08


Side 拓磨


ミシリ、と掴まれた右腕が軋み鈍痛が右腕から脳天に走り抜ける。

ジットリと不快な汗が吹き出し、背を伝って落ちた。

「―っぁあ!!」

それでも俺はトワから逃れようともがいた。

「チッ、往生際の悪ぃ」

グッとさらに体重をかけられコンクリの上に押し倒され、マウントポジションをとられる。

「…ぐぅ…っ…!」

胸が圧迫され、ズキリと胸にも鈍い痛みが走った。

もしかしたらあばらにも罅が入ってるかもしれない。

「痛い目見たくなかったら大人しくしろ」

背にのし掛かられトワは低い声で脅しをかける。

「―はっ、…っ…退けっ」

押しかかられる息苦しさに、気持ち悪くなってくる。

そんな時、コツリと俺の頭に何か塊が押し付けられた。

「大人しくしろって言ってんのが聞こえねぇのか」

カチリと独特な音がし、安全装置が外される。

「ト…ワ…、アンタ…」

俺が言葉を紡ぎ終える前にバタバタと足音が近付いてきた。

「―っ、トワ!お前何してんだよ!?」

その声に、トワは見て分かるだろと笑い、俺は恐る恐るそちらに視線を向けた。

「マキ、さん…!!」

そして、飛び込んできたその姿に息を飲み、目を見開いた。

「今助けてやるからな!」

そう言い近付いてくるその姿にドクリと心臓が大きく鼓動する。

元鴉幹部のマキ。

「ど…して…マキさんがここに…?」

声が震えた。

「それ以上俺達に近付くなマキ」

頭に押し付けられていた塊がなくなり、俺の視界に黒光りする拳銃を持つ手が飛び込んできた。

当然その手はトワのもので、銃口はマキに向けられている。

「おいトワ、冗談は…」

両手を上げ、困ったような表情を浮かべるマキは俺とトワの間で視線をさ迷わせる。

「マ、キ…さ…」

「すぐ助けてやるからな」

マキと視線が合うとマキは安心させるよう柔らかな笑みを浮かべた。

「―くっ、…っ…」

その笑みがグニャリと歪に歪む。酷い目眩に襲われ気持ちが悪い。

「トワ、馬鹿なことは止めてソイツを離せ」

「てめぇに指図される謂れはねぇ」

視界の端でゆっくりとトワの指先が引き金にかかるのが見えた。

俺は込み上げる吐き気を抑えて声を荒らげる。

「――止めろトワっ!」

ビクリとトワの意識がマキからそれ、拘束が緩んだ一瞬の隙をついて俺はトワの下から抜け出す。

殺させてなるものか!
コイツは――!!

身体は悲鳴を上げていたが精神力が痛みを上回り、俺はトワから拳銃を奪った。

その拍子に、トワの指先が引き金を引き、爆発するような大きな音が工場内に響き渡る。

―バァン!!

その音は敷地内にも届き、駆け付けた者達の鼓膜を震わせた。








Side 猛


工場に到着し、車から降りる。

その直ぐ後にバイクの集団が工場の敷地内に雪崩れ込み止まった。

日向の報告にあった暴走族か、と一瞥した先に嫌に存在感を放つ人物がいる。

赤い単車に黒のフルフェイス。メットを脱いだソイツは俺に鋭い視線を投げてきた。

ナイフの様に鋭く研ぎ澄まされた冷ややかな眼差し。

こいつが拓磨の友人か。

何となくそれだけで理解した。

「会長」

「あぁ。行くぞ」

唐澤に促され、ソイツから視線を外すと俺は歩を進めた。

その時、工場内からアノ音が聞こえた。

銃声だ。



Side 大和


工場に到着した時、すでに先客がいた。

それもどこかで見たことのある。

一瞬後、視線が絡み唐突に思い出す。

…氷堂だ。そんな奴が何故ここに。

ふっと視線が離れ、今はそんなことどうでもいいと思考を切り換える。

「フライはここで待機。ビーは俺について来い」

「「はい」」

氷堂の後を追う形で、工場内へ入ろうとした俺の耳にその音は飛び込んできた。

発砲音。



[ 32 ]

[*prev] [next#]
[top]



- ナノ -