02


えっと、あの…

「夏野…?」

「ん?やっぱ黒より青の方がいいか」

そう言って夏野は手に持っていたハンガーを元の場所に戻した。

「千尋、ちょっとそこの鏡の前に立ってコレ合わせてみな」

「う…ん」

今日、初めて気付いたんだけど夏野って結構オレに甘い?

それともそう思うのはオレの自惚れかな?

カゴの中に入れられた数点の衣類達を見つめオレは、この際何でもいいか。と楽天的に考え、本日何度目になるか分からない幸せを噛み締めた。

だって、夢でもなく今目の前で起きてる事は現実だもんねー。

ふにゃふにゃと緩みきった表情でオレは服を合わせながら夏野にどう?と聞き返す。

「似合ってる」

ふっ、と微笑み夏野はコレも買うかと言ってカゴに入れた。

「ねぇ夏野。オレのはもういいから、夏野の買おうよ。オレが選んであげるv」

「そうか?」

「うんvV」

オレは夏野に似合いそうな服を一着、二着と選び試着してもらう。

そう、してもらったんだけどその姿がもう格好良くてオレは確認をする度に頬を朱に染めることとなった。

「どうだ千尋?」

「うんうん、ばっちりv///」

いつか機会があったら他にも着物とか浴衣とか着てくれないかなぁ?

格好良いんだろうな〜///

あ、白衣姿とかも見てみたいかも…。






「後は鍵を受け取って帰るだけだな」

荷物を半分ずつ持って、とはいってもオレは軽い方だけど、出来上がっているだろう合鍵を受け取りにホームセンターへ向かった。

そこでオリジナルの鍵と合鍵を受け取り、料金を支払う。

お店を出て、家に帰る途中オレは一軒の店を視界の端に止めて夏野の服を掴み軽く引いた。

「ねっ、夏野。あそこの店寄ってもいい?」

「ん?別に構わないけど何か欲しいものでも見つけたか?」

「うん。ちょっと…」

自動ドアをくぐり、キラキラと光を反射したシルバーアクセサリーがオレ達を出迎える。

いらっしゃいませ、と格好良く微笑むお兄さんを無視して、だって夏野の方が何倍も格好良いしね。それにオレは目当ての物を探すのにきょろきょろしていた。

あ、あった!

コルクのボード下、硝子の容器に入っているそれを手に取る。

ボールチェーンにシンプルなシルバーのドッグタグがついているそれ。

夏野はオレの横で首を傾げた。

「ソレが欲しいのか?」

「うん。夏野とオレの二つ分ねv」

「俺のも?」

そう。お揃いで鍵に付けるのv良くない?

伺うように見上げたら夏野に、手に持っていたタグを浚われた。

「良いな。そうするか」

やったv夏野とお揃い〜vV

タグを二つ購入してオレ達は家に到着した。

「ただいま〜」

昨日から自分の帰るべき場所になった家に、初めて帰ってきた挨拶をする。

「おかえり」

すると何故か一緒に帰ってきた夏野からそんな言葉が返り、抱き締められた。

「なっ、夏野?何してっ///」

「いってきますとお帰りのキスがしたいって前に言ったよな?」

「えっ!?覚えて…?///」

そっと近づき、間近に迫った夏野が優しく微笑む。

「お前が言った事だからな。ほら」

もっ、も、もしかしてオレからするの!?

思ったことが伝わったのか夏野は微かに口端を吊り上げた。

「千尋…」

「〜〜っ///」

夏野の意地悪っ!でもそんな夏野の顔も好き…だったりする。

オレはドキドキと鼓動を早めながら目を瞑って、少し背伸びをして夏野の唇に己の唇を触れさせた。

「んっ…///」

触れるだけでゆっくりと離れ、オレは夏野の胸に真っ赤になった顔を隠すように埋めた。

けど、オレを抱き締める腕の力が緩み夏野の左手が頬にあてられる。

「千尋、ただいま」

上向かされて、オレはおずおずと瞼を持ち上げた。

「…おかえり、んっ…///」

優しいキスが降ってきてオレはまた瞼を下ろした。

「んぅ…ん…はぁ…ぁ…」

触れるだけのキスから唇を割って舌が入ってくる。

「…なっ…の…んっ…はぁ…」

息が苦しくなってきてオレは夏野の服をぎゅっと握り締めた。

「ふぁ…っ…」

「大丈夫か?」

崩れそうになった身体を抱き締められ、オレは真っ赤な顔でなんとか頷いた。
荷物を玄関に置いたまま、情けなくも腰砕けになったオレを夏野はリビングのソファーに横抱きにして運んだ。

「ぅ〜、ありがと///」

情けない…。

ソファーの上で体育座りをして、膝に顔を埋める。

「千尋」

玄関に荷物を取りにいった夏野が戻ってきて、オレは夏野の足と足の間に座るよう移動させられた。

「うわわっ///」

「先に合鍵渡しとくな、はい」

出来立てホヤホヤの合鍵を手渡される。

銀の冷たさが熱を持った掌に心地よかった。

「それとタグ」

チャラ、と買ったばかりのタグも渡された。

「うん。…あれ?」

このタグ何か書いてある。

親指と人差し指でタグを持ち、ジッと見つめた。

「Natsuno.F…?え?これ」

文字が彫ってある事もだけど、オレは夏野の名前が入っているのを渡されきょとんと瞼を瞬かせた。

「間違ってないから。それは千尋ので俺はこっち」

夏野の手の中にあるタグを見せてもらえばこちらには、

―Chihiro.F

と、彫られていた。

「こっちがオレのじゃないの?」

「こっちがいいか?」

夏野の持つタグを指して聞いたらそう聞き返された。

オレはそれにブンブンと首を横に振り、夏野の名前が彫られているタグを右手で握り締めた。

「いいならこっちが欲しい…」

だって夏野の名前が刻まれてるんだよ?

なんかオレのって感じがして嬉しい。


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