03


互いの息遣いだけがリビングに落ち、千尋の眦から落ちた滴を舌先で掬ってやる。そのまま目元に口付け、瞼に鼻先に頬に唇を降らせる。

「…夏野、…夏野」

下は未だ繋がったまま、キスの雨を降らせていると千尋はふにゃふにゃと蕩けたような笑顔を浮かべて俺の名を呼んだ。

「ん?どうした?」

それに応えるように瞳を和らげ唇に触れてやれば、千尋は俺の背に回した腕に力を入れてぎゅぅぎゅぅと抱きついて言う。

「オレ、今が一番幸せ。夏野とずっとこうしてたい」

少しばかり掠れた声が鼓膜を揺らし、その台詞に中に納めていた熱が再び頭をもたげ始める。
煽っていると千尋は分かっているのかいないのか、俺はふっと熱い息を吐き出した。

「これだけで満足か千尋?俺はまだ愛し足りないんだけどな」

ゆるりと弧を描いた唇で千尋の耳を食み、まだ足りぬと熱を求める眼差しで千尋を見下ろす。
緩く腰を動かせば、中へと注いだ熱がぐちゅりと湿った音を立てた。

「あっ―…っ夏野…」

「ん?千尋。おしまいか?」

わざと千尋の感じる所を避け、中を深く突く。
とろりと濡れだした千尋の熱が腹の間で擦れ、感じているのだろう千尋の身体がぶるぶると震える。

「…ゃっ…ァ…なか…」

潤んだ瞳が俺を見上げ、はくはくと千尋の口が動く。

「はっ…、言っただろう?――どうして欲しい?千尋」

問う声は酷く優しく甘く、それでも千尋を攻め立てる手は休めない。
我ながら意地が悪い。だが、これもまた愛情表現の一つだ。

体勢を入れ替え、俺の腹に手を着いた千尋は恐る恐る腰を落とす。その腰を支えてやり、一生懸命応えようとしてくれる千尋の姿に俺は深い愛情を感じた。

意地悪した分はまた後でとびっきり甘やかしてやることで相殺だな。

すやすやと、俺の胸にぴったりと頬を押し付けて眠る千尋に笑みが零れる。

風呂場で後始末をしている最中に、千尋は疲れてしまったのか俺に身体を預けたまま眠ってしまった。

「今日は頑張ったからな」

さらりと柔らかい茶色の髪を梳き、指先に絡む髪に口付ける。
むにゃむにゃと小さく動いた唇に何の夢を見ているのか、時おり千尋は幸せそうに表情を動かした。

「ほんと可愛いなお前は」

どうしようもないぐらい。

「…ん…ぅ」

触れていた髪から手を離し、千尋を起こさぬようにそっと千尋の身体に腕を回して己の腕の中に抱き締める。
そして幸せな夢を見ているのだろう千尋の耳元で小さく、最上級の言葉を送った。

「愛してる…千尋」

「……れ…も」

そこへ偶然にも発された寝言が返り、俺はくすりと笑った。

「知ってる」

お前は仕掛けるのは平気なくせに、俺が手を出そうとするとすぐに真っ赤になって狼狽える。
それでいて嬉しいという気持ちを隠そうとはしない。

身体全部を使って好きだと伝えてくる千尋が今はただ愛しくてしかたない。

「本当、参ったな…」

気だるくも心地好い温もりに頬を緩ませ、無防備にすやすやと寝息を立てる千尋を眺める。次第にうとうとと俺の瞼も落ちてきて、いつしか静かな部屋には二つの寝息が重なっていた。



俺の可愛い恋人は何にでも一生懸命で、それは恋愛においても変わらないらしい。そんな頑張りすぎる恋人に、たまには蕩けそうなほど甘いご褒美を…。



END.


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