02
「ん…れ…?オレ…寝ちゃって…」
薄暗い視界に首を傾げる。電気をつけてたはずなのに。
ぼぅっとしていた思考の中に熱を感じる。熱?
だんだんとはっきりしてきた意識に、オレはどきりと鼓動をはねさせた。
「夏野!?」
「あぁ。ただいま」
柔らかく笑った顔が間近にあって、その近さにオレは後ずさろうとして、抱き締められていることに気付いた。
「ななななっ…!?」
気付いてしまったら何かもうダメだった。恥ずかしさでもう色々…。
けれども、次に掛けられた夏野の言葉にオレは動きを止めた。
「寂しい思いさせて悪いな。仕事が忙しいなんて言い訳にもならねぇ。…千尋、言いたいことがあったら言え。俺の出来る範囲内で叶えてやるから」
「…ほんとうに?」
おずおずと見上げた先で夏野はふっと格好良く笑う。
「あぁ。何でも言え」
「じゃぁ…」
オレのお願いを聞いた夏野は最初は驚いて、次には苦笑を浮かべていた。
「本当にそれで良いのか?」
「うん」
夏野にしか叶えられないお願い。
オレの一番の望み。
抱き締められていた腕が解かれ、夏野の手がオレの顔を挟むように頭の横に置かれる。
ギシリとベッドが音を立て、オレの足を跨いで覆い被さってきた夏野をオレは見上げた。
徐々に近付く距離に、オレは自分で言っておきながらカァッと顔を赤く染め、みじろぐ。
「ふっ…可愛いな、千尋」
「…や…っ」
耳元に寄せられた唇に耳朶をやんわりと噛まれ、つい声を上げてしまう。
「違っ…夏野」
オレのお願いになかった行為に、オレは嬉しさと恥ずかしさを込めて夏野を睨んだ。
「お前が可愛いことするからだろ?」
だが、オレの抗議はするりと交わされてしまい無駄に終わる。
「まずは、唇にキス…だな?」
それだけに留まらず、夏野はオレのお願いをいちいち口に出して確認しながら続ける。
「っ、意地悪」
「間違うといけないだろ」
そう言って笑った夏野は男の色気が溢れてて、オレはただただ見惚れるばかりでもう何も言えなかった。
「ンっ…」
しっとりと重なった唇は甘く、舌先で唇を舐められて自然と口を開く。
「…ン…ふっ…」
ぬるりと入り込んできた舌に、少しだけ自分から触れれば直ぐに絡めとられた。
「…んぅ…ン…」
間近で絡む熱を灯した眼差しが恥ずかしくて瞼を伏せる。
「ンん…っ…、ふぁ…」
「千尋…」
やがてゆっくりと唇が離され、瞼を持ち上げる。思わず漏れた甘ったるい声と吐息にオレはさらに赤面した。
「やっぱりお前は可愛いよ」
「――っ」
ちゅっとリップ音を立てて唇に触れられ、開けた目元にも唇が寄せられる。
「…愛してる。俺の可愛い恋人」
そこへ、低く甘い声で追い打ちをかけられ、オレはもうどうなっても良いと、羞恥を捨て去り、自ら夏野の首に腕を回した。
抱きついてきた千尋を抱き締め返し、二人、ベッドに沈む。
キスして、愛を囁いて、最後にぎゅっと抱き締めて…。
恥ずかしそうに告げられたお願いは、実のところ千尋よりも俺を喜ばせていた。
「夏野…」
引き寄せられた頭のすぐ横で熱っぽい千尋の声が俺を呼ぶ。
「ん…、どうした?」
お願いは叶えただろ?と尾骨に沿って千尋の背中を撫で上げながら返す。
「ン…ぁ…夏野…っ!」
ふるふると抱き付いていた身体が震え、体温が上がる。
「ん?言わなきゃ分からねぇよ千尋」
「…ゃ…っ」
俺に顔を見られたくないのか、抱きついたままいっこうに離れない千尋。
けれども本能には従順で、無意識か意識的にか、昂った熱を俺の下肢に押し付けてきた。
「…ん…はっ…夏野ぉ」
微かに揺れる腰と溢れる吐息が、先を欲している。
「どうして欲しい?」
千尋の腰をグッと引き寄せ、千尋の足の間に滑り込ませた右膝でそこをグリリと刺激してやる。
「ひゃぁ…っ!?…あっ…」
「千尋。俺にどうして欲しい?」
力の抜けた千尋の腕を首から外させ、熱に潤んだ瞳を覗き込む。
「あっ…なつの、……触って…」
顔を真っ赤にし、瞳を潤ませながらも躊躇いがちにそう口にした千尋が可愛くて、ついつい意地悪をしてしまう。
「どこを?」
泣くかなと一瞬頭を過ったが、千尋は泣かなかった。それよりも、俺の手を取り、瞼を伏せてとった行動に俺の方が驚いた。
「ここっ…。こうやって…」
導かれた手は千尋のパジャマの上。熱くなった布の上から擦るように千尋は俺の手を動かした。
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