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Side 千尋


ふるふると小刻みに身体が震える。ぴったりとくっついた背中から感じる夏野のぬくもりに堪らず声が零れた。

「あっ…ぁ…なつ、の…」

「可愛い…俺の千尋」

耳元に寄せられた唇が甘く囁く。

「ン…ふっ…ぁ…っ」

背中から抱き締めるように回された左手はシャツの中へと侵入し、右手は熱く芯を持った熱塊へと絡められていた。

夏野が右手を動かす度にぐちゅぐちゅと湿った水音が室内に響く。

「千尋」

「はっ…はっ…ぁ…もぅ…」

ソファに座った夏野の足の間でオレは呼吸を乱しながら、すがるように夏野の腕を掴んだ。

「な…つの…っ、もっ…」

「イキたいか?」

「ん…っ、ン…」

ひっそりと耳の中へと流し込まれる声音は酷く優しいのに、オレへと触れてくる指先は酷く意地悪だ。
昂った熱は直ぐには解放されずゆるゆると緩やかな刺激に晒され続ける。

「まだダメだ」

「あっ…ん…でぇ…」

ぐずぐずに溶け出した思考の中で、与えられない決定的な刺激にオレは瞳を潤ませた。
そして、夏野がしてくれないならとオレは自分で手を伸ばす。

分身に絡められていた夏野の手に自分の手を重ね、夏野の手ごと上下に動かす。

「ン、ぅ…あっ、ぁっ…なつのぉ…」

熱に浮かされたまま何度も夏野の名前を呼ぶ。高まる熱に先端からたらたらと密が零れて夏野の指を汚す。

「しょうがないな」

「ぁ…ン…だって…」

ふっと夏野が笑う気配がしてあっという間に主導権は夏野へと戻っていた。

「もう少し堪能してたかったが嫌われたら意味ないからな」

「んっ…嫌いに、なんて…ならな…いっ…ゃ、ぁっ、ぁっあぁ―…」

高まりきっていた熱への急な刺激にひくりと肩が跳ねる。どろりと熱い飛沫が先端から飛び出し、ぶるぶると身体を震わせオレは身を丸くした。

「はふっ…ぁっ…ふっ…」

ぐじゅぐじゅと全てを出しきるように動いていた手に自然と腰が揺れる。

「気持ち良かっただろ?」

意地悪く囁いてゆっくりと離れていった夏野の掌にはべったりと白濁色の液体が着いていた。
ぼんやりと熱に酔ったまま頷き返したオレはそれを目にして、ハッと理性を取り戻した。

「〜〜っ…待っ、ティッシュ!」

慌ててティッシュケースを探す。
しかしそんなオレに夏野は柔らかく笑い、別にいいと言った。

「お前の服も汚れちまったし、先に風呂に入って来い」

「えっ、でも」

「いいから、な」

自分でティッシュを引き抜いた夏野は手を拭きながら有無を言わせぬ優しい声で言った。






Side 夏野


俺のことを気にしながらも風呂場へと向かった千尋に苦笑を漏らす。
そして、風呂場のドアがしまる音を耳にしてふぅと熱い息を吐いた。

ソファに身を沈め、今まで千尋に触れていた手をぎゅっと握る。

「やばいな…」

腹の底あたりでぐずぐずと燻る熱に視線を落として呟く。
熱情に煽られるまま流されても良かったが、それでは翌日に響いてしまう。今日はまだ週の半ばだ。

「こんなに難しいとは思わなかった」

自分のことなのに感情を上手く制御出来ない。
一人の男として千尋が欲しい。けれど、アニとしての理性がそれを留める。

これが休日なら何の問題もないのだが。明日は千尋も大学がある。
そして、千尋は大学に通う為に此処にいるのだ。

それを本人はきちんと理解しているのか、昼夜構わず何の躊躇いもなく身も心も委ねてくる千尋に日に日に理性は奪われていく。

「俺がこんなんじゃダメだな。しっかりしないと」

ふぅと再び息を吐いてソファから立ち上がった。

「とりあえず千尋が出てくる前にこの熱をどうにかしないとな…」



◇◆◇



Side 千尋


ざばぁと浴槽からお湯が流れる。
ぶくぶくと口までお湯につけて、赤く染まった頬を膨らませた。

(なんで?)

耳元で甘く囁く声や触れてくる男らしい指を思い返して…ゾクンと背が震える。

(―っ、違う、違う!そうじゃなくて)

出したばかりなのに下半身に溜まりそうになった熱にオレは慌てて首を横に振り、思い出した映像を振り払う。

お湯の中から顔を出し、浴槽の縁に頭を乗せて呟く。

「夏野はどうして最後までしてくれないんだろう」

最後、それをオレは夏野に教えられて知った。

「オレ、夏野にならいつだって…」

恥ずかしげに呟きつつ想像して一人悶える。
オレだって健全な男の子だから、好きな人とならもっとしたいと思う。

「あ、でも…」

実家ぐらしの時ならともかく、二人きりの家でそういうことになっても夏野はあまり最後までしてくれない。
それがオレには少し不満だった。

「あ…、夏野がその気にならないんだったらオレがその気にさせればいいんだ!」

最近は与えられるばかりで受け身になっててすっかり忘れていたが、恋人になる前は自分からよく仕掛けたものだった。

名案を思い付いてオレは鼻歌混じりでお風呂から上がった。

入れ替わりで夏野がお風呂へ行き、オレはキッチンに立ち牛乳を飲む。

もう少し身長が欲しい。

それからソファへ移動し、テレビを点けて夏野がお風呂から上がってくるのを待った。

「どきどきする…」

というのも、風呂上がりの夏野は男の色気たっぷりで、見慣れているはずなのに毎回ときめかずにはいられないからだ。

首筋を伝って落ちる水滴や身体が温まったことで上気した頬。襟ぐりから覗く引き締まった身体についつい見惚れてしまう。

想像しただけではぁ…と熱い息が零れる。

暫くしてカチャリとリビングの扉が開く音がし、オレはソファから身を起こす。
振り返れば夏野がうっとおしそうに濡れた髪を掻き上げながらリビングへと入ってきた所だった。

「そろそろ髪切りに行くかな」

「…格好良い」

夏野は別段特別なことはしていないのにオレは夏野の全部が格好良く見えてしかたない。それに自覚はある。

オレの視線に気付いたのか、視線が合うと夏野はふっと優しく表情を緩め近寄って来た。
当たり前のようにオレの隣に座った夏野からはオレと同じ匂いがする。

それもそうだ。使っているシャンプーもリンスも何もかも一緒なんだから。

緩む頬をそのままに夏野を見上げれば頭を撫でられる。

「どうした?」

「んー、夏野が好きだなって」

へにゃりと笑えば、夏野も笑う。

「なんだそりゃ」

「そこはオレもって返すとこでしょ」

「そうか?」

「夏野の意地悪」

そう言いながらオレは隣に座る夏野に抱きついた。すぐに背中に腕が回される。

「ほんと…大好き、夏野」

言葉だけじゃ足りないぐらいに。

「…俺もだよ、千尋」

「うん」

ぎゅうぎゅうと夏野に抱きついてオレは今夜実行に移す予定でいる作戦にほんの少し勇気を貰った。

覚悟しててね夏野。

オレはこの時まだ夏野が何を考えていたのか知らなかった。


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