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病院に到着すれば、唐澤の指示を受けた三輪が数名の看護師共々待機していた。

俺の腕の中でぐったりしている拓磨を見ると険しい表情になり、ストレッチャーに下ろすように言ってくる。

「頼んだぞ三輪」

無駄な会話は一切交わさずそれだけ告げれば、三輪はしっかりと頷き、看護婦に指示を出しながら拓磨を乗せたストレッチャーごと扉の向こう側へ消えた。

慌ただしい気配が去り、後は待つことしか出来ない。

「会長、ここでは目立ちますので下のロビーに移動した方がいいかと。上総、お前はここで待機だ」

「はい」

頷いた上総に視線を投げ、唐澤に戻す。

「行くぞ。お前等には聞きたいことがある」

拓磨の消えた扉を心配そうに見つめていたトワと大和に言葉を投げ、歩き出す。

「トワさん、今は…行きましょう」

「あぁ、…いざとなると駄目だな。病院ってやつは嫌いだ」

大和に促され、扉から目が離せないでいたトワは自嘲するように呟いた。

そして、視線を引き剥がすように一度瞼を閉じるときつく拳を握る。

「志郎…もし側にいるなら拓磨を守ってくれ」

祈るようなその台詞を背に、大和も歩き出した。








「一体どういうことだ」

観葉植物の並ぶ、奥の席に座り、目の前に座ったトワとか言う男を睨み付けるように見据え、俺は口を開いた。

「…その前に俺も聞きたい事がある。拓磨とアンタ、どういう関係だ?」

俺の睨みにも怯まずトワも眼光を鋭くさせ聞き返してきた。

「拓磨とは一緒に住む関係だ。お前等は?」

簡潔に返し、トワの隣に座った拓磨の友人とやらにも視線を投げる。

「相沢は拓磨の友人で、俺はアイツの保護者みてぇなもんだ。それより、氷堂会長自らが一緒に住む関係ってのはなんだ?」

険の増した声音と言い回しに、トワがそこらにいる一般人ではないと気付いた。

それは俺の隣に同席した唐澤も同じなのか、警戒するように眼鏡の下の瞳を細める。

「貴方は、」

「あぁ、それとも氷堂組って奴は未成年者を監禁でもしてんのか?未成年者略取、人身売買…なんなら今すぐ現行犯で逮捕してもいいんだぜ」

クッ、と挑発するように口端を吊り上げたトワを俺は冷めた目で見返す。

「出来るものならやってみろ。もっともサツが拳銃を無断で持ち出したあげく、その銃を使って民間人が怪我をしたなんてことがバレてもいいならな」

無言で睨み合う二人の間を、温度のない鋭い声が切り裂いた。

「氷堂のトコに拓磨が世話になってる。今はそれだけ分かればいい」

それより、何で拓磨を一人にさせた。護衛をつけてたんじゃないのか。

大和の氷の視線に唐澤が答えた。

その日、拓磨が誘拐された事を省き教えてやると大和は難しい顔をした。

「…なら、俺のミスか。炎竜が怪しい動きを見せてた事もマキが帰って来てた事も俺は知っていたのに。炎竜だけでも先に潰しておけば」

「後悔する暇があるならソイツについて話せ。志郎とかいう奴の事も全てだ」

悔やむ大和の台詞を切って捨て、俺は元となった原因を聞き出す。

大和とトワは互いに顔を見合わせ、話すしかないと腹をくくったのかゆっくりとその口を開いた。

「…志郎は拓磨の家族だ。後藤 志郎、鴉の元総長。六年、拓磨と一緒に暮らして、一年前死んだ。さっきの奴、高遠 真木(タカトウ マキ)に殺された」

あれは後藤 拓磨の復讐、後藤 志郎を想っての。

トワの言葉を引き継ぎ、大和が続ける。

「拓磨にとっても志郎さんは唯一の家族だった。その志郎さんを拓磨は目の前で、それも志郎さんは拓磨を守って死んだ」

それを聞いてふと拓磨が人との触れ合いを、温もりをあれほど酷く拒絶した理由が分かった様な気がした。

徐々に明らかになる拓磨の過去に、深く踏み入る。

「何故拓磨が狙われた?殺されたならそれなりに騒ぎになるはずだ。サツだって事件なら動く」

「マキは妙に志郎に執着していた。いきなり現れて、志郎の視線が全部拓磨に向くのに我慢ならなかったったんだろ。馬鹿な奴だぜ」

事件になるまで気付かなかった俺も馬鹿だけどな、とトワは唇を歪めた。



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