02


「鳴海〜v」

「ほら、早くしろ」

「くそっ、何で俺が」

鳴海が携帯で大地を図書室に呼び出し、俺は本棚の影に隠れる。

「鳴海、俺に用って何だ?」

近付いて来た大地の腕を掴み、鳴海は本棚に押し付ける。

「鳴海?」

「………」

顎に手をかけ、上向かせる。

そうすれば大地は恥ずかしそうに頬を朱に染め、瞼を閉じた。

俺は二人を本棚の影から見守る。

そして、ゆっくりと鳴海と大地の顔が重なった。

あれで本当に解けんのかよ?

『キスすれば解けますよ。アレは、惚れ薬はその名の通り惚れさせるだけの薬ですから。かけた相手が周りの人より数百、数千倍格好良く、可愛く思えたり。とにかくかけた相手を意識しまくってそのうち恋に結び付く、という感じですかね』

「それが何でキスで解けるんだ?」

『キスは最終確認なんです。本当に自分はこの人が好きなのか、理想と現実をそこで見つめ直してもらうんです。本当に好きならそのまま、嫌いならその時点でさよなら。惚れ薬の効果はどちらにしろここで消えます』


スッ、と大地から離れた鳴海が息を飲む。

俺も影からジッと見つめた。

妙な緊張感をともないながら大地がゆっくり目を開けるのを待った。

「うわっ、鳴海!?」

「「!!」」

戻った!?いつもの大地に。

俺は本棚の影から出て二人の元へ行く。

「鳴海、俺の言った通りだったろ?」

「藤宮!?お前もいたのか。てか、お前らこんなとこで何してんだ?」

大地は首を傾げ俺達を交互に見てくる。

俺は鳴海の腕を掴んで引き寄せると小声でしゃべる。

「よかったな、解けたみたいで」

しかし、鳴海は少し浮かない表情で返してきた。

「うん、まぁ。でも解けたってことは俺、大地に嫌われてるってことか?」

「は?」

「おいっ、何二人でコソコソしてんだよ」

大地が俺と鳴海の間に割って入った。

あれ?これは、もしかして俺余計な事したか?

俺はすぐ横で慌てている鳴海と些か不機嫌になった大地を眺めて、口元を引き吊らせた。

「いや、あの、大地…」

「何だよ?」

鳴海に詰め寄る大地は鳴海を嫌いにはなっていない。

むしろ、さっきまで丸分かりだった好意を上手く隠した上で、隠し切れなかった嫉妬が漏れ出ている感じだ。

予想だにしなかった展開に俺は溜め息を吐いた。

「…はぁ、もう俺は付き合いきれねぇ」

俺は二人に気付かれぬよう図書室から逃げ出した。









朝から疲れた俺は授業中寝て過ごした。

「オニイチャンv」

鞄片手に校門を出ればにこにこ笑顔でオトウトが近付いてくる。

「おぉ」

「何か疲れてない?大丈夫?」

心配そうに下から覗き込んでくるオトウトに心が癒される。

思わずぎゅう、と抱き締めてしまった。

「オニイチャン///」

「悪ぃんだけどデート別の日にしてくんね。俺、精神的に疲れててお前楽しませられそうにねぇ」

「いっ、いいけど…///、その代わりに家に帰ったらくっついてても良い?」

「好きにしろ」

俺はオトウトの条件を跳ね退ける気力もなくそう返した。

「わ〜いv」





あの後、二人がどうなったかは聞かないでくれ。

「オニイチャン。はい、あ〜んv」

俺は目の前に差し出されたスプーンを口に含んだ。

「美味し?俺が作ったんだよ?」

ぴっとりくっついて満面の笑顔を見せてくるオトウトがいつもに増して可愛らしく見える。

どんだけ疲れてんだ俺は。

「はぁ…」

「美味しくなかった?」

俺の溜め息を勘違いしたオトウトはうるっ、と瞳に涙を浮かべた。

まぁ、事の元凶はお前だな。しかし、今更済んだことを責める気も起きず、俺は泣きそうになっているオトウトを抱き締めた。

「うわぁ///」

「俺のために少しこうしててくれ」

「え!?うっ、うん。オニイチャンの為ならオレ嫌じゃないよ///」








side オトウト


先輩、じゃなくてオニイチャンに抱き締められて心臓がうるさいくらいドキドキしてる。

「だ、大丈夫?」

「ん」

オニイチャンの低い声が耳元でしゃべる。

うっわぁ〜///

幸せすぎてどうにかなっちゃいそう。

オレはソッとオニイチャンの背に腕を回してみた。

しかし、オニイチャンは何も言わずオレは拒絶されていないことに頬を緩めた。

やっぱオレ、先輩のことオニイチャンに思えないよ。だって、こんなに好きなんだもん。

「…先輩、オレね」

「………」

「オレっ…、わわっ!!」

オレを抱き締めていた先輩の体がグラリと傾き、そのまま一緒にソファーに倒れ込んだ。

「うっ、重い。オニイチャン?」

すぐ横からは規則正しい寝息が聞こえてくる。

「寝ちゃったの?」

先輩の腕の中でモゾモゾ動き、楽な体勢をとる。

そっか、今日は疲れたって言ってたし。

でもこのままじゃ風邪引いちゃわないかな?

オレは何とか先輩の腕から抜け出そうとしたが、無理だった。


う〜ん。あ、こうすればいいんじゃん!!

オレはさっきと同じ様に先輩の背に腕を回して、ぴっとりくっついた。

これで寒くないはず。

そして、先輩の温もりに包まれていたオレもいつしか眠りに落ちていった。



END


[ 10 ]

[*prev] [next#]
[top]



- ナノ -