03
side 千尋
今日は疲れただろうから早く寝ろって夏野に言われたのに…、
うぅ〜、眠れない。
遠足を喜ぶ小学生じゃあるまいし…。
でも、明日夏野とデートだと思うとますます眠れない。
オレは水でも飲んでこよ、とベッドを下りてソッと部屋から出た。
「夏野もう寝ちゃったかな?」
リビングもキッチンもすでに電気が消されており薄暗い中電気もつけず水を一杯貰った。
「ふぅ…」
コップを戻して部屋に戻る途中、夏野の部屋の扉が開いた。
「千尋?」
別にいけないことしてる訳じゃないのに少しドキッとした。
「もしかして眠れないのか?」
「うん。夏野こそ何してるの?」
「俺は今から寝るとこだけど、眠れないなら一緒に寝るか?」
「え!?いっ、いい。一人で寝れるからっ」
ぶんぶん首を横に振り、遠慮する。
それこそ眠れなくなりそう///
「今さら遠慮すんな。別に変なことしねぇから、な?」
微笑みながらさらり、と優しく髪をすかれ、それに見惚れたオレはうっかりじゃぁ、と言ってしまっていた。
自室から枕を持って、初めて入った夏野の部屋はオレの部屋と違ってモノトーンで統一された大人の男の部屋って感じでちょっと緊張した。
「ほら、そんなとこに立ってないでこっちこい」
先に布団に入った夏野が自分の横を叩いてオレを呼ぶ。
「ぅ…、お邪魔します」
枕を夏野の枕の隣に並べて恐る恐るベッドに上がった。
〜っ、凄いドキドキするっ///
「そんな端っこじゃ落ちちまうだろ?」
腰に腕を回されてぐいっ、と引き寄せられる。
「うわっ///」
夏野の腕の中にすっぽり抱き締められた。
「〜っ///」
「何だ、恥ずかしいのか?前は勝手に侵入してきたのに」
「だって…、前と今じゃ違うもん」
赤くなっているだろう顔を見られたくなくて、夏野の胸に顔を埋める。
「そうだな。今は恋人だもんな」
「!そうだよ。…夏野はオレの」
夏野の口から恋人って言葉が出てきて自然と頬が緩んだ。
「じゃぁ、千尋は俺のだな?」
「もちろん!!オレは夏野だけのモノだよv」
「なら、俺のモノになった千尋は大人しく俺の腕の中で寝ろよ?」
「ぅん///」
恥ずかしかったけど、そう言われてしまえば頷くしかなくて、夏野の腕の中、もぞもぞと動いて楽な体勢をとって目を瞑った。
「おやすみ、千尋」
「…ん」
眠れないって言ったけど、瞼を閉じたオレはいつの間にか夏野の腕の中で深い眠りに落ちていった。
side 夏野
すやすやと腕の中で寝息をたて始めた存在を愛しく想いながらしばらく見つめていれば無意識なのか千尋が擦り寄ってきた。
「ん…、なつの…」
へにゃ、と嬉しそうに口元を緩ませ呟いた千尋の吐息をソッと奪う。
どんな夢見てんだか…。
身体的には少し辛いが心が満たされている今はそれも気にならない。
それこそ手に入る前の余裕の無さは何処へ行ったのか、と言う程に。
「愛してるよ千尋」
ちょっと意地悪かな、と思いながら夢の中の千尋に向けて囁いた。
そして、腕の中に温もりを感じながら俺も瞼を閉じた。
同棲生活初日はこれから始まる生活を示すような、甘い雰囲気に包まれたまま過ぎていった――。
END
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