09
ホストみたいな担任が来て、俺だけ自己紹介させられた。
正直こんな変な奴等と仲良くしたくなかったけど、優等生という仮面を被ってるから仕方なく挨拶をした。
クラスの連中の大半はなんか知らねぇけど俺に敵意を向けてきていた。
中でも宮部の視線は気味悪かったし、來希は睨んでた。
カズ、和真は一人興味なしとばかりに机に突っ伏して寝てた。
あと一つ気になったのは、廊下側の一番後ろが空席だったこと。
「まぁ、俺には関係ねぇか」
HRも終わり、今日は授業もなく配布物を鞄に詰めため息と共に小さく呟く。
よいしょ、と椅子から立ち上がればいつの間に起きたのか和真が真正面に立っていた。
「何か?」
「ちょっと付き合ってくんねぇ?」
じっ、と上から見下ろされ断れる雰囲気ではなかった。
なんというか、一般人の俺に対して夜の顔、カズの顔で詰め寄るのはやめて欲しい。
うっかり俺までヒサの顔になってしまう。
俺は和真の態度に一般人として正しい、少し怯えた表情を作る。
「ど、どこにですか?ここじゃ駄目ですか?」
「……駄目だな」
仕方ない、これはついてくしかないか。
鞄を片手に立ち上がれば和真がついて来てくれ、と歩き出す。
「何あの外部生和真様にまで媚売って!!」
「違うよ、きっとさっきので和真様の怒りを買ったんじゃない?殺られちゃえばいいんだ」
「それは良い気味ぃ〜」
クスクスと囁き合う生徒達の声を、くだらないと右から左に流しながら俺は教室を出た。
その時、すでに教室に來希の姿は無かった。
和真の後について辿り着いた先は何故か視聴覚室。
鍵の掛けられていないドアをスライドさせ中に入る和真の後に続く。
「ドアは閉めとけよ」
クルリと振り返り、暗幕の引かれた窓に背を預け和真は言う。
「何でですか?」
和真が俺を連れてきた意味も分からないのに、そんな状況で密室を作るような危険はおかせない。
内心でそう警戒しながら表面上俺は殊更不思議そうに首を傾げた。
「他の誰かに話を聞かれてもいいならそれでもいいけどなぁ?」
こいつ、もしかして勘づいてるのか?
でも俺がカズと接触したのは片手で数えるほどしかない。だから気づかれる事はないと思うんだけど。
「別に人に聞かれて困るような事なんて俺にはないですよ?」
「本当に?」
和真は緩く唇に弧を描くと瞳を細めて俺に殺気を放ってきた。
「――っ!!」
久々に向けられた肌を刺すようなビリビリした感覚に、ほんの僅か瞳に鋭い光が灯る。
元来、好戦的で強い奴等相手に闘うのが好きだった俺はついワクワクしてしまった。
それを見逃さなかった和真は目の前の人物に確信と歓喜を覚え、あっさりと殺気を霧散させた。
「やっぱりなぁ、お前ヒサだろ?」
「何の事ですか?俺の名前は久弥ですよ」
あ〜ぁ、失敗した。コイツが心地良い位の殺気を向けてくるからつい反応しちまった。でも、いきなり殺気を向けてくるなんて思わねぇだろ?
俺が本当に一般人だったらどうすんだ。
和真の中では俺イコールヒサという図式は決定なのか、それが本名かぁ?と聞いてきた。
「えっと、木下君の言ってる意味がよく分からないんだけど?」
さて、どうしよう。ついさっき顔を合わせただけで、言葉だって一言しか交わしていない。それだけで俺イコールヒサって分かるものか?はたまたこれはカマかけか…。
判断がつかず、とりあえず困ったような表情でそう言ってみた。
「それ止めろよ。もう俺には無意味だって。お前がどんな格好してても俺には分かんだよ」
和真はスッ、と窓から背を離すと一歩一歩俺に近づいてくる。
これは逃げるべきか?いや、でも逃げたらますます疑われる。
そもそも何でカズは俺だって分かるんだ?
ぐるぐると思考の渦にはまり始めた俺は簡単に和真に触れる隙を与えてしまった。
「――ぅっ」
気づけば扉横の壁に両手を押さえつけられていた。
「なぁヒサ、何でそんな格好してんだぁ?綺麗な銀髪だったのに。その瞳はカラコン?」
額と額をつけられ、眼鏡越しに探るように瞳を覗き込まれる。
そのカズの真剣な瞳にカマかけではないことを知った。
はぁ、ここまで言われちゃ仕方ねぇか。どうしてバレたのかも気になるし、別にカズと敵対してるってワケでもねぇ。
それに、仲間がいない今一人でも味方はいた方が良いよな?
俺はそう決意すると一度瞼を閉じ、
「…離せ、カズ」
ゆっくりと開いた瞳で、間近にあったカズの瞳を鋭い視線で射ぬいた。
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