02


結局、俺達は大地と鳴海に捕まり何故かカラオケボックスに連れて来られた。

「いやぁ、本当久しぶりだな」

「そうだな。鳴海も元気そうでなにより」

俺の隣に座った千尋が何か言いたそうに俺を見てくる。

「で、そっちは弟だって?」

「そう。千尋だ」

千尋は軽く頭を下げただけでそっぽを向いてしまう。

「あれ?俺嫌われた?」

「いや、違うから気にすんな」

しょうがないな、と心の中で呟いて千尋の頭を軽くぽんぽんと叩いてやった。

「藤宮ー、お前ら何歌う?」

選曲をしていた大地が顔を上げて聞いてくる。

「千尋、何か歌うか?」

「…いい。夏野歌って」

それぞれ適当に入れて、曲が流れ始めた。

そして、鳴海が歌い始めると大地が俺の隣にやって来た。

「なぁ藤宮。さっきの話だけどさ…」

「ん?」

周りに聞こえないようカラオケの大音量に紛れて大地が口を開く。

その瞳は鳴海を真っ直ぐ見詰めていた。

「真面目に聞いてくれよ?俺、今鳴海と一緒に住んでるんだ」

「へぇ…」

やっぱりと俺は思った。二人の雰囲気が高校の時とは少し違うような気がしたのは大人になったからだけではないようだった。

「へぇ、って真面目に聞けよ!」

「聞いてる。で、それがどうした?」

意外と歌の上手い鳴海に、千尋は気をとられている。

そういやこの歌、千尋好きだって言ってな…。

「何でお前らが一緒に住んでるんだ、とか聞かないのかよ?」

「聞いて欲しいのか?それとも俺にそれ可笑しいんじゃねぇのって言って欲しいのか?」

聞けと言う割りにどこか煮え切らない様子の大地に俺は視線を投げる。

「―っ、悪ぃ。話し振っときながら。…それで何で俺達が一緒に住んでるかって言うと、…実は俺達…付き合ってるんだ」

大地はどこか緊張したようにやっとそう言った。

「そうか、良かったじゃねぇか」

「やっぱ気持ち悪い…え!?藤宮、お前今何て言った!?」

立ち上がり興奮気味に俺の胸ぐらを掴んできた大地に、千尋と鳴海が驚いて目を見開く。

「ちょっ、何やってんだよ大地!」

「夏野!」

千尋は俺を助けようと大地の腕を掴む。

「夏野から離れろ!」

鳴海は大地を引き離そうと後ろからその体に腕を回した。

「―っ!」

途端、大地は硬直したように動きを止めた。

「ったく。おい、大地。呆けてないでさっさと退け」

俺は胸ぐらを掴む大地の手を外し、鳴海の方へ押しやった。

「わっ!」

代わりに、千尋の腕を掴んで側に引き寄せた。

わたわたと慌てる鳴海に、はっと我に返った大地。

大地は鳴海の腕を掴むと俺の真ん前に立ち、言った。

「藤宮、本当に良かったと思うか?気持ち悪ぃとか思わねぇのか?」

何の話しか、それだけで察した鳴海は体を強張らせた。

「別に。それに俺、お前等のラブシーンは高校ん時に見てるし。な、鳴海?」

「…?……あっ!そうだ!図書室、お前居たよな!って言うか藤宮が原因だったんだ!」

千尋が作らせた惚れ薬から端を発した一騒動。あれが、大地と鳴海のきっかけになるとは俺でさえ思わなかった。

その一件を思い出したからか鳴海は、一気に体から力が抜けた。

「大地。藤宮は大丈夫だ。俺達のこと知ってる。それに、俺達の仲だろ?」

高校の頃から何をやるのも一緒で年中つるんでいた仲じゃないか、と鳴海は笑った。

「そう言うことだ。安心しろよ、大地」

俺は力の入ってる大地の肩をポンと叩いてやった。

「…何だ、俺一人で空回ってたのか」

しかし、まだ問題は残っていた。

どさり、と腰を落とした大地を千尋が睨み付けていた。

その視線に気付いた大地は苦笑を浮かべ謝った。

「悪ぃ。お前の兄貴に乱暴な真似して」

「………」

「おい、千尋?」

千尋は俺の服をぎゅっと握ると、きっぱりと言った。

「オレ、この人嫌い」

嫌いって…、俺が困ったように千尋を見れば千尋は俯いて小さな声で理由を告げた。

「だって夏野に馴れ馴れしいし、オレから夏野をとっていっちゃう」

「お前…」

可愛いことを言う千尋に思わず頬が緩む。

「藤宮、お前等…」

「ブラコン?」

その様子に大地と鳴海は驚き、生暖かい眼差しで言った。

失礼な奴等だ。まぁ、それに近しい関係で間違ってはいないが。

どうせだから、と俺はその認識を利用して千尋を腕の中に抱き締める。

「俺は何処にも行かねぇよ。ほら、側にいるだろ」

耳元に唇を寄せて、千尋だけに聞こえるように囁いてやる。

「…うん」

「よし、良い子だ」

髪を撫で、そうすればいくらか機嫌は直ったのか千尋は笑顔を浮かべた。

帰ったらうんと甘やかしてやろう。

「お前、俺等の前だからいいけどよ、仲良いのも程々にしとけよ」

「そういうお前等の仲はどうなんだ?一緒に暮らしてんだろ?」

呆れたように言う大地に俺は千尋を腕の中に抱き締めたまま聞き返した。

「そりぁもう、色々と…」

「―っ、馬鹿な事言ってんじゃねぇぞ大地!」

話し出そうとした大地の口を鳴海が顔を赤くして止める。

分かりやすい二人だ。


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