現在×その先
体を包み込む、その温もりが始めは酷く恐ろしかった。しかし、今は――
「ゃ…ぁ…あ…もっ…」
「嫌だ?嘘吐くな。お前のココは涙を溢して喜んでるぜ」
ぐちゅり、と卑猥な水音が耳を刺激する。体の奥を熱くて太い楔で貫かれ、固く閉ざした瞼から涙が溢れ落ちた。
「っぅ…はっ…はっ…」
「拓磨、目ぇ開けろ。瞑るから怖いんだ」
目元に柔らかな感触が降ってきて、涙を掬いとられる。
うっすらと開けた視界は滲んでいたけど、目の前の男ははっきりと写った。
「た…ける…、っく―」
「そうだ、良く見とけ。怖いなら俺にしがみついてろ」
止まっていた律動が再開する。
「っ…ぁ…んっ…く…」
俺は猛の言葉通り、猛の首に腕を絡めて快楽の嵐が去るのを待った。
◇◆◇
ぼぅっとしながらワイシャツを着込む広い背中を見つめる。
「慣れねぇなお前。まぁ、それはそれでおもしれぇが」
その上に上着を羽織ながら言う奴の背中に、俺は少し掠れた声で返した。
「…一生慣れねぇよ」
綺麗にして貰った体は、いつもどこか違和感が付き纏う。だるいし、腰は痛い、奥にまだ何かが挟まったような感じがあってスッキリしない。
眉を寄せ、文句を並べ立てようとした矢先。振り返った猛がいつになく穏やかで優しい瞳を向けてきた。
「な、何だよ?」
その瞳にも未だ慣れない俺の鼓動はドキリと大袈裟に跳ねて、声を上擦らせた。
寝室の中、広いと言えど猛と俺の間にはそう距離はない。
「拓磨」
猛は数歩で距離を縮め、ベッドの上で動けない俺の頬に手を滑らせるとゆるやかに口端を吊り上げた。
「一生か。そうだな、お前の口から聞けるとは思わなかったが中々良いもんだ」
「………」
一生慣れねぇよ、俺は自分の口にした言葉を反芻して押し黙った。
その間に猛の携帯が鳴り出し、猛は舌打ちして俺の頬から手を話すと電話に出る。
「何だ。あぁ、ソイツなら待たせておけ」
二、三言会話を交わし通話を切った猛はいつもの、甘さを微塵も感じさせない鋭い双眸に戻って俺を見た。
「拓磨。昼に一度戻ってくる。食いたいもん考えておけ」
けれど、その内容は甘い。
「…分かった」
俺の返事を聞くなり猛はフッと微かな笑みを見せ、寝室を出て行く。
「…………」
そして、残された俺は温もりの残る部屋で自分の口元を掌で覆った。
「一生……」
体を包み込む、その温もりが今は酷く愛しいものに思える。そうさせたのは誰か…。
自然と溢れ落ちた台詞が教えていた。
「ん、まぁ、悪くは…ねぇ」
だからかもしれない。
俺はその言葉をわざわざ否定しようと思わなかった。
それより昼飯、猛が帰って来る前に考えておかなきゃな…。
end.
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