03


side アニ

自室に戻った俺はベットに寝転がり後悔していた。

あんなこと言うつもりはなかった。

まして、あんなことをするつもりもなかった。

頬を紅潮させ、瞳を潤ませたオトウトの唇から艶やかな嬌声が洩れて、俺はそこで正気を取り戻した。

「やっぱアイツの為にも俺の為にも家を出るか」

オトウトは俺がキスをして行為を続けようとしたら嫌がった。

アイツにとっていくら好きな相手でも体を重ねる、重ねないは別問題なのかも知れない。

まして初めに俺がアイツに言ったように俺達は男同士。

アイツだって可愛くたって男だ。男の俺に抱かれることに抵抗だってあるだろう。

「とにかくアイツの答えしだいで俺の取る道が変わる」

アイツを連れて行くか、置いて行くか。

俺がアイツを諦めるか。

「フッ…アイツの方が先に俺を好きになったのに、今じゃ俺の方がベタ惚れか…」

おかしなこともあるもんだな…。

俺は階下で悩んでいるだろうオトウトを想って笑った。






-コンコン-

ドアをノックする音で俺は目を覚ました。

どうやらあのまま寝てしまったらしい。

外を見ると真っ暗ですでに日が沈んでいた。

俺はベットから起き上がりどうぞ、と返した。

そして、ガチャリとドアを開けてオトウトが入ってきた。

「どうした?」

俺は数時間前の事が無かったかのようにオトウトにそう声を掛ける。

「あの、…その…」

言いよどんでいるオトウトの側に行き、部屋の扉を閉めるとオトウトを椅子に座らせた。

「どうするか決まったか?」

俺の声にオトウトはうん、と小さく頷いた。

「そうか」

俺はベットに腰かけてオトウトの言葉を待つ。

数分か数十分かした頃、いや実際にはそんなに経っていないのかもしれないがオトウトは顔を上げて俺をしっかりした瞳で見つめて口を開いた。

「オレを先輩の恋人にして下さい」

「………本当にそれでいいのか?」

再度の問掛けにもオトウトは躊躇うこと無く頷いた。

「おいで…」

俺は椅子に座るオトウトに自分の横にくるよう手招きした。

オトウトは俺の横に座ると緊張した面持ちでちらりと俺を見上げる。

「大丈夫、そんなすぐにヤったりしない。ただ、これだけは許せよ」

俺は隣に座るオトウトの方を向いて、オトウトの顎を掴むと上向かせ口付けた。

「んっ…」

オトウトはきゅっと目を瞑って俺の服を掴む。

「…んんっ…ぁ…っ…」

口内に舌を侵入させれば、恐る恐るだがオトウトが俺に応えようと舌を絡めてきた。

それに気を良くした俺はオトウトの後頭部に手を差し入れ、さらに口付けを深くする。

「ん…はぁ…っ…ふぁ…」

一生懸命俺についてこようとするオトウトが可愛くて可愛くて、俺は唇を放すとオトウトの首筋に顔を埋めて、自分のモノだという印を付けた。

「ひゃ…」

ぴくんとオトウトは体を震わせて閉じていた目を開いた。

「せんぱぃ?」

キスで紅潮した頬に快感で潤んだ瞳、唾液で濡れて光っている紅い唇。

おまけに甘えたように俺を呼ぶ声に俺は切れそうになる理性をなんとか繋ぎ止めてオトウトを抱き締めるにとどめた。

「嫌だったか?」

「ううん、恥ずかしかっただけで…それにちょっぴり気持ち良かった…」

「そうか」

俺はオトウトを抱き締めながらその言葉に少し安堵した。

「ねぇ、先輩。オレまだ先輩の事オニイチャンって呼ばないといけないの?」

ぎゅーっと俺に抱きついてオトウトは聞いてくる。

「ん〜、そうだな。人前ではそう呼んだ方がいい。二人の時は…」

俺はそう考えて、思いついた言葉にフッと笑って言った。

「夏野(ナツノ)って呼べ」

「え、それって…」

驚いた表情で俺を見るオトウトに、俺はくすりと笑ってオトウトの耳元で囁いてやる。

「そう、名前で呼べよ。千尋(チヒロ)」

カッと瞬時に真っ赤になってオトウトはうろたえた。

「〜〜っ、せんぱぃそれ卑怯…」

「もう先輩じゃないだろ?」

「……うっ」

オトウトは真っ赤になって俺の胸に顔を埋めてしまった。

「千尋」

胸の中に抱き締めてその名を呼ぶとオトウトは身じろいで耳を赤くさせたまま、俺に聞こえるか聞こえないかの、本当に小さな声でぽつりと呟いた。

「……な、…なつ、の?」

「何で疑問系なんだ?」

「だって恥ずかしぃ…」

名前を呼ぶだけでこれとは…、本当可愛いなぁ。

俺は口許を緩めて恋人となったオトウトを優しげな瞳で見つめた。

それからしばらく抱き合っていると、オトウトは顔を上げ首を傾げてこう言ってきた。

「…ねぇ、オレも連れてってくれるよね?」

オトウトの可愛い仕草に一瞬何の話だか理解するのが遅れたが、俺は気付かれないようあぁ、と答えた。

「その代わり俺にかまけてないでちゃんと自分の行きたい大学行けよ」

「うんvV」





こうして恋人同士になった俺達は卒業と同時に家を出て、四月から二人で暮らすことになった。

END


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