04
変装してる理由まで言わなきゃいけねぇのか?大体兄貴に聞いたんじゃないのか?
「裕弥に言われたからか?それとも…」
勝手に推測し始めた本庄に溜め息を吐き、その言葉を遮る。
「コレは目立たないように、ですよ。銀髪に蒼眼なんて悪目立ちするでしょ?まぁ、眼鏡の方は兄貴に渡された物ですけど」
そう言って眼鏡の弦を指で撫でる。
「…そうか」
それだけ言うと本庄はなにやら一人で考え込んでしまった。
「あの、他に用がないなら俺は失礼します」
ガタリ、と椅子から立ち上がれば本庄はちょっと待って、と早口に巻くしたてた。
「君の同室者は誰だった?」
俺は数時間前に会った同室者の顔を思い出し、眉間に皺を寄せた。
「橘 來希っていけすかない奴ですよ」
「橘!?会って何もされなかったか!!」
「ちょ、声大きいですよ。それに、何かあってたら俺は今ここにいません」
「あ、そうかそれもそうだな。悪い」
教師の本庄にまでこう言われるとは來希の奴相当な問題児か?
まぁ、見た目不良だったし、即暴力振るって来たし納得だな。
見目はともかく、不良って点じゃ俺も人のこと言えないけど。
この様子だと、兄貴は本庄に俺が族の頭張ってたとは教えてねぇみたいだな。
とにかく今ので食堂中の生徒の視線がこちらを向いて、煩わしいったらない。
さっさと部屋に帰ろう。
「じゃ、本庄先生、俺はこれで失礼させてもらいます。明日は入学式もあるんで」
おい、糸井!と引き止める言葉を聞かなかったことにして俺は食堂を出た。
はぁ…。
食堂に来て良かったことは飯が美味かったことだけだな。他は視線がうざいし、雰囲気悪ぃ。
閉鎖された学園ってのはこんなもんなのか?
「先が思いやられる…」
「なに暗い顔してやがんだ」
俺が到着して開いたエレベーターに乗ろうとしたら、その中にいた奴が口端を吊り上げにやり、と笑ってそう言ってきた。
「…來希」
俺が嫌そうに眉をしかめ、一歩後ろへ下がれば來希は逆に一歩踏み出し、俺の腕を乱暴に掴みエレベーター内に引きずり込んだ。
「…痛っ、何しやがんだてめぇ!!」
俺は掴まれた腕を振り払い、來希を力の限り突き飛ばす。
しかし、エレベーターという狭い空間の中、突き飛ばしたところで大した意味もなく、再び腕を掴まれ壁に押し付けられた。
「…っ!?…痛ぇんだよ、離せこの馬鹿力野郎!!」
ぎりぎり、と腕を壁に押し付けられ俺は痛みに顔を歪ませながらも來希を睨みつけた。
「思った通りだな。いいぜ、その顔。すっげぇそそる」
いつの間に盗られたのか、來希は俺のかけていた眼鏡をカシャンと床に落とし、俺の睨みに怯むことなく笑みを深めた。
両手を頭上でひとまとめにされ、動かせない。
來希は片手でぐい、と俺の顎を掴むと上向かせてきた。
そして瞳を覗き込まれる。
「――っ」
やばい。あんまジッと見られるとコンタクト付けてるのがばれる。
普段はその前に眼鏡があり、分からないようになっている。
しかし、眼鏡を外して間近で見ると蒼い瞳に黒いコンタクトを被せた瞳は若干色が違って見えた。
「ん?お前…」
やはり、そのことに気付いたのか來希は更に顔を近付けてくる。
やばい、そう思った時には体が反射的に動いていた。
狭い空間に壁に押し付けられた状態、俺は瞬時に状況を整理して右膝を來希の腹めがけて突き上げていた。
「おっ、と。――っ、痛ぇビリビリきた」
部屋での攻防もそうだったが素早く反応した來希は右手掌で俺の膝蹴りを受け止めた。
だが、蹴りに乗った重さで衝撃を受けた掌は痺れたらしい。
さらに駄目押しで一撃加えようとした時、エレベーターの扉が開いた。
俺が押したわけでも、來希が開いたわけでもない。
「橘、そこで何してる?」
どこかで聞いたことのある、テノールの声音が扉の方から聞こえた。
姿を見れば思い出すかも知れないが、残念ながら俺の目の前に來希がいるせいで俺からは見えない。
決して俺の背が低いとかじゃねぇからな。
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