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カズに連れられ辿り着いた場所は廃工場だった。

壁は至るところにスプレーで落書きされ、初めの色なんて分からないほどだった。

割れた窓ガラスからは複数の男達が争うような声と、激しい物音がした。

「まだやってるなぁ。よしよし」

カズは軽く指の骨を鳴らすと、口端をゆるりと吊り上げた。

俺も久々の喧嘩にわくわくして自然と口元が緩む。

「早く行こう、カズ。あ、不知火は俺が殺るから手出すなよ」

「分かってる」

廃工場の入り口から堂々と中へ侵入すれば、カズに気づいた連中が声を上げる。

「総長!」

「カズさん!」

「ようやく来たか、黒騎のカズ。来なきゃ良かったものを」

クククッ、と廃工場の奥、薄汚れたドラム缶の上に片膝を立てて座っている男が笑った。

アイツが白火の頭か。

「何言ってんだぁお前。此処で無様な姿を晒すのはお前だぜ」

カズは態とらしく相手を挑発する。

俺はそれを聞きながら不知火を探した。

…が、あれ?いねぇ?

ぐるりと周りを見渡すがそれらしい人間はいない。どれもこれも弱そうだ。

そうこうしているうちにカズに挑発された白火の奴等が殴りかかってきた。

「なぁ、カズ。不知火が見あたんねぇんだけど?」

繰り出された拳を避けながら、殴り返しているカズに問う。

「どっかにいんだろ。アイツ、教室にいなかったし」

「ふぅん………、教室!?」

さらり、と何でもないことのように言われた言葉を危うく流すところだった。

教室って、不知火までクラスメートなのかよっ!!

俺は頭を抱えたくなった。

「余所見してると殺っちまうぜ」

気をとられていた俺に白火のしたっぱ、俺からしたら雑魚、がそんなことを言って拳を繰り出してきたので俺は八つ当たりも込めて攻撃してやった。

あ、骨が軋んだ様な嫌な手応えがした。

「…ぐわっ」

倒れ込む雑魚を見ながらそんなことを思った。

「ひ、じゃなくて…アカ!残念な知らせがある。どうも不知火は参加してねぇってよ」

いつの間にかカズがドラム缶の上に偉そうに座っていた白火の総長の胸ぐらを掴み上げ、というか締め上げて言ってきた。

アカって俺か。

「ちぇ、それじゃ俺がここまで来た意味ねぇじゃん。つまんねぇの」

「そう言うな。後で俺ン所の孝太と殺らしてやるからさぁ」

カズの発言に廃工場の中にいた黒騎のメンバーがぎょっとした顔で俺とカズを交互に見た。

「う〜ん、俺としてはカズの方がいいな」

楽しみが出来たことで気分が少し上昇した俺は白火の雑魚どもを嬉々として倒す。

「誰だアイツ。めちゃくちゃ強ぇ」

「だな。カズさんの知り合いか?たしかアカとか呼ばれてたけど」

カズは敵の総長の意識を落とすと注目を集め始めた俺に近づいてきた。

「もういいぜ、アカ。てめぇら引き上げるぞ!」

その声で黒騎の連中は攻撃を止め、アジトに引き上げた。

俺もカズと一緒に黒騎のアジトへついて行った。








黒騎のアジトは使われなくなった古びた倉庫みたいな所だった。

皆が皆好き勝手荷物を運び込み、中は結構快適に過ごせる空間になっていた。

カズは一番奥の黒革のソファーに座り、隣に俺を座らせる。

その瞬間ざわり、と黒騎メンバーが色めき立った。

「おい、カズ!」

「ん?あぁ、気にすんな」

「そうじゃなくて…」

ひくり、と口端を引き吊らせた俺は、座ったと同時に腰に回されたカズの手をおもいきりつねってやった。

「…っ」

腰から手が離れた隙に俺は立ち上がり、カズに右拳を突きつける。

「ここに来る前に俺が言った言葉覚えてるよな?」

そう言えばカズは両手を挙げて降参した。

「よし。んじゃ、次。俺と一戦勝負しろ」

「あ〜、それは出来ねぇなぁ。代わりに孝太貸してやるからそれで我慢しろ」

「………む」

カズがそこまでして俺との勝負を避ける理由が分からなくて、ついムッとした表情になる。

でも、ほんの少し自分が我儘を言ってる自覚もあったから、渋々頷いて孝太でいいと了承した。

カズは苦笑気味に笑うと倉庫内にいたメンバーに目を向けた。

「孝太、前へ出ろ。コイツの気がすむまで相手してやってくれ」



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