18
「ん…ぅ…」
重ねられた唇は優しく触れると一度離れて、再びゆっくりと重ねられる。舌先で唇をなぞられ、ぞわぞわとした感触に薄く口を開けばそれを待っていたというように猛の舌先が口内へと滑り込んできた。
「っ…」
上顎を擽られ、舌先で歯列をなぞられる。口腔内を愛撫をされ、びくりと奥へと逃げた舌を絡めとられて引き摺り出された。
「ふっ…ン…ん…」
絡み合い、擦れ合った舌がびりびりとした微弱な痺れをもたらしひくりと小さく肩が震える。
角度を変え深まる口付けにぴちゃりと唾液の交わる水音が立つ。
「…ん…っ、ぁ…」
鼻から抜けるような甘い吐息が零れて目元が赤く色付いた。細められた漆黒の双眸と視線が合わさり、胸の奥からぐずぐずと熱い感情込み上げてくる。
飲み込まれてしまいそうなほど熱いその熱に震える心を持て余し、俺は戸惑って猛の目から逃げるように瞼を伏せた。
「ふ…」
するとキスの合間に猛が低い笑い声を溢す。
それに気付いて伏せたばかりの瞼を持ち上げれば、俺を見下ろしていた猛の眼差しが僅かに緩んだ。
鋭さを残しながらも温かさを宿したその瞳にぞくりと背筋に震えが走る。
「っ…ふ…ぁ」
「――拓磨」
離れた唇を透明な糸が繋ぎ、ぷつりと…途中で途切れる。
それは初めて見る猛の顔かも知れない。
低い声で名前を囁かれて、目の前の存在に全ての感覚を奪われる錯覚に陥る。
熱を持った頬に猛の右手が触れ、濡れた唇をそっと猛の指先が拭う。
「お前は何もしなくていい。最後まで俺だけを見ていろ」
言いながら目元に唇が落とされ、再び唇が重ねられる。
「ん、ン…っ…たけ…る…」
そして唇から離された猛の手がスウェットの中へと潜り込み、すぅっと太股を撫でたかと思えば中心を掌で包み込まれた。
「ッ…や…!?」
ひくりと戦くように腰が跳ね、ギシリとソファのスプリングが軋んだ音を立てる。直に握り込まれた中心に自分とは違う温度を宿す指先が絡み付いて、ゆるゆると上下に抜かれる。
「ぁ…はなっ…ッン…ん」
口端から零れた拒絶の言葉は猛の口内へと吸い込まれ、中心へと絡み付いた指先がじわりと蜜を滲ませ出した先端をぐりぐりと弄る。
「んっ…ん、ン…!」
直に与えられる刺激にびくびくと小刻みに腰が震え、猛の背中へと回していた手で猛のシャツをぎゅっと握った。
「んん…ッ…ンっ…ぁ」
口付けられたままの息苦しさに目元に涙が浮かび、下肢から聞こえ始めたくちゅくちゅという鼓膜を揺らす湿った水音に羞恥で顔が熱くなる。
混じり合い、飲み込みきれなかった唾液が口端を伝い落ち、ようやく離された唇から鼻に抜けるような甘い声が零れた。
「ンぁ…ふっ…」
「イイ顔だ…拓磨」
耳元に寄せられた猛の唇が囁くように吐息を流し込んでくる。
「…っ…ぁ…や…はなっ…」
ぽたぽたと蜜を零れさせ、猛の手の中で硬く芯を持った中心が限界を訴えるようにぶるぶると震え出す。高まる熱と共に胸の奥から込み上げてくる想いがきゅぅっと胸を締め付け、目尻からぽろりと涙が零れ落ちる。
「なにも我慢するな」
それを猛の舌先が掬いとり、解放を促すように絡められた指先が一層激しさを増した。
「ンくっ…ぁ…っ、やめ、たけ…るっ…」
「そうだ。お前に触れてるのは俺だ」
にちゃにちゃと耳に届く卑猥な水音と見下ろす猛の熱い眼差しに、全てを見られている気がしてぶるりと腰が震える。
「そうやって俺だけを見ていろ。そうすれば…」
身体の中の熱が出口に向けて駆け上がっていく。
「ぁあっ…あっ…ン…」
「お前だけを愛してやる」
「っ…ぁ、ぁあ…っ―――!!」
びゅくりと、腰が跳ねて猛の手の中で熱が弾ける。俺は咄嗟に唇を噛み、みっともなく上がる声を圧し殺した。
蜜を飛び散らして、余韻にびくびくと震える中心を猛は愛撫し続ける。
「や…っ…離せ…」
「まだ駄目だ。…愛してやると言っただろう」
蜜で濡れた指先を、猛は中心より奥に息づく秘所へと滑らせ入口を確かめるようにぐるりと撫でた。
「っ…ぁ…、どこ…触って…」
「忘れたか?ここで繋がるんだ」
くっと人差し指を秘所に突き入れられ、感情を置き去りに猛に抱かれた時の事を思い出して身体が強張る。
「っ……」
嫌だと首を横に振って俺はそれ以上の行為を拒む。
身体を堅くして怯えを滲ませた目で見上げてくるその様子に猛は瞳を細めて、宥めるように唇を落とした。
「怖がるな。あの時とは状況が違う」
「っ…どこ…が…ぁ…っやめ…!」
中に入れられた指先が何かを探るようにぐっぐっと奥へ入れられ、その感触から逃げるように俺は猛の下で身を捩った。猛のシャツを握った手に力が籠る。
「今はお前の気持ちを優先してやってる、ほら」
つぷりと、狭い秘所の中へ二本目の指が突き入れられ、狭い道を広げようとぐにぐにと回りを囲う壁を押し広げ始める。
「ぁ…うそ…だ。ッ…俺は、嫌だって…」
中へと入ってくる異物感に眉をしかめて俺は唇を震わせた。
「んンっ…はっ…」
はっ、と妙な息苦しさを感じて次第に呼吸が乱れていく。
猛は秘所の中の様子を探りながら三本目の指を中へと潜り込ませる。
「くっ…ぁ…!」
ばらばらと秘所の中で指先が好き勝手に動き出し、緩みだした壁が猛の指を甘く締め付け出す。
顔をしかめて、嫌がる俺に猛は喉を鳴らして言い聞かせるように言った。
「嘘を吐いてるのはお前だ」
そして秘所を弄る猛の指先が奥にある凝りへと触れて、ビリッと腰へ甘い疼きが走った。
「っあ、ぁあ…っ!」
下を向きかけていた中心が堅さを取り戻して上を向く。
不快に思っていた口からは思わず高い声が上がり、猛はソコを刺激するように指の先で何度も強く擦り上げた。
「ぅ…っ…くっ…ふ…ンぅ…」
腰に走る甘い疼きとビリビリと痺れるような感覚に勝手に腰が揺れ出す。乱れた呼吸に混じって艶を帯びた声が噛み締めた唇から零れ落ちる。
「噛むな、拓磨」
中を刺激する指を動かしたまま猛は噛み締めた俺の唇に唇を重ねてくる。
舌先が唇を舐め、無理矢理唇を抉じ開けられて舌が絡む。
「んんっ…ふっ…ぁ…」
秘所を刺激していた指がいつの間にか抜かれ、ひくりと腰が引き吊れた。
唇は直ぐに離され、猛の手が腰と背中に回される。
猛が身体を起こすのと一緒に俺の身体も起こされて、背中に回された手が右手を吊っていた三角巾を外す。
「ぁ…猛…?」
右手はギプスと包帯だけになり、腰に回された手が離れ膝裏へと差し込まれる。
「怪我が悪化したら面倒だからな。俺の首に腕を回せ」
「え……」
戸惑う俺を他所に猛は俺を横抱きにしてソファから立ち上がる。咄嗟に言われた通りに猛の首に腕を回して、俺は猛に抱き上げられたまま寝室へと連れて行かれた。
とさりとベッドの上に仰向けに下ろされ、猛が覆い被さってくる。
猛を見上げ口を開こうとして落ちてきた猛の唇に口を塞がれた。
「んんっ…」
スウェットと一緒に下着を下ろされ、肌が外気に触れて身体が震える。
僅かに硬さを残す中心に猛の指が絡められ、くちゅくちゅと濡れた音が立つ。
見下ろしてくる猛の双眸に熱を感じてゾクリと背筋が震える。触れてくる猛の熱にざわざわと心がさざめき出す。
カチャリと金属の擦れる音が耳に届き、口付けに意識を奪われている間に秘所へ熱い塊が押し付けられた。
「――っ」
それが何の熱かなんて考えずとも分かった。
「逃げるなよ…拓磨。俺に愛されることがどういうことなのか、身体で覚えろ」
離れた唇が熱を宿して、逃げようとした俺の心を引き寄せる。
じわじわと蜜を溢し始めていた中心を愛撫されたまま、猛の切っ先が秘所へと押し込まれた。
「う…あ…っ――」
「力を抜け、息を詰めるな」
「はっ…はっ…ぁ…う…」
ぐちゅぐちゅと中心を抜かれて身体から力が抜ける。その隙にぐいぐいと熱塊が中へと押し進められる。
丹念に解されたとはいえ秘所を押し広げられる感覚に眉が寄り、中を埋め尽くす圧迫感に息が詰まる。
「ぅ…ぁっ…くぅ…ン…」
「っ…は…流石に、狭いな。だが、あと少し」
真上にある猛の顔が苦し気に歪められる。吐き出される吐息が掠れ、俺の視線を感じたのか情欲を湛えた目と視線が絡んだ。
闇より深い、熱を宿した漆黒の眼差し。その目に今、確かに、俺だけが写っている。
「ふっ…ぅ…く…」
その目を見てそうと実感した瞬間、きゅぅっとまた締め付けられるように心が震えて胸の内で昂っていた感情がどくどくと溢れるように弾けた。
悲しくもないのに零れる涙が目尻を伝い、くぐもった声が嬌声に混じる。
「ぅ…っ…」
いきなり嗚咽を漏らして泣き出した俺に猛は一瞬は動きを止めると、零れた涙へと唇を寄せ一息に熱塊を奥へと押し込んだ。
「ふ、っく…ぁあ…っ!」
「はっ…」
びくんと突き入れられた衝撃に顎がのけ反り、背がしなる。
零れた涙がはらりと落ちてシーツへと吸い込まれた。
「ようやく…実感が湧いてきたか」
「っは…ぁ…ぅ…んッ…」
「俺が他の奴に触れるのが嫌なんだろう」
俺の呼吸が整うのを待っているのか、猛は俺を組み敷いたまま動かずに双眸を細めて言葉を落とす。
「自分以外の人間を見て欲しくないか。…可愛い嫉妬だ」
「はっ…は…ン…」
ぼぅっと猛を見上げて呼吸を整えていれば頬を撫でられ、猛はゆるりと腰を動かし始める。
「俺が欲しいだろう?」
「うぁ…あっ…まっ…」
既にいっぱいいっぱいだった中を浅く突かれて、ざわざわと猛に絡み付くように内壁が蠢く。
身体の奥からどくどくと伝わる熱い脈動を感じて頭の中が真っ白になりそうなほど、猛の言う通り浅ましく醜い感情が心の中に生まれる。
「ン…はっ…ぁ…嫌だ…」
ゆるゆると弱い刺激で中を突かれて、俺は涙を溢しながら首を横に振る。
「嫌じゃねぇだろ拓磨」
「っ…ぁ…嫌だ…」
「強情だな。身体はこんなにも素直だっていうのに」
頭をもたげ蜜を溢す中心に猛は指を絡め、ぐちゅぐちゅと上下に抜く。浅く中を突いていたものがギリギリまで引き抜かれ、内壁が切なくきゅぅと収縮する。遠ざかった熱に声を漏らしてすぐ、勢い良く戻ってきた熱塊に奥を深く貫かれた。
「っあぁ…ぁ…ぁっ!」
ビクンッと身体が跳ねる。
狭い秘孔を押し広げ、奥深くまで入り込んだ猛の熱をぎゅぅぎゅぅと締め付けて、猛から与えられる熱を受け取ろうと身体が求める。
「っ…そう締め付けるな」
「あっ…はっ…ぁ、…た、たける…」
包帯を巻かれた腕と健常な左腕を猛の広い背中に回して、はくはくと息を吐く合間に弱々しい声音で言葉を紡ぐ。
「いやだ…っ…怖い…」
全てを囚われてなお足掻く。身体に刻みこまれる熱に、心に注がれる情に。猛から離れられなくなってしまう自分が怖い。
猛へと向けて溢れ出した感情が俺の心をぐちゃぐちゃに掻き乱す。
「怖いことなんざ何もねぇ」
まるで子供の様にふるふると震えだした身体を猛は強く抱き締め返し、今一度無防備に晒された心へと優しく残酷に触れる。
「俺の腕の中にいればな…ずっと」
涙で濡れた瞳を見下ろし猛は囁く。不安定に揺れる瞳を自分へと縛り付け、ずるりと奥へと突き入れた熱塊を浅く引いて、身体と心に覚えさせるように更に奥深くまで腰を打ち付けた。
「―ンあっ…ぁ、あっ…!」
「はっ…ただし、…心変わりは許さねぇ」
ぐねぐねと波打った内壁が猛の形へと変わり、意識を囚われた心の中へ猛の言葉が染み込む。
「もし…お前が俺を裏切るようなことがあれば」
涙でぼやける視界の先で深い闇と苛烈な熱情を湛えた双眸が獰猛な本性を露にギラリと光る。
「その時は…」
顎を仰け反らせ目の前に無防備に晒された喉元へ猛は鋭い牙を突き付けながら、甘く睦事を囁くような酷く優しい声で俺の中へと言葉を流し込んだ。
「お前を殺す」
[ 68 ][*prev] [next#]
[top]