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そこには、遠目でもよく分かる程強烈な存在感をもった奴等がいた。
中でも俺の目を一番引いたのはやはり志摩 遊士だった。
漆黒の髪に闇色の瞳。上に立つ王者の風格を要し、絶対的支配力とカリスマを備え、端整な顔立ちでもって周りを魅了していた。長身の遊士は俺から見ると騒ぎ立てる生徒達を見下しているようにも見えた。
喧嘩の腕は、俺がもう一度やりあいたいと思うほどで、そこは認めるがソレ以外はハッキリ言って好きじゃない。個人的に恨みもあるし。
「嫌な奴…。和真、行こうぜ」
腕を掴んだ和真は始めからそうする気だったのか、さっさと歩き始めた。
しかし、事はそううまく運ばないもので…。
「よぉ、久弥。仲良く和真と飯か?」
違う方向から声をかけられた。
嫌そうに振り向けばそこには來希。
生徒会の騒ぎに紛れて食堂に入ったのか、俺達はその存在に気付かなかった。
周りの生徒も來希に気付き、生徒会の時よりは控えめだが、來希を見てキャーキャー騒ぎ始める。
和真は俺を背に庇い、舌打ちする。
「生徒会がいる時に来るとは珍しいなぁ」
「お前こそ仲間以外と飯食ってるなんて珍しいじゃねぇか」
來希はニヤニヤと嫌な笑みを浮かべて和真の後方に立つ、俺を見てくる。
「俺が誰と飯食おうが勝手だろ」
成る程、和真の言った通り、仲は良くなさそうだ。族のヘッドと族潰しだもんな仲良かったら逆にこぇえか。
じゃなくて、それよりも俺は早くここから出たい。
生徒会に集まってる視線がちらほら此方に集まってきている。
俺は掴まれたままの腕を軽く引き、小声で言う。
「相手にすんな、和真。行こうぜ」
「ん?おぅ」
あっさり引き下がった和真に來希は眉を寄せた。
「おい待て、久弥。てめぇ何者だ?」
疑う場面はいくつもあった。昨日、滅多に使わない自室に、新しいルームメイトが来ると聞いてどんな奴なのかその面を拝みに行った。
第一印象は堅苦しい優等生。
しかし、触れれば強烈な蹴りを繰り出され、口を開けば見た目を裏切る口の悪さ。
絶対に優等生なんかじゃねぇ。
次に接触した時、間近で見た瞳、アレは偽物の色だった。
そして、決定的なのが和真だ。コイツが唯の優等生に構うわけねぇし、あまつさえ庇った。
「何者と言われましても俺は俺ですよ、橘君」
困惑した顔で俺が小首を傾げると、來希の雰囲気がガラリと変わった。
「俺がそれで納得すると思うか…?」
抵抗する獲物を見つけ、おもしれぇと、いたぶるような瞳を向けてくる。
そして、
「へぇ、橘に木下、てめぇ等が興味を引くような何かがソイツにあんのか」
俺の願い虚しく、厄介なことに食堂中の視線を集めることになってしまった。
來希に気をとられていた俺は、接近してきた遊士に気付かなかった。
食堂に溢れていた歓声はいつの間にか止んでいた。
遊士は歩みを止めぬまま、俺の真横まで来ると、立ち止まり俺を見下ろした。
「またてめぇかクソ会長」
來希は遊士を視界に入れると、本人を前に思いきり悪態を吐いた。
「志摩先輩が俺達なんかに何の用ですかぁ?」
そして、和真もオブラートに包んではいるが同じ様な言葉を遊士に投げつけた。
おいおい、止めてくれ。コイツ等三人仲悪ぃのかよ。
俺まで巻き込むんじゃねぇ。
吐きたくなる溜め息をグッと抑え、俺はとりあえず見下ろしてくる遊士を見上げた。
「俺に何か用ですか?」
「ふぅん、度胸はあるんだな。まぁ、そうでなけりゃ俺が面白くねぇ」
ニヤリ、と嫌な笑みを浮かべたと思ったらいきなり腕を掴まれ、引き寄せられた。
「「「キャーーーー!!」」」
「「「イヤーーーー!!」」」
「!?」
「志摩っ!てめぇ!!」
目の前には遊士のドアップ。
唇には生温かい感触。
〜っの、一度ならず二度までも!この野郎!!
カッ、と怒りで頭に血が昇った俺は周りの目も考えず近距離から遊士の腹目掛けて右ストレートを繰り出した。
バシン、と乾いた音が食堂に響く。
「はっ、とんだ猫被りだな。猫が剥がれかけてんぜ、似非優等生」
「〜っの野郎!」
俺の突き入れた右拳を左掌で受け止め、余裕の笑みを浮かべる遊士に、俺は駄目押しで左のローキックを放った。
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