお前がそこまで言うとはな」

遊士はクック、と肩を揺らし、考え込んでいた俺に視線を向けた。

「そんなにコイツの具合がいいのか?それともまさか、…コイツがヒサか?」

ぼぅっと考え事をしていた俺は、いきなり確信を突かれてビクリと肩を跳ねさせた。

ヤバイ、なに馬鹿正直に反応してんだ俺は!

ここでバレたらきっと袋叩きにされる!!

そろり、と眼鏡越しに見上げた視線が遊士とぶつかった。

「お前、名前は?」

「いっ、糸井です」

どうする?バレたらお仕舞いだ。ここで味方してくれる人物は和真しかいねぇし、そうなりゃ俺は遊士の相手で手一杯だろうし。

ここは一か八か先手必勝で仕掛けるしかないのか?

「馬鹿かてめぇ。誰が名字を言えって言った。名前を言え」

クソッ、ムカつく奴だな。

こうなりゃもうどうとでもなれ!

潔く腹をくくった俺は、

「俺の名前は久弥だ!」

と、言い捨て一目散に………逃げた。

ほら、逃げるが勝ちって言うだろ。








遊士は逃げるように飛び出した後ろ姿を目で追いながらその瞳を細めた。

「糸井 久弥か…。京成、アイツの事調べあげろ」

そして、数歩後ろにいた仲間にそう指示を出した。

「了解」

一もなく頷いた京成の隣で、幹久が可笑しそうに笑う。

「あれじゃ自ら何かありますよ、って白状しているようなものじゃないですか。君もそう思いませんか、木下君?」

話を振られた和真はそれに答えず、食堂から飛び出して行った小さな背を追うように食堂を出て行った。

残された來希と生徒会一行、そしてざわめくギャラリー。

「なにアイツ!遊士様に対して生意気すぎ!!」

「來希様のみならず和真様にまで取り入るなんて、許せないっ!!」

食堂の中にいた、小柄で可愛らしい顔をした生徒達は口々にそう言い、可愛らしい顔を醜く歪めた。

「おい、クソ会長」

「何だてめぇ、まだいたのか。さっさと消えろ」

周りの事など眼中にないという風情の、二人の冷えきった視線がぶつかる。

「和真じゃないが、俺のオモチャに手ぇ出してみろ、そん時ゃチームごと潰してやんぜ」

ギラリと獰猛さを覗かせた瞳で睨む來希に、遊士はクッ、と声を震わせ言い捨てた。

「おもしれぇ、出来るもんならやってみろ」








渦中の人物をよそに様々な思惑を乗せた渦が大きく動き始めた。




第一章 敵だらけの学園 完

[ 19 ]

[*prev] [next#]
[top]



- ナノ -