01
制服の群れの中を一人悠々と歩く。
「じゃ、オニイチャンまた放課後にね!!」
隣を歩いていたオトウトはつい先程、そう手を振って角を曲がって行った。
俺はその後ろ姿にやれやれ、と苦笑していたが今度は目の前に現れた光景に引き吊った笑みを浮かべた。
「なぁ、鳴海〜」
「やめろっ!!離せ、暑苦しい!!」
「………」
俺は歩く速度を落とし、目の前の二人がさっさと去ってくれることを願った。
しかし、
「あ〜!!藤宮、お前これなんとかしてくれよっ!!」
偶然、振り向いた友人は俺を視界に捉えた。
なんとか、ってお前が面白半分でやった結果だろ?俺には一切関係、…ねぇ。
朝から注目を集めるのも嫌で仕方なく二人に近付く。
「あ、藤宮じゃん。おはよ〜」
「はよ」
助けを求めた鳴海を無視して俺は鳴海にまとわりついているもう一人の友人、大地と朝の挨拶を交わした。
「なに呑気に挨拶してんだよ!!それよりコイツ何とかしてくれよ〜。朝からくっついて来やがって…」
ギロリ、と鳴海は大地を睨みつける。
「何だヤキモチか?俺が藤宮と仲良いのが気に入らないのか?でも安心しろよ、俺が好きなのはお前だけだぞ」
「………」
「………」
なぁんて頬を染めて言い切った大地に俺と鳴海は固まった。
「…なんか俺、眩暈してきたかも」
「俺も頭痛くなってきた」
「ん?大丈夫かよ二人とも。風邪か?」
一人、大地は不思議そうに首を傾げる。
「「………」」
ある意味、破壊力抜群な大地を放置して俺と鳴海は制服の群れの中を駆け出した。
「あっ!!置いてくなよ、鳴海、藤宮〜」
慌てて俺達の後を追い駆けて来た大地を撒いて、朝から開いている教室、俺達とは全く縁のない図書室の奥に逃げ込んだ。
「…っ、はぁ、はぁ。何で朝から走んなきゃなんねぇんだよ」
「はぁ…、お前のせいだろ。面白半分で大地になんて使うから。普通に女の子に使えよ」
「なっ!?元はと言えば藤宮があんなもん俺に渡すからだろっ」
「何だとてめぇ!!人に押し付けんな!!」
ぐぃ、と互いの胸ぐらを掴み合い至近距離で睨み合う。
「そこの二人!!ここをどこだと思ってるんですかっ!!静かにしなさいっ!!」
そこへ、司書の雷が落ちた。
「「すいません」」
司書の一喝で冷静になった俺達は互いに手を離した。
「悪ぃ、藤宮」
「いや、俺も悪かった」
で、アイツどうする?とヒソヒソ声を潜めて相談し合う。
「そもそもアレ、何処で手に入れたんだ?」
「……知らねぇ女が俺に押し付けてきた」
まさか、オトウトが俺に使うために造ってもらったとか馬鹿正直に伝えること出来ねぇし。
「あぁ、お前よく知らない奴から物渡されてんもんな」
その一言で納得したのか鳴海は追求してこなかった。
「貰った時、他に何か言われたり説明なかったか?」
「ねぇな」
だって、アレは俺が速攻でオトウトから取りあげたから。
即否定すれば鳴海はがっくりと肩を落とした。
「藤宮〜、このままだと俺泣くぞ。あぁ、いっそ大地の頭を殴って記憶をリセットさせてやろうか…」
それは駄目だろ。運悪けりゃ人生までリセットされるぞ。
危険思考に陥った鳴海に俺は仕方ないか、と使いたくはなかった最終手段を取る事にした。
ポケットから携帯を取りだし、電話を掛ける。
『オニイチャン!?オレに掛けてくるの初めてじゃない?嬉しい〜vでも、どうしたの?何かあったの?あ、もしかしてオレの声が聞きたくなったとかv』
三コールしない内に出た相手は、嬉しさからかテンション高めに話し始めた。
「お前な、いきなり話し出すな。耳が痛ぇだろ」
『だってオニイチャンが電話くれたのが嬉しくてつい…』
「そうか、わかったから落ち込むな。でな、お前に聞きたいことがあるんだ」
『何何?』
今までの経緯をかいつまんで話せばオトウトは薬の製作者に代わるから、と言って電話口から離れた。
『もしもし、お電話代わりましたけど。藤宮先輩のお兄さんですか?』
「あぁ、初めまして。榊 美矢さん、ですか?不躾で申し訳ないけど惚れ薬の効果を無くすにはどうしたらいい?」
『そうですねぇ、お兄さんが藤宮先輩と今日の放課後デートして下さると約束すれば教えて差し上げますけど…、どうします?』
『何勝手に言ってんだよ、美矢!!』
『あら?デートしたいんでしょう?』
『うっ、それはそうだけど。でも、オニイチャンの嫌がることは…』
電話の向こうで始まった言い合いに俺は榊 美矢という彼女がオトウトの協力者で、恋愛方面でも相談相手だと気付いた。
しかし、だからといって仲良すぎじゃねぇか?
俺は二人の声を遮るように口を開いた。
「………良い。それで良い。デートするから解決法教えてくれ。じゃねぇと俺の友人が犯罪に走りそうだ」
鳴海は大地をどこに呼び出そうか、とか考えている。
『分かりました。約束はちゃんと守って下さいよ?』
そして、惚れ薬の効果を打ち消す方法を何とか入手した。
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