01
side 千尋
無事、大学に合格したオレは今、これから自室となる部屋で段ボール箱を開けて整理していた。
「先輩と同棲生活かぁ、なんかまだ夢みたい…」
ぽわん、と告白された時の事を思いだし頬を染める。
「千尋〜、片付いたか?」
開いていた扉から先輩が顔を出す。
「わっ、まだだよ。後少し」
ふるふる顔を横に振って、慌てて片付けにとりかかる。
「手伝ってやろうか?」
「ううん、大丈夫だから。先輩は…」
「違うだろ、千尋」
「うっ…///。…な、つのはゆっくりしてて」
「おぅ」
先輩、じゃなかった。夏野はフッと微笑むと何かあったら言えよ、と言って出ていった。
「はぁ〜〜、慣れない///」
名前呼びって何か気恥ずかしくって駄目だ。
それを知ってて夏野はちゃんと呼べって言うし、意地悪。
「…早く終わらせよ」
オレは残り一個となった段ボールを開く。
中にはアルバムが三冊、大切そうに汚れないようカバーがかけられていた。
オレはその中で一番古いアルバムを手に取り、開く。
「うわ〜、懐かしいなぁv」
アルバムに貼られている写真はオレじゃなく、もちろん先輩。
「これ中学の時の先輩だ。学ラン着てるし、幼いなぁ」
でも、格好良さは今でも変わらない。
へへっ///これはオレの宝物。先輩を好きになってから作り始めたオレだけのアルバム。
ソッと大事に引き出しにしまい、鍵をかける。
先輩に見られたら恥ずかしいからね…。
空になった段ボールを潰して片付けは終わった。
片付けを終え、リビングに入ると夏野がキッチンに立っていて今日の夕飯は俺が作ってやるよ、と言ってきたのでオレはリビングでワクワクしながら待っていた。
夏野の手料理初めて食べるなぁ〜。
大学に通っててお昼一人の時とか自分で作ってたみたいだけどオレは一度も同伴にあずかったことはない。
だから、
「楽しみだなv」
しかし、お昼を挟んで朝から荷解きやなにやらやって疲れていたオレはいつの間にかクッションを抱き締め、うとうとしていた。
「…ろ、千尋。ご飯出来たから起きろ」
「ん…むぅ…」
眠い目を擦ればその手を掴まれる。
「そんなにしたら赤くなっちまうだろ」
ふわっ、と両方の瞼に柔らかい感触感じてパチッと目を開けば間近に夏野の顔があって、オレは思わず慌てた。
「うわぁっ!?なに、なに?///」
「夕飯出来たぞ」
「あっ、うん」
じゃなくて、今のは何!?ひゃ〜///
赤くなっているだろう頬を押さえ狼狽える。
「千尋?早く来いよ」
「ぅん///」
初日からこれって、…オレの心臓持つかな?
夏野の作ってくれた料理は凄く美味しくて、オレは始終笑顔だった。
そして、片付けはオレがするから、と夏野をリビングに残しキッチンに立つ。
キッチンからソファーに座りテレビを見ている夏野の姿が見えてますます頬が緩んだ。
なんか新婚さんみたい///
フンフンと機嫌良く鼻唄を歌いながら片付けをすませた。
「よしっ、終わった」
タオルで手を拭き、リビングにいく。
「終わったのか?こっち来いよ」
オレに気づいた夏野は手招きしてオレを呼び、近付いたオレの腕を引き足の間に座らせた。
「〜っ、夏野、オレ恥ずかしい///」
「大丈夫、その内慣れる。それとも嫌か?」
「嫌じゃないけど…///」
落ち着かない。今まではオレが夏野の腕に抱きついたりはしてたけど、それとは何か違う。
「千尋、もう少ししたらお風呂沸くけど一緒にはいるか?」
唐突にそんなことを言われ思わずどもった。
「ぅえ?いっ、いい///夏野の後で」
実は告白された日からネットや本でその、あれ、えっと、うん、まぁ、なんだ…足りなかった知識を得ようと調べてみた。
んだけど、それがいけなかった。
オレよく普通に夏野と、好きな人とお風呂入ったり一緒のベッドで寝たりできたよな、って思った。
今じゃ恥ずかしくて出来ない。
その後、夏野を先にお風呂に行かせてオレは部屋から大学の履修要項を持ってきてリビングで授業の組み立てをしていた。
必修科目の授業に丸をつけ、空いている時間に選択科目を入れていく。
「夏野は俺にかまけてないで、って言ったけどやっぱ遅い時間の授業は…」
早く帰ってきたいし、少しでも夏野といたいからな〜。
バッテンを書こうとしたら一回り大きい、温かな掌に手を包まれて止められた。
「千尋、俺の言った台詞覚えてんだろ?」
「…ぅっ」
ちら、と夏野を見れば少し怒った顔をしていた。
でもその前に、
「夏野…、ちゃんと服着て///」
拭き途中だったのか頭からタオルを被り、下はスウェットを履いてはいるものの上半身裸だった。
格好良いんだけど、目の毒。
夏野は頬を染めて俯いたオレに、怒りはどこへいったのかフッと笑った。
「見惚れたか?」
「………ぅん///」
くしゃくしゃと頭を撫でられ、持っていたシャープペンを盗られる。
「いいか、ちゃんと考えて決めたんなら何も言わないけどなそうじゃないなら実家に戻すぞ」
「…分かった」
しょぼんと項垂れるオレの頭を撫でる手は優しいのに言ってることは厳しい。
でも本当は、夏野がオレの事を想って言ってくれているのも知っている。
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