13


倉庫内の一角、黒騎の連中をギャラリーにして、

赤茶の髪に茶色の瞳、背は俺より高くこれまた整った容姿をしている格好良い青年、黒騎副総長、長谷 孝太と向き合う。

「カズ。やる前に一つ聞きたいんだけど、こいつ誰?」

孝太は仕方ない、と諦めの色を浮かべながら、黒革のソファーに足を組んで傍観体勢をとっているカズを見やった。

他の面々も気になるのかカズに視線が集中する。

「あ〜、そうだなぁ。俺の彼女?」

「…ただの知り合いだ」

孝太は俺より自分の総長の言葉を信じたのか、彼女に傷がついても俺は知らないからな、とか言った。

カズもカズだが信じるコイツもコイツだ。

カズへの八つ当たりも込めて、まず孝太の脇腹目掛けて蹴りを繰り出す。

「…っ」

孝太はそれを腕でガードし、弾くと踏み込んで来た。

鳩尾めがけて付き出された右拳をバックステップでかわし、離れた距離を一気に詰める。

左から来た拳を今度は受け止め、左拳を振るう。

「いいね。あんた強いじゃん」

俺、強い奴は好きだよ?

楽しくて自然と笑みが溢れた。

「――っ///か、カズ!」

これからもっと楽しくなるって時に、何でだか孝太が顔を赤くして慌て始めた。

「あっ、おい!」

そして、そのまま一直線にカズの元に駆けよって行ってしまった。








side 和真

顔を赤く染め上げ、駆け寄ってきた孝太に俺は一つため息を落とした。

「お前もやられたか…」

「カズっ!俺っ…」

狼狽える孝太と、少し離れた場所から不機嫌そうにこちらを見るヒサ。

そして、ざわめく仲間達。

はぁ、やっぱキャップさせといて良かったなぁ。

孝太と闘い始めてから、ヒサが動く度にチラチラと綺麗な肌が覗いて気が気じゃなかった。

間近で相手をしていた孝太が落とされないワケない。

「俺…、カズの彼女だってのに惚れたみたい」

現に腹をくくったのか、落ち着きを取り戻した孝太はそうはっきり言い切った。

あ〜、仕方ねぇ。本当のこと言うしかねぇか。嫌だけど…。

真剣な顔して俺を見つめる孝太の肩に手を置き、教えてやる。

「さっきの嘘だから真に受けんな。別に彼女じゃねぇから。まぁ、彼女にしたいのは山々だけどなぁ」

そう言ってやれば孝太は本当だな?と確認してきた。

何度も聞くな、ムカつく。俺はヒサに関しては心が狭いんだ。

「おい、そこの二人!何してんだよっ」

戻ってこない孝太に焦れたのかヒサが怒りながら近づいて来た。

ヒサに背を向けていた孝太はその声に振り返り、

「あのっ、俺、貴方に惚れました!付き合って下さい!!」

と、誰もが驚く行動を起こした。








何言ってんだコイツ、俺の怒りは一気に冷めた。

「何を勘違いしたか知らねぇけど俺男だから。絶対無理」

そんな事よりカズ、俺の楽しみが無くなったみたいだから帰る。

孝太の告白をサラリと受け流し、言うだけ言って背を向けた。

「おい、アカ!俺も一緒に帰るからちょっと待て。俺の部屋行かねぇとそのままじゃ帰れねぇだろ」

そうだった。服はカズの部屋に置いてきたんだった。

「…早くしろよ」

「分かってる」

カズはソファーから立ち上がると黒騎の総長として、威厳のある声で今後の指示やら先程相手をした白火の事について話し始めた。

副総長の孝太も振られた事とは頭を切り換えてカズの話を聞いては所々口を挟んでいる。

「いいか、てめぇら。白火を倒した位で浮かれんなよ。目標は紅蓮だ。俺等はまだまだ上を目指す。くれぐれも油断すんじゃねぇぞ!!!」

カズの締め括りの言葉に倉庫内にいた黒騎メンバーが、おぉー!と叫んだ。

「へぇ、カズの目標は紅蓮なのか。…俺達じゃねぇんだ」

キャップの下で俺は小さく呟いたがその声は喧騒に掻き消されて誰にも聞かれることはなかった。



[ 15 ]

[*prev] [next#]
[top]



- ナノ -